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M.Caillaudレトロプロブレム傑作選(49)

(49) Michel Caillaud (StrateGems 1999, 1st Prize)

局面をほぐせ (15+13)

 なくなった駒は白がSだけで、黒はQPPの3枚。白側の駒取りはPa5xb6とPd5xc6が確定で、一方黒もPg7xSf6が見えている。また、a筋の黒Pが直進して成っていることも分かる。白はSをいくらでも動かせるが、対照的に黒はこの局面において可能な戻し手がPd7-d6しかない。このことから、白は黒のretro-stalemateを防ぐ為の手段を与えてあげる必要がありそうだ。では、実際に逆算をしてみよう。
 
 まず、Retract:1.Sb4-a6 d7-d6は必然。

           (図1)

 ここからすぐに右下の膠着状態をほぐそうとしても、2.Sd3-c1 Rd2-e2 3.Re2-e1 ??? となって、黒の逆算手順が尽きてしまう。

           (図2)

 この局面における黒の戻し手を作り出す為に、h筋の黒Pをuncaptureするというのは、古くから知られた筋である。そしてそれを実現するために、白Sが盤上を所狭しと乱舞する。図1からの逆算手順は、次のようなものだ。

2.Sd3-b4 Rd2-e2 3.Sc1-d3 Re2-d2+ 4.Sb3-c1 Ba2-b1 5.Sa5-b3 Bb1-a2+ 6.Sc4-a5 Ba2-b1 7.Sd6-c4 Bb1-a2+ 8.Sf5-d6 Rg5-g4 9.Sh6-f5 Rg4-g5+ 10.Sf5xPh6

           (図3)

 あたかも白Sがチェックをかけさせ、黒がそれを回避しているような形で白Sが位置変更を繰り返すことで、予定通り黒Ph6を発生させることに成功した。この準備工作が無事済んだら、あとは今まで来た道をもう一度辿って戻るだけ。こういう「趣向的な手順で事前工作をしておくことで、問題を解決する」という知恵の輪的な構造は、我々詰キストには馴染み深いところだ。

10...Rg5-g4 11.Sd6-f5 Rg4-g5+ 12.Sc4-d6 Ba2-b1 13.Sa5-c4 Bb1-a2+ 14.Sb3-a5 Ba2-b1 15.Sc1-b3 Bb1-a2+ 16.Sd3-c1 Rd2-e2 17.Re2-e1

           (図4)

 図2にPh6が加わった局面が得られた。これにより、以下のように局面をほぐすことが可能になる。

17...h7-h6 18.Re1-f1 Sf1-h2 19.g5-g6 Bh2-g3 20.Bg3-f2 Sf2-d1 21.Rc1-e1 Rd1-d2 22.Sb4-d3 Re1-d1+ 23.Rd2-e2...

           (図5)

 チェック絡みのラインの開閉も、手詰まりを防ぐ為のPのuncaptureも、素材としては既存のものである。しかし本作は、それらを巧みに組み合わせることで、十分魅力的な作品になっている。こういうところにも、Caillaudのセンスの良さが感じられる。

 尚、駒種が変わっただけで基本構造はほぼ同様の作品も発表されているので、以下に引用しておく。興味のある方は是非解図してみて下さい。

(49-a) Michel Caillaud (StrateGems 2001, 1st Prize)

局面をほぐせ (13+15)

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