見出し画像

チェスプロブレムの世界(5-1)門脇芳雄

 今回はいよいよ「2手問題」の最終回である。彼らが到達した最前衛の境地について述べる。
 CPIA(Chess Problem: Introduction to an Art)の記述に従って、次の順に述べることにする。大体はテーマの発展の歴史順である。

1.Separation(詰手順限定のテーマ)既述
2.Change(構成の変換のテーマ)既述
3.Try(紛れの構成のテーマ)
4.Pattern(詰手順のパターン化)

3.Tryのテーマ(「紛れ」の構成)

「紛れ」の高級な表現と云うと、どういうことが考えられるだろう。たいていの読者は大道棋の妙防(紛れ筋)や大道五目の奇抜な受け方などを連想されるであろう。もちろんチェスプロブレムには、こう云った紛れ筋がふんだんに登場するが、前衛作家達が追求したのは、紛れで解答者を引っかけることではなく、「紛れを美しく構成する」ことだった。


(A)Jean Morice (British Chess Problem Society 1959, 1st Prize)

画像1

           #2(10+8)

Try: 1.Re4 (2.Sc7#)
1...Rdxe5 2.Qxa2#
1...Rhxe5 2.Qg4#
1...Bxe5 2.Qg6#
1...Sxe5 2.Qg8#
but 1...Rd7!

1.Qe4! (2.Sc7#)
1...Rdxe5 2.Sc5#
1...Rhxe5 2.Bf5#
1...Bxe5 2.Rg6#
1...Sxe5 2.Bg8#

(A)題はSelf-pin(守備方が自分の駒を自ら釘付けするテーマ)と「紛れ-詰め方の変換」を画いた作品である。紛れの1.Re4がしゃれた紛れで、4通りの変化が何れもSelf-pinで詰め上る。これが作者の画いた構成に違いないと思わせておいて、正解の1.Qe4はこの読み筋を全部白紙に戻してしまうドンデン返し。しかもこの本手順(受け方の応手は紛れの時と同じ)は新しく別のSelf-pinを構成している構成変換の妙を画いた作品である。

(B)Michael Lipton (The Problemist 1966, Special Prize)

画像2

           #2(10+12)

Try
①1.g4? (1...Rxg4/Bxg4 2.Be2/Rd4#)
②1.f3? (1...Rxf3/Bxf3 2.Be2/Rc3#)
③1.f4? (1...Rxf4/Bxf4 2.Se5/Rd4#)
④1.Bg3? (1...Rxg3/Bxg3 2.Sd6/Rc3#)
⑤1.Bf4? (1...Rxf4/Bxf4 2.Sd6/Rd4#)
⑥1.Rg3? (1...Rxg3/Bxg3 2.Se5/Se3#)
⑦1.Sg3? (1...Rxg3/Bxg3 2.Se5/Rc3#)

1.g3!
1...Rxg3/Bxg3 2.Se5/Rc3#

(B)題は焦点捨て駒を紛れの構成に絡まして表現した作品である。盤の右端にBとRが並んでいる。(古来この配置を「パイプオルガン」と呼ぶ。創案者は例のS.Loydである)このRとBのキキの焦点に焦点捨て駒をして、どちらか一方のキキを盲にする。焦点捨て駒は8通りあり、何れもRかBで取るとうまく詰むが、紛れ筋にはそれぞれ巧妙な逃れが仕掛けられている。紛れをテーマとしてこれほど美しく構成した作品は少ない。(上の紛れ筋の逃れ方は①Pd1=Q,②Pd1=S,③Sc6,④Sd5,⑤Sd7,⑥Re4,⑦Rd4である)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?