見出し画像

オーソドックスの可能性(2-5)

 今日は、2枚の駒がルントラウフする作品を3題紹介しよう。まずはこんなカワイイものから。

(2-9) Peter Rösler (Die Schwalbe 1986)

画像1

           #7 (3+4)

 初手1.Sd2とすると、どう見ても黒には次に2.Qb1を防ぐ手段がない。ではもうこれで終わりかというと、勿論そう話は簡単ではない。黒には奥の手があるのだ。半ばやけくそで1...Ra6+とぶつけられると、白はこれをKで取る訳にはいかない(取るとステイルメイトだ)。

           (2-9-1)

2-9-1 1...Ra6+の局面

           1...Ra6+とした局面

 仕方なく2.Kc5と逃げると、更に黒は2...Rc6+と追撃してくる。なにしろ、チェックしないとQb1迄の詰なので、黒も必死なのだ(笑)。先ほどと同様の理由でこれも取れないので、白は3.Kxb4と逃げ、以下3...Rc4+ 4.Ka5 Ra4+ 5.Kb6 Ra6+という展開が必然となる。

           (2-9-2)

2-9-2 5...Ra6+の局面

           5.Ra6+とした局面

 しかし2度目の5...Ra6+を、今度は白Kで取ることができる。何故なら、黒Pb4が消えた為にステイルメイトが解消されているからだ!6.Kxa6に対して黒の残された手は6...b4しかなく、漸く7.Qb1#で幕が下りる。
纏めると、作意は以下の通りになる。

1.Sd2 Ra6+ 2.Kc5 Rc6+ 3.Kxb4 Rc4+ 4.Ka5 Ra4+ 5.Kb6 Ra6+ 6.Kxa6 b4 7.Qb1#

 白Kと黒Rの追いかけっこを、最小限の配置で表現した本作、愛すべき小品ではなかろうか。

(2-10) Wolfgang Fichtner (Freie Presse (Chemnitz) 1971)

画像4

           #9 (8+6)

 まず1.Be8とすると(スレットは2.Bf7#)、黒は1...Rc7の1手。続いて2.Bg6とすると(スレットは3.Be4#)、今度も黒は2...Re7とするしかない。以下同様にして、3.Bxc2(4.Bb3#) Re3 4.Ba4(5.Bc6#) Rc3とすると、初形から黒Pc2がなくなった局面が得られる。

           (2-10-1)

2-10-1 4...Rc3の局面

           4...Rc3の局面

 それでも白Bは、更に同じコースを5-6.Ba4-e8-g6と回り続ける(勿論黒RもRc3-c7-e7となる)。黒Pを消去した意図が判明するのは、その次の手だ。

           (2-10-2)

2-10-2 6...Re7の局面

           6...Re7の局面

 この瞬間に7.Bb1!とするのが狙いの1手(スレットは8.Ba2#)。黒は7...Re2とせざるを得ないが、そこで8.Bd3が決め手だ。

           (2-10-3)

2-10-2 8.Bd3の局面

           8.Bd3の局面

 スレットは8.Bc4だが、これを8...Rc2と受けても、8...Se3と受けても、いずれにせよ9.Be4#で詰。纏めると、作意順は以下のようになる。

1.Be8! Rc7 2.Bg6 Re7 3.Bxc2 Re3 4.Ba4 Rc3 5.Be8 Rc7 6.Bg6 Re7 7.Bb1 Re2 8. Bd3 Rc2/Se3 9.Be4/Be4#

 白Bと黒Rが明快な原理で、どちらも2回転近くルントラウフする。熱心家は是非、「何故4.Bb1?や7.Bd3?が成立しないのか」を調べてみて欲しい。作者の作意設定の巧妙さに感心すること請け合いである。


(2-11) Hans Peter Rehm (Deutsche Schachblatter 1977, 1st Prize)

画像8

            #10 (9+12)

 初手は1.Rg6だ。これは2.Be6#をスレットに持つので、黒は1...Ra6とする1手。続いて白が2.Rg4(スレットは3.Rxd4#)としたとき、どう受けるのが正着だろうか?一見、2...Ra4というのが自然に見えるが…。

           (2-11-1)

2-11-1 2...Ra4の局面

           2...Ra4の局面

 この場合は3.c4+ Rxc4としてから4.Rg6と戻るのが旨い手。5.Rxd6#を受ける為には4...Rc6とせざるを得ないが、c6が埋まった為に5.Be6#迄の詰となる。この筋を消さなければならないので、黒の正着は2...Be4!だと分かる。詰将棋でいえば移動捨合のような、「大駒は近づけて受けよ」の格言通りの1手だ。

           (2-11-2)

2-11-2 2...Be4の局面

           2...Be4の局面

 これは白Rで取るしかなく、以下3...Ra4 4.c4+ Rxc4 5.Re6 Rc6と進むと次図になる。ここまでで、双方のRがそれぞれ同じ大きさの軌道を一回転した訳だ。

           (2-11-3)

2-11-3 2...Rc6の局面

           5...Rc6の局面

 この後の展開は予想しやすいだろう。白が再度Re6-g6-g4とすれば、もうe4に移動捨合は利かず、黒は2...Ra4とした場合の変化順をそのままなぞる他ない。以上より、作意順は以下のようになる。

1.Rg6 Ra6 2.Rg4 Be4 3.Rxe4 Ra4 4.c4+ Rxc4 5.Re6 Rc6 6.Rg6 Ra6 7.Rg4 Ra4 8.c4+ Rxc4 9.Rg6 Rc6 10.Be6#

白Rが1回転半、そして黒Rは2回転!如何にもRehmらしい重厚な表現だが、ルントラウフを反復させる為のロジックは明快で、むしろその点に作者の確かな創作力が感じられる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?