上田吉一インタビュー(その2)

 ある特定の作家の作品が好きだということはありますか?もしそうなら、その作家は誰で、どんな点に魅力を感じているのですか?

 特別に誰が好きだとか嫌いだというものはない。なぜなら、私が今までに見てきた作品は少ないからだ。しかし、私は二人の作家、Erich BartelとVaclav Kotesovecには非常に関心を持っている。彼らは自分自身の世界を作り上げていると感じる。Kotesovec氏の作品は私には難しすぎて解けないが、それらのうちのいくつかは詰将棋と共通する何かがあると私は思う。Bartel氏の作品はとても愉快だ。

 今までに発表された他の作家の作品で「これが私の作だったら!」と思ったものはありますか?その作品を挙げて頂きたいのですが(できればチェスプロブレムで)

 そういう作品は沢山ある。以下には私がとても刺激を受けたチェスプロブレムを4作挙げておこう。

(A)Romeo Bedoni(Phenix 1990)

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           H=2 (2+3)
           Zebra b8
           b/c/d)Zebra→Giraffe/Triton/B+S+(4,5)-leaper

a)1.d1=Z cxb8=Q 2.Zg3 Qxg3=
b)1.d1=GI cxb8=B 2.GIh2 Bxh2=
c)1.d5=S cxb8=TR 2.Sb2 TRxb2-b1=
d)1.d1=R cxb8=X 2.Rf5 Xc6=
(X=B+S+(4,5)-leaper)


(B)Hans Peter Rehm(Die Schwalbe 1970, 3rd Prize)

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           S#2 Maximummer (11+8)
           Grasshopper a7; Locust h2
           Nightrider g6; Camelrider h5
           Zebra b1; Equihopper a3

1.Rh6! zz
1...axb1=Q 2.Sc2 Qxb5#
1...axb1=R 2.Qb2 Rxd1#
1...axb1=B 2.Sd3 Bxd3#
1...axb1=S 2.Rxd2+ Sxd2#
1...axb1=N 2.Sd5 Nxd5#
1...axb1=Z 2.Qd4+ Zxd4#
1...axb1=CR 2.CRxb7 CRd7#
1...axb1=EQ+ 2.Rc1 EQf3#
1...axb1=L 2.EQc5 Lxe1#

(C)Petko A. Petkov(feenschach 1985 1st Prize)

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           SH#4 3sols.(6+13)
           Grasshopper 1+1
           Nightrider 1+2

1.Bc4 2.Bxd5 3.Bb7 4.Nb6 Nc6#
1.Nf2 2.Nxb4 3.Nd8 4.Rb7 Rc6#
1.Rf4 2.Rxf6 3.Rb6 4.Bd8 Bc6#

(D)Christian Poisson(Phenix 1990, 4th HM)

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           H#2 4sols.(3+8+3)
           Pao b1; Zebra f8
           Locust b8,d8
           Neutral Grasshopper a5
           Neutral P a7,f2

1.f1=nQ nQf4 2.Sb7 axb8=nR#
1.f1=nB nBa6+ 2.Kc7 a8=nS#
1.f1=nZ nZd4 2.nGe5 a8=nG#
1.Sf7 axb8=nLO 2.f1=nPA+ nPAxf8#


 チェスプロブレムを詰将棋を比較して、どう思いますか?その主要な類似点と相違点は何だと思いますか?

 私がチェスプロブレムについて知っていることは、ほんの僅かなことだ。盤や駒やテーマは似ているが、それは重要なことではないだろう。私の考えでは、その重要な相違点はそのルールにある。詰将棋の本質的なルールは以下のようなものだ。
(1)取った駒は持駒になり、また使用できる
(2)攻方は王手をかけなくてはならない
 このルールが決まってから300年間、それらはチェスプロブレムとは全く異なる芸術的な表現を生み出し続けてきた。海外では、詰将棋がどんなものであるか殆ど知られていないと思う。同様に、日本においてはチェスプロブレムがどんなものであるか知る者は殆どいない。お互いを知るプロセスはまた始まったばかりだ。我々の文化交流が進めば、我々の類似点と相違点がゆっくりと明らかになるだろうと私は思う。

 若島氏の言によると、あなたは創作について誰からも教わったことがないということですが、あなたに最高峰の作図技術をもたらした最も重要な秘密は何だと考えていますか?

