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オーソドックスの可能性(1-1)

 はじめに断っておくが、これはオーソドックスについてのかなり個人的な覚え書きである。この分野におけるテーマなりタスクなりを網羅した百科事典のような内容など、期待しないで欲しい。私はオーソドックスの専門家ではないし(むしろ素人だ)、それにそういう啓蒙書は既にいくつも出ている筈だ。

 フェアリーコンディションを含まず、黒が白に最大限抵抗するオーソドックスは、プロブレムの中でも最も伝統詰将棋に近いものだろう。しかしこの分野は現在パターンプレイに席巻されていて、余り創造的な作品が出現していないのは残念なことである(このあたり、未だに新構想が発表されている詰将棋とは対照的だ)。
 では、オーソドックスの面白さ或いは素晴らしさとは、本来どういうものなのか。それを私は、大まかではあるが4つに分類してみた。
(1)戦略的作品
(2)駒の運動性をテーマとした作品
(3)知恵の輪、パズル的作品
(4)その他

 これからこの順に沿って、作品を紹介していきたいと思っている。尚、この分類には重複部分がある(特に(2)(3))ので、作品の分類が多分に恣意的になることを、予めご了承頂きたい。

1、戦略的な作品

ここでいう「戦略的」とは、ただ闇雲に手を読むのではなく、作品の構造を読み取り、敵の弱点を突くという構成を持つ作品のことだ。まずは1作見て頂きたい。

(1-1) Jorgen Möller (Skakbladet 1911)

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           #3 (7+5)

 まずは1.Qd5? としてみよう(スレットは2.Qd8#だ)。これを黒が1...Rd2と受けるとQxc6で詰むが、1...Bxg5が旨い受けで、これで逃れ。白は、この黒Bを使った受けを躱す手段を考えなければならない。

           (1-1-1)

1-1-1 1.Qd5とした場合の逃れ図

           1.Qd5?は1...Bxg5で逃れる

 そこで、初手は1.Qh1!とする。この手の直接の狙いは2.Qh8#だ。当然黒はこれを1...Bb2と受けるが、そうさせておいて当初の狙い筋だった2.Qd5とするのが絶妙の構想。初手に1.Qd5?とした場合との違いは黒Bの位置だが、これがb2に変化しているために、初手では成立しなかった筋が成立しているのだ。というのは、黒Bb2の場合、3.Qd8#を受けようとすると必然的に2...Bf6と指すことになるが、これだとSe6がアンピンされるので3.Sexc7#とできるのである!

           (1-1-2)

1-1-2 Bb2としておくとSe6がアンピンされる

           2...Bf6は3.Sexc7#とできる

 纏めると、作意は以下のようになる。
Try: 1.Qd5? (2.Qd8#) but 1...Bxg5!
Key: 1.Qh1! (2.Qh8#) 1...Bb2 2.Qd5 Bf6/Rd2 3.Sexc7/Qxc6#

 私が「戦略的」という表現で表現している構成がご理解頂けただろうか?ちなみに、このような構成をRoman themeと呼ぶ。


(1-2) K. Nielsen (Skakbladet, 1926)

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           #4 (6+7)

 Kをd4から逃がさない為、白はQをa7-g1を結ぶライン上に置きながらスレットを探すことになる。そうすると1.Qa7から2.Qg7#という筋はすぐ目につくだろう。しかしこれには1...Rg3 がぴったりの受けで、以下2.Qf2 Rf3!と塞がれて逃れ。

           (1-2-1)

1-2-1 1.Qa7とした場合の逃れ図

           1.Qa7?は1...Rg3で逃れ

 Keyは1.Qg1だ(スレットはやはり2.Qg7#)。これに対して1...Rg3とするのは2.Se8+ Kf5 3.Qxg3 --- 4.Sg7#迄の詰なので、黒は1...Bg2とするが、そうしておいて2.Qa7とする。黒Bの位置を変えたことで、どんな効果が生じているのだろうか。

           (1-2-2)

1-2-2 2.Qa7とした局面

           2.Qa7とした局面

 先ほどと同様、黒は2...Rg3と受けるしかないが、ここで3.Qf2が狙いの1手だ!

           (1-2-3)

1-2-3 3.Qf2とした局面

           3.Qf2とした局面

 直接の狙い筋は4.Qf6#だが、これを受けようとして3...Rf3とすると4.Qc5#、又3...Bf3とするとQb2#迄の詰。つまり、黒Bがg2に移動した為に、f3でGrimshawが発生しているのだ。
纏めると、作意は以下のようになる。
Try : 1.Qa7?(2.Qg7#) but 1...Rg3 2.Qf2 Rf3!
Key : 1.Qg1! (2.Qg7#) 1...Bg2 2.Qa7 Rg3 3.Qf2! Rf3/Bf3 4.Qc5/Qb2#
(1...Rg3 2.Se8+ Kf5 3.Qxg3)

基本的な筋書きは(1-1)に似ているが、それにGrimshawを加え、Qのダイナミックな動きも増加させている。後続作として、理想的な展開ではなかろうか。

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