上田吉一インタビュー(その1)

 今日と明日は、今年の世界大会に合わせて発刊された上田さんの(恐らくは最後の)作品集“Aurora”に収められている上田さんへのインタビューを載せようと思う。多分この本を持っている人は少ないだろうし、おまけに原文は英語なので(インタビュアーがVlaicu CrisanとEric Huberだから仕方がないのだが)、誰かが翻訳しないと普通の詰キストの目に触れることはまずないだろう。ということで、明日から冬期講習というめちゃめちゃ忙しい時期ではあるが、高々5Pほどの分量だし気合で何とか訳をつけてみます。余裕があれば上田さんのパートは京都弁で訳したかったのだが、そういう事情なのでご容赦下さい(なお、一部分かり易くするために意訳した部分があります)。

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 どのようにして将棋(チェス)の手ほどきを受けましたか?詰将棋(チェスプロブレム)を初めて目にしたのはいつですか?どのようにして詰将棋(チェスプロブレム)を作り始めましたか?創作してみようと思わせるような特定の作品があったのですか?

 いつ将棋のルールを覚えたのか、いつ最初に詰将棋と出会ったのか、そしていつ詰将棋を作り始めたのか、私は全く覚えていない。いずれにせよ、ある本で(それは1750年に発行されたものだった)詰将棋の古図式を目にしたとき、私はそこに非常に魅力的な世界があると感じ、それが私にとっては運命的な出会いとなった。
 その後、二十歳頃に私は二人の熱心な詰将棋作家と会った。私と同様京都に住み、みな既に詰将棋の作品を発表していた。そして、そのうちの一人は、私の生涯の友となる若島正氏だった。

 私は一度もチェスを指したことがない。チェスプロブレムというものがあることは知っていたが、全く興味を持てなかった。若島氏は私に、基本的なチェスのルール(キャスリング、アンパサン、プロモーションなど)を教えてくれた。
 私が解いてみようと思った最初のチェスプロブレムは、Michel Caillaudが創ったプルーフゲームだ。非常に驚かされるのは、隅にある黒Rが中央に出てきてテンポを失い、また元の位置に戻っていくことだ。私はそれを解くのに、毎日午後8時から12時まで4時間考えた。そして3日目に、とうとう私はこの信じ難い作意を発見したのだ。

Michel Caillaud (Die Schwalbe 1981, 1st Prize)
dedicated to W. Franken

画像1

                                        Proof Game in 30.0 moves (15+14)

 そのとき私は、詰将棋での経験から、この作品はチェスプロブレムにおける年間最優秀賞に値すると直感した。解けたときはあまりに興奮してしまい、眠れなかったほどだ。そしてこのことから、チェスプロブレムは決して無視できないという結論に達したのだった。しかしこの経験は、私をチェスプロブレム創作に誘うものではなかった。

 私がチェスプロブレムを作り始めたのは、全くの偶然からである。私は若島氏から、フィンランドで開催されるWCCCに参加する心算であること、そしてそこで私の作品についてレクチャーするということを聞いた。そのため私は、簡単にチェス盤に移植できるフェアリー詰将棋をいくつか創作することになった。その時はチェスプロブレムを作る気は全くなかったのだが、若島氏がプロブレムパラダイスの発行に着手したので、私も彼に何作か作品を提供しなければならなくなった。私には詰将棋があったので、チェスプロブレムを作る必要はなかったのだ。しかし、初心者として臨むうちに、徐々にチェスプロブレムの創作が詰将棋の創作と同じくらい楽しいという事実に気付き始めたのだった。

 将棋やチェスと関係のある(又はない)創造的な趣味を持っていますか?

私の一番の趣味は音楽鑑賞だ。20世紀のクラシックに非常に興味を持っている。二番目の趣味は詰将棋創作で、三番目の趣味がチェスプロブレムの創作だ。

 あなたは創作過程において決してコンピュータを使わないと聞いています。ではどうやって完全性を確認しているのですか?あなたの手助けをしてくれる解答者がいるのですか?

 完全性を調べるのに、私は自分自身しか頼らない。詰将棋を創作するときでさえコンピュータを使わないので、時々知り合いには時代遅れだと言われることもある。私が創作を始めたときコンピュータのようなものはなかったし、これからも使う心算は全くない。

 作品の中でお気に入りのテーマというのはありますか?それらのテーマからあなたは何を連想しますか?

 駒の運動によって生み出されるリズム(往復運動ではない)が、若い頃からの私の好きなテーマだ。私の場合、そのようなリズムの意識は恐らく音楽の影響を表しているのだろう。それは古図式の中にも見出すことができる。
 もう一つ好きなテーマは合駒だ。それはあたかも新しい駒が突如盤上に出現するかのようだ。チェスプロブレムにおいては、プロモーションがこの点で合駒に少し似ているかもしれない。
 これら二つの理由をふまえると、恐らく私のチェスプロブレムは音楽の構成や詰将棋の創作の影響をじかに受けていると言ってもいいだろう。プロモーションに関しては、私は複数解を好む。このチェスプロブレムの形式は、いくつかの楽曲からなる組曲のように見える。

 あなたは基本的に作品を、海外の雑誌ではなくプロパラに投稿しています。それはあなたが、作品というものを芸術的な愉しみの純粋な形式とみなしているからなのでしょうか?

 私は外国語を読めないし書けない。だから私の作品を海外の雑誌に投稿するというのは私の手に余る。そういう訳で、私は自作をプロパラにしか送らないのだ。

 今までに弟子を取ろうと思ったことはありますか?創作の初心者に対して、何とアドバイスしますか?

 詰将棋の創作というのは単に楽しい趣味であって、そこには教師も生徒もいない。若い作家たちに私がアドバイスとして言えることは「良い作品集を読み、できるだけ多くの傑作を鑑賞しなさい」ということだけだ。チェスプロブレムに関しては、私はそれをとても楽しんでいると言えるだけだ。

(続く)

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