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プロパラを振り返る(152)

 前回に引き続き、‘FIDE ALBUM 2007-2009’からの作品紹介。今日は橋本さんの解説です。

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H2 Andrey Kornilov, Thierry Le Gleuher (Die Schwalbe 2009)

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                                         #1 (12+12)

 #1とあるがこれは0...Kxc7 1.Qd8#で詰むというだけのこと。問われているのは局面の過去だ。とにかくこの形をほぐさねばならない。
 レトロの解図の第一ステップは駒取りの計算だが、Pによる明示的な取り跡がない局面で、慣れない人は戸惑うかもしれない。だが実は多くのヒントが隠されている。まず最終手は当然Qによる取り。次にc,e,f,g,h筋のP。これが駒取りを示している。また、白のaPが見えないが、これはa筋のまま取られたか、axbとしたかのいずれかだ。ここまでで8回中7回の取りが見える。さらに言えば、黒のPの形は黒Pによる取りが偶数であることを示している。あとはお考えいただきたい。
 先を急ごう。最終手はQf8xQe8しかない。それ以外の駒取りとそれによる効果は期待できない。Pa6とPb5をテンポに使いつつ、密集した駒を入れ替えて打開を図るのだ。
 試しに逆算を進めてみると、10手くらいは試行錯誤でなんとかなる。そして、そこまでにPによるテンポは白のPb2-b3を残して使い切ってしまう。
 この先を場当たりで進めるのは危険だ。双方のSの移動範囲が限定されているといった手掛かりはあるが、似たような局面が延々と続く中で居場所を、そして手番すら見失いそうになってしまう。それだけではない。残されたテンポをどこで使うのか、見極めるのは容易ではない。
 原点に戻ろう。局面はどこからどうほぐれるのか、どんな形にしておけばよいのか、考えてみる。得られる解答はこうだ。白Kをf7に移動し、e6を突破口に使う。そのとき、黒Rをd7に、白Sをd8に入れておかねばならない。そしてSをe6から解放するのだ。
 そんな形を作るにはまず黒Qを一歩ずつ入れ替えながら右辺に移動し、次に黒Rをやはり一歩ずつd筋に移動する手順が必要になる。ここまで考えるとポイントが見えてくる。例えばQd8をe8に移動するには白Sをf7に置いてQe8-d8にSd8-f7と対応できるようにしておく。黒Qをさらにf8に移動するときには白Qをf7に置いて入れ替えが出来る形を作ればよい。
 このように、キーになる局面がいくつか想定できる。それらを念頭に、Pb3によるテンポをなるべく温存しつつ逆算を進めるのだ。作者の示す手順は以下のとおりである。
Retro:1.Qf8xQe8+ Qd8-e8 2.Qe8-f8 a7-a6 3.Rf8-f7 Sf7-h6 4.Sh6-g8 Rg8-h8 5.b4-b5 Sh8-f7 6.Qf7-e8 Qe8-d8 7.b3-b4 Qd8-e8 8.Re8-f8 Rf8-g8 9.Qg8-f7 Rf7-f8 10.Bf8-g7 Rg7-f7

           途中1図

H2 Andrey Kornilov, Thierry Le Gleuher(#1) 図1

11.Sf7-h6 Rh6-h7 12.Qh7-g8 Rg8-g7 13.Bg7-f8 Rf8-g8 14.Qg8-h7 Rh7-h6 15.Bh6-g7 Rg7-h7 16.Qh7-g8 Rg8-f8 17.Rf8-e8

           途中2図

H2 Andrey Kornilov, Thierry Le Gleuher(#1) 図2

17...Qe8-d8 18.Sd8-f7 Sf7-h8 19.Qh8-h7 Rh7-g7 20.Qg7-h8 Rh8-h7 21.Qh7-g7 Rg7-g8 22.Qg8-h7 Rh7-g7 23.Bg7-h6 Sh6-f7 24.Qf7-g8 Rg8-h8 25.Bh8-g7 Rg7-g8 26.Rg8-f8

           途中3図

H2 Andrey Kornilov, Thierry Le Gleuher(#1) 図3

26...Qf8-e8 27.Qe8-f7 Rf7-g7 28.b2-b3 Qg7-f8 29.Rf8-g8 Qg8-g7 30.Bg7-h8 Qh8-g8 31.Rg8-f8 Rf8-f7 32.Qf7-e8

           途中4図

H2 Andrey Kornilov, Thierry Le Gleuher(#1) 図4

32...Re8-f8 33.Qf8-f7 Sf7-h6 34.Bh6-g7 Qg7-h8 35.Rh8-g8 Qg8-g7 36.Qg7-f8 Qf8-g8 37.Rg8-h8 Rh8-h7 38.Qh7-g7 Qg7-f8 39.Rf8-g8 Rg8-h8 40.Qh8-h7 Qh7-g7 41.Bg7-h6 Sh6-f7 42.Sf7-d8

           途中5図

H2 Andrey Kornilov, Thierry Le Gleuher(#1) 図5

42...Rd8-e8 43.Re8-f8 Rd7-d8 44.Sd8-f7+ Sf7-h6 45.Rf8-e8 Sh6-f7 46.Rf7-f8 Re8-g8 47.Rf8-f7 Sg8-h6 48.Kf7-e6 Qh6-h7 49.Se6-d8...

           途中6図

H2 Andrey Kornilov, Thierry Le Gleuher(#1) 図6

 入れ替えパズルである。通常のレトロとは違った味わいだが、それは単なる試行錯誤ではない。その底にしっかりとした論理の筋が通っている。そして、この内容をコンパクトに収めた、雑味を感じさせぬ構図がまた美しい。


H26 Michel Caillaud (Mat Plus 2007, 1st Prize)

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                                        Proof Game in 18.5 moves (14+15)

1.e4 Sc6 2.Qg4 Sa5 3.Qe6 dxe6 4.Ba6 Qd3 5.Sh3 Qxc2 6.0-0 Bd7 7.Re1 Rd8 8.Re3 Bc8 9.Rg3 Rd4 10.Rxg7 Rb4 11.Rg3 Bh6 12.Re3 Kf8 13.Re1 Be3 14.Kf1 Sh6 15.Ke2 Rg8 16.Rh1 Rg5 17.Ke1 Rc5 18.Bf1 Sc4 19.Sg1

 黒の動きは限られている。そこで白はPg7を原型のまま取らねばならないのだが、Qe6と捨ててしまうと取りに行けるのはRh1しか残っていない。これを出すために白の右辺が一旦全て動き、原型に戻らねばならない。逆キャスリングもほとんど必然の動作である。
 駒取り目的のスイッチバックものである。まずはテーマを楽しもう。そして、それがどのように作られているかにも着目しておきたい。序盤の双方のQの動きだけでシナリオの骨格が成立している。この、簡潔かつ全体を見通したスキーム、ここに一流の証を感じるというのはマニアックに過ぎるだろうか。


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