梁山泊訪問記(平成27年)その2

 電車の乗り継ぎは、特にミスもなくスムーズに進んだ。昨日の晩に梁山泊主人から最寄だと教えられた駅に予定通り降り立ち、もうほぼ紛れはない筈だった。ところが案に相違して、ここから徐々に雲行きが怪しくなる。まず、駅に設置された地図には、いくら見ても世田谷文学館が載っていない!勿論、自分でも地図は予め用意していたのだが、こちらも役に立たない。というのは、元々は別な駅で降りる心算だったので、手元の地図にはこの駅が載っていないのだ。手元に地図があっても、自分がその地図のどこに位置しているのか分からなくてはどうしようもない。
 それでもまだ、この時は楽観していた。時間は有り余っているし、アルコールを抜く意味でも、まずはこの辺を散歩してみようじゃないか。歩いているうちに、自分の地図に書かれている地名が出てくるかもしれないし。そう思って30分ほど線路沿いに歩いてみることにした。だが、しばらく歩いても全然かすりもしないので、とりあえずお昼を食べに駅周辺に戻る。それでもまだ12時だ。昼ご飯を食べてから、お巡りさんに道を尋ねてみよう。(駅前に交番があるのは最初から気付いていたのだが、謂わば何時でも取れる質駒のような、困った時の保険くらいに考えていたのだ)

 まあ、普通ならこれで楽勝の筈である。ところが今回は、このことが更にミッションの難度を上げることになってしまう。その警官は世田谷文学館を知らず、地図で調べてから「歩いて行くには少々遠いので、バスで行った方がいい」と忠告をくれた。「まあ、時間も少しロスしたし、バスで近くまで行けるのなら行ってもいいかな」などと、こちらもまだ緊迫感ゼロである。(後で思えば、あくまで徒歩に拘るべきだったのだ。そうすれば、以下にあるような徒労も必要としなかった)
 バス停の場所と、降りる停留所の名前を聞いて、そのバス停に向かう。そこで止まっていたバスの運転手に「ゴルフ練習場に止まりますか?」と尋ねると、止まるという。220円払ってバスに乗り込み、しばらく揺られてゴルフ練習場前で降りる。しかし、どうも変だ。世田谷文学館は南烏山の筈なのに、電信柱に書いてある地名表記は成城(だったっけ?)だ。どうもオカシイと気付いて、取り敢えず駅に戻ることにした。ううむ、どうやら迂回手順に嵌ってしまったらしい。
 何が間違っていたのかは、戻ってからバス停でもう一度路線図を見て漸く判明した。名称に「ゴルフ練習場」と入った停留所が2ヶ所あるのだ!つまり、私は運転手に単に「ゴルフ練習場」ではなく、ちゃんと「蘆花パークゴルフ練習場」と告げるべきだったのだ!そんなの、初めて乗る者にはわかんないよ…(泣)。しかも、どうやらそちらの路線は日曜には2時間に一本くらいしか走ってくれないようだ。ここで、これ以上のバス利用は断念。ではどうしよう?少々高いかもしれないが、タクシーにしようか。

 ところが、今度はいくら手を挙げてもタクシーが捕まらない。時間は2時を回り、さすがにだんだん焦ってくる。道を変えて何度かチャレンジしたが、来るタクシーは全部客を乗せていて空車は全然来ない。この時間帯、駅周辺の防犯カメラには、日照りのときの宮沢賢治のようにオロオロとうろつき回る田舎者の姿が何度も映っているに違いない。
 もう一度交番に行くのも癪なので、今度はコンビニで聞こうとしたが、ハイチュウを買ったついでに「世田谷文学館ってこの近くらしいんだけど、知らない?」と聞くと、「知りませんねえ」。何も得られずただ持駒だけ失うという、痛恨の手順前後を犯してしまう。ああ、慢心と焦燥が生み出した、悪手のスパイラル。もう万策尽きたのか?私は、最寄駅で降りていながらオカザキに会えないという悲しい運命の元に生まれたのか?
(まだ続く)

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