 詰将棋の創作について言えば、すべての作家は自らを師としているし、誰かが他の作家に創作法を伝授したという話も聞いたことがない。今では、まだ十代の若い作家たちが増えてきているが、彼らもまた独力で創作技術を磨いているに違いないと思う。私はチェスプロブレムの創作法について誰にも教わらなかった。チェスプロブレム界でもそうではないのか?
 私の考えでは、今まで誰も詰将棋の創作について最高峰に達した作家はいない。その理由は、詰将棋が極度に複雑であり、測り難いほどに深遠だからだ。新しいアイデアや表現の発達には限りがないだろう。誰かがどのようにして創作技術の頂点に達するのか、私には想像すらできない。チェスプロブレムの世界には、そのような作家がいるのですか?

 創作の過程について教えて下さい。どのようにして創作を始め、それが完成したといつ分かるのですか?創作過程において、あなたはどのような決定をしているのですか?詰将棋とチェスプロブレムを作る過程で、何か違いがありますか?

 私が創作を始めるのは、何か新しい素材を見付け、それが私に創作を促してきた時だ。普通、創作を終えたとき、創作過程というのは完全に頭の中から消え去ってしまう。
私の考えでは、創作の方法は様々であり、それ故表現の方法もまた様々だ。
 私は創作中にどのような種類の決定もできないのだ。なぜなら、私は意識的な決定をするには集中し過ぎているから。
 創作を終えた後、私は作品の完全性を確認する。作品が完全かどうかは最も重要な事項であるし、それには非常に時間がかかる。作品の完全性を確信したら、私は次の段階に入る。ここで創作が終了したという判定基準を、私は何も持っていない。だから、私はそこからあらゆる可能性を考える。切り捨てるべきか、それとも付け加えるべきか?あるいは、完全に作り直すべきか?この第二段階において、最初の図から多くのバージョンが得られ、そして私はそれらのうちどれを選ぶかという問いに直面する。しかしこの決定は常に妥協の産物であり、これで完璧だと思えることは滅多にない。詰将棋の場合だが、いつも私は作品を友人たちに見てもらい、意見を聞き、コンピュータチェックをかけてもらう。その後で、それが発表に値するかどうかを決めるのだ。

 詰将棋の創作とチェスプロブレムの創作は全く異なる。なぜならそれらは異なったルールを採用しているからだ。

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 このインタビューは、CrisanとHuberが直接上田さんに話を伺うという形ではなく、英文で若島さんに質問を送り、それを若島さんが翻訳して上田さんに見せ、今度は上田さんの日本語を若島さんが英語に翻訳して彼らに送り…といった、やや特殊な形で行われたものである。中には「弟子をとらないのか」といった、外人ならでは(?)の質問もあるが、逆に外人だからこそ聞けたような、我々にとっては新鮮な質問もあって興味深い。

 実は、全国大会で上田さんとお会いして街を歩きながらお話を伺ったときに、上田さんは「こっちはチェスプロブレムを一生懸命勉強しているのに、向こうは詰将棋のことを全然知らない訳だ。でも『お前たちも詰将棋を勉強しろ』と言うとケンカになっちゃうし…(苦笑)」とこぼされていたのだが、そういう西洋人の無神経さに半ば呆れながらも真摯に答えようとする、どちらの世界においても遥かな高みに達することができた稀有な作家(本人は絶対認めないだろうが)への貴重なインタビューとなっていることは間違いない。


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