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チェスプロブレムの世界(5-3)門脇芳雄

4. Pattern(詰手順のパターン化)

 とどのつまり、新しいものを求めてやまないチェスプロブレムの前衛作家は詰棋人が想像だにしないものに興味を持ち始めた。それは「詰手順のパターン化」である。ある詰手=A、別の詰手=Bなどと符号を付け、AやBなどが「紛れ」や「本手順」や「Set」の中などに色々の形(パターン)で現れるように工夫するのである。「詰手順のパターン」には色々な種類があるが、その中で代表的なCyclic-pattern「循環パターン」を何題か紹介しよう。

(E)Thomas R. Dawson (The Problemist 1929)

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           #2(9+5)

正解=1.Sc4(Zugzwang. 手待ち)

①Rが縦に好きな場所に動くと 2.Qg2迄(A)
②但しRb4なら 2.Sa5迄(B)
③Bが右上/左下方向に動くと 2.Sa5迄(B)
④但しBe3なら 2.Qa2迄(A)
⑤Rが水平方向に勝手に動くと 2.Qb6迄(C)
⑥但しRe3なら 2.Rh6迄(D)
⑦Bが左上/右下方向に動くと 2.Rh6迄(D)
⑧但しBb4なら 2.Qb6迄(C)

(E)題はCorrection(修正)をパターン化したものである。初手1.Sc4に対し受方がRを縦に動かして受けたとする。すると2.Qg2迄の詰みなので、受方は一寸修正して、Rb4と攻方の裏をかいてみると、今度は2.Sa5迄の詰み。それではと、受方がBを右上方面に動かしてみると相変わらず2.Sa5迄の詰み。そこで受方はBe3と修正してみると、今度は最初の時と同じ2.Qg2迄の詰み。これを図式化すると、①=(A)、②=(B)、③=(B)、④=(A)となる。
 同様に、⑤=(C)、⑥=(D)、⑦=(D)、⑧=(C)である。詰手順の内容が面白いかどうかが問題ではなく、作者はこの「型式」を創作しようとしたものである。

(F)Mukkur Parthasarathy (Die Schwalbe 1963, 1st HM)

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           #2(12+6)

正解=1.Pg7(Zugzwang. 手待ち)

①Qを水平方向に勝手に動かすと 2.Pg8=Q(A)迄
②Qa2+と修正すると 2.Ba2(B)迄
③Qを垂直方向に勝手に動かすと 2.Ba2(B)迄
④Qe4と修正すると 2.Qd6(C)迄
⑤Sを勝手な場所に動かすと 2.Qd6(C)迄
⑥Se5と修正すると 2.Qd4(D)迄
⑦Bを左上/右下方向に動かすと 2.Qd4(D)迄
⑧Bd8+と修正すると 2.Rd8(E)迄
⑨Bを右上/左下方向に動かすと 2.Rd8(E)迄
⑩Be5と修正すると 2.Pg8=Q(A)迄

(F)題は大規模なCyclic-correction(循環修正)の作品。ある受方駒のランダムな動き→それだと詰められるので修正→次の駒のランダムな動き→修正…の繰り返しが、10回で1回転する作品である。創作の苦労は想像を絶する。

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