私家版・近代将棋図式精選(84)
(166)河原泰之「WALTZ」
(近代将棋 平成6年4月号)
第83期塚田賞
「WALTZ」は、私の知る限り「微分龍追い」の一号局である。以下、そのユニークな機構を詳細に分析してみよう。
75桂、イ64玉、63桂成、同玉、55桂ロ52玉、61銀ハ42玉、92飛成、 33玉、
22歩成、13香、32龍、24玉、23龍、35玉、25龍、46玉、
イ同金は73と、64玉、76桂以下。
ロ同香は73と、52玉、55飛以下。
ハ同玉は65飛以下。
ハ53玉は52銀成、同玉、92飛成以下。
ハ41玉は11飛成、31金、52銀成、32玉、31龍以下。
(18手目の局面)
簡単な序を経ると、すぐに龍追いのコースが姿を現す。下段中央のと金の塊を剥がすことによって趣向が成立することも明らか。しかし、55桂を置いたまますぐに58角とすると、紛れAのように47桂と捨合をされて逃れ。よって、まずはこれを消すために一周することになる。
A36龍、55玉、56龍、64玉、65龍、53玉、62龍、43玉、52龍、33玉、
32龍、24玉、23龍、35玉、25龍、46玉、58角、56玉、47角、46玉、
A58角は47桂以下逃れ。
(38手目の局面)
今度は55桂がないので、58角が成立する。しかし、ここからが本番である。というのは、この後と金群を剥がすにはどう見ても桂が必要なのに、龍で玉を追い回すだけではいつまでたっても桂の顔を拝むことはできないのだ。一体どこに仕掛けがあるのだろうか?それを見つける為には、龍追いについての基本知識を敢えて一旦忘れ、白紙でこの局面を見つめる必要がある。
「36龍、55玉、56龍、64玉、65龍、53玉、62龍、43玉、63龍、ニ53桂、
52龍、33玉、32龍、24玉、23龍、35玉、25龍、46玉」
『36龍、55玉、56龍、64玉、65歩、ホ同桂、同龍、53玉、62龍、43玉、
52龍、33玉、32龍、24玉、23龍、35玉、25龍、46玉、58桂、同歩成、
同角、56玉、47角、46玉』
ニ飛合は52銀、42玉、53龍、同玉、73飛、64玉、63飛成、55玉、65龍、
46玉、76龍以下。
ニ金合は52銀、42玉、53龍、同玉、62銀以下。
ホ63玉は73と、同玉、76龍以下。
(80手目の局面)
作者が用意した答は「62龍-63龍として53桂を発生させること」だ!「寿」に代表されるように、これ迄の多くの龍追い趣向においては、サイクルの途中で中合或いは捨合の形で桂を入手する(そして、折り返し地点で歩を消費する)のが一般的だった。しかし本作では、玉方の桂は攻方が合駒を強制しないと現れない。しかも、その桂はすぐには入手できず、これを歩と交換するにはもう一周龍追いしなくてはならない。つまり、2サイクルかけてやっと持駒の歩を桂に変換したことになる訳だ。実に独創的な構造ではないか。
「36龍…63龍、53桂…46玉」
『36龍…65歩、同桂…58桂、同と…46玉』
「36龍…63龍、53桂…46玉」
『36龍…65歩、同桂…58桂、同と…46玉』
「36龍…63龍、53桂…46玉」
『36龍…65歩、同桂…58桂、同と…46玉』
「36龍…63龍、53桂…46玉」
36龍、55玉、56龍、64玉、65歩、同桂、同龍、53玉、62龍、43玉、
52龍、33玉、32龍、24玉、23龍、35玉、25龍、46玉、58桂、同香成、
同角、47桂、同香、37玉、29桂、同成香、38香、同玉、29龍、37玉、
38香迄255手詰。
(詰上がり図)
本作のように「複数サイクルで一つの効果を得る」という構造を持つ作品としては、他に「ゴゴノソラ」(今村 修、近代将棋 平成7年4月号)や「新・桃花源」(添川公司、詰パラ 平成18年8月号、第45期看寿賞)などがあるが、まだまだ作例は少ない。この分野への若手長編作家の挑戦を期待したい。
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