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私家版・近代将棋図式精選(01)

はじめに

 昭和という時代は間違いなく詰将棋の黄金時代であり、その中で近代将棋が果たしてきた役割は非常に大きなものがある。そのことは誰しも認めることだろう。近代将棋に入選することは長いこと作家にとってステイタスであり、塚田賞は多くの作家の憧れの的であった。その結果、近代将棋には詰将棋の歴史を塗り替えるような作品がいくつも発表されてきた。それを纏めて森田正司氏が精緻な解説を加えたのが、名著「近代将棋図式精選」だ。
 しかし、「図式精選」に収録された作品で一番新しいものでも昭和54年度の作品。もう30年も前のものだ。この後も近代将棋には傑作が多数発表されているにもかかわらず、この続編を作ろうという動きは今のところ無いようだ。(肝心の近代将棋が休刊しているのだから、無理もないが)次の世代へとバトンを渡す義務を誰も果たそうとしないまま、結果としてそういう傑作群が時の流れとともに忘れ去られてしまうのは余りにも惜しい。
 そこでこれから、塚田賞作品や私が気に入った作品を中心に、昭和55年以降の近代将棋の歴史を振り返ってみようと思う。この試みがいつか「続・近代将棋図式精選」を作る際の叩き台になれば嬉しいのだが。(尚、作品の取捨選択には私の嗜好と偏見が色濃く反映されますが、予めご了承下さい) 

          (1)上田吉一

1 上田吉一(59手詰)

          (近代将棋 昭和55年1月号)

27飛、15玉、26角、14玉、25銀、同玉、53角生、14玉、15歩、同玉、
26角打、25玉、17角、14玉、15歩、同玉、26角生、25玉、71角生、14玉、15歩、同玉、26角生、25玉、62角成、14玉、15歩、同玉、 26角、25玉、 53角成、14玉、15歩、同玉、26馬、14玉、36馬、25桂、 15歩、同玉、  25飛、同歩、27桂、24玉、51馬、34玉、35金、43玉、 55桂、32玉、   54馬、22玉、33馬、同玉、43桂成、22玉、32成桂、11玉、21成桂迄   59手詰。

 7手目53角生!作者の力を感じる一手だ。これ以降の限定移動がどれも明らかなのに対し、この最初のものだけは変化にその意味付けを持っている(34玉の変化で31に利きを作っている)。71角成の紛れも深く、14玉では15歩、同歩、26馬以下詰んでしまう。この紛れ順を34玉以下二歩禁で辛くも逃れさせ、かつ初手から48角の余詰も消している48歩が絶妙の配置。最後も馬捨てで締めて、一部の隙も無い仕上がり。
 尚、「極光21」では7手目71角成の紛れ順で、34玉に対して37飛の場合は36歩、同飛としてから43玉と逃げているが、この中合をせずにすぐ43玉でも詰まない筈(と、我が家の柿木先生は申しております)。

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