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リトラクター入門(1-1)

はじめに

 これは、Michel CaillaudがRex Multiplex誌に連載した“LA FAMILLE DES RETRACTORS”を、私が翻訳したものである。恐らく誤訳がいくつかあると思うが、プロではないのでそこは大目にみて貰いたい。ただ、図面と手順については、大きなミスはない筈である。
 尚、原文はフランス語だが、Wordで写経したものも作ってある。もしそちらを読んでみたいという方がいらっしゃったらお送りしますので、その旨ご連絡下さい。

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 この論考は「n手戻してから、白がm手で詰める」というような設定のレトロプロブレムについてのものである。黒Kを詰めることは白の主要な目標であるが、黒Kを詰めること以外にも、逆に白Kを詰めること、あるいはキャスリングなど、より奇妙なものもそれになり得ることを、後で目にすることになるだろう。
 リトラクターは、以下の3種類に大別することができる。

(A) 過去の手順が厳密な解析によって決定でき、従って手順を遡る上で戦略を必要としないタイプ (analytical Retractors)
(B) 目的を達成しようとする白に対し黒が協力するタイプ (helped Retractors)
(C) 目的を達成しようとする白に対し黒が妨害するタイプ (defensive-type Retractors)

(A)分析的リトラクター

作品(1)と(2)においては、条件を満足するために局面を分析することが必要であり、またそれで十分である。

(1) H.A. Adamson (Fairy Chess Review 1949)

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白が1手戻し、それから1手詰にせよ (15+9)

 最終手は明らかである。つまり、1.Qd1#とすればよい。本質的なことは、どのようにして下段の駒の塊が生じたかを調査し、最終手を演繹的に導き出すことだ。

 a筋からe筋までの黒Pは駒取りなしで直進しており、a4,b4,b5,c4,そしてd3の白Pは5枚駒取りをしている。白に取られた残り2枚の黒駒はg筋とh筋の黒Pであり、これらは黒に待ち手を与えるためにuncaptureする必要がある。
 実際に逆算するのは、更に難しい。T.R.Dawsonは「Fairy Chess Reviewの解答者の中でL.Cerianiだけが解に辿り着き、それを完璧に解いた」と書いている。

1.Be5-h8 2.e4-e3 Bg3-e5 3.e5-e4 Bf4xPg3! 4.e6-e5 Qb1-c1 5.e7-e6 Rc1-f1 6.h4xSg3! Sf1xPg3! 7.Ke1-e2 Bd1-c2 8.g4-g3 Rc2-c1 9.g5-g4 Sc1-a2 10.g6-g5 Bf3-d1 11.Kd1-e1 Ba8-f3 12.Ke1-d1 Qa2-b1 13.Kd1-e1 Se2-c1 14.Ke1-d1 Sd4-e2 15.Kd1-e1 Sf3-d4 16.Ke2-d1 Se1-f3 17.Kd1-e2 B--- 18.Ke2-d1 Se3-f1 19.Kd1-e2 Sd5-e3 20.Ke2-d1 Sf3-e1 21.h5-h4 Rc1-c2 22.h6-h5 Rf1-c1 23.Kd1-e2 Se1-f3 24.Kc1-d1 Se3-d5 25.h7-h6 Sd1-e3 26.Kc2-c1 Sf3-e1 とすれば、とうとう局面をほぐすことができた!
つまり、Bh8をe5に戻し、1.Qd1#とすればよい。

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