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温故知新(詰パラ281号)

 今日は詰パラ281号(昭和54年7月号)を読んでみよう。読み進めていくと、P16に昭和53年度の看寿賞が発表されている。短編が上田吉一氏、長編が駒場和男氏の「三十六人斬り」と墨江酔人氏の「順列七種中合」。それに小西真人氏が中篇で奨励賞を受賞されている。
 但し、墨江氏の順列七種中合についてはその完全性が疑問視されているようであるし(例えば「看寿賞作品集」のP148では、64桂合をせずに43玉と逃げた後の変化がどうもはっきりしないと書かれている。誰か本作の完全/不完全について詳細をご存知の方はご教授下さい)、「三十六人斬り」に至っては103手目11龍以下駒余りという、明らかな余詰作だ。時代性を考慮に入れたとしても、どちらも余り高く評価できない作だ。
 やはりこういう例を見ると、しっかりとした詰将棋規約がないとダメなのかなと思ってしまう。田島君の作品しかり、「最後の審判」しかり。キズはともかく、「完全作かどうか」の判定が未だに曖昧なのは、論理パズルとしてはかなり致命的な事ではないだろうか。

 続いて読み進めると、「力試し局」と題して山崎隆氏の「赤兎馬」が出題されているのを発見。複合馬鋸を超長手数のメインシステムとして採用するというアイディアもさることながら、右上で桂と香を使って繰り返される趣向部分が独創的。近代将棋の座談会で添川氏が「一番好きな詰将棋」として挙げておられたが、私も初めて本作を鑑賞した時いたく感動したことを覚えている。

           山崎 隆 「赤兎馬」

56 山崎 隆「赤兎馬」

      (詰パラ 昭和54年7月号、昭和54年度看寿賞)

 何しろ525手の超大作なのでここに作意を書く訳にはいかないが、もし未見の読者がいらっしゃったら、加藤徹氏のHP「おもちゃ箱」内で一度ご覧になることをお勧めする。
http://www.ne.jp/asahi/tetsu/toybox/

 その代わりという訳ではないが、今号の結果稿に出ていた「石神井川」は作意も載せておくことにしよう。

           山崎 隆「石神井川」

57 山崎 隆「石神井川」

          (詰パラ 昭和54年5月号)

 45と、同玉、23馬、34香、同馬、同玉、12馬、23角、同馬、同玉、
「45角、34角、同角、同玉…89角、78角、同角、同玉、56角、67角、
 79香、69玉、73香成、78玉、67角、同玉…12角、23角、同角、
 同玉」
「45角、34角、82成香、73歩…79香、69玉、73香成、78玉…
 12角、23角、同角、同玉」
「45角、34角、62成香、73歩…79香、69玉、73香成、78玉…
 12角、23角、同角、同玉」
「45角、34角、72成香、73歩…79香、69玉、73香成、78玉…
 12角、23角、同角、同玉」
 45角、34角、74成香、12玉、34角、21玉、23飛成、22金打、12角、
 11玉、22龍、同金、21金、同金、同角成、同玉、22歩、同玉、23歩、
 31玉、22金、41玉、52成香、同金、同角成、同玉、63成香、同玉、
 62金、74玉、79龍、84玉、75龍、94玉、95歩、93玉、92成香、同玉、
 82成香、同玉、72龍、93玉、85桂、84玉、75銀、95玉、96歩、85玉、
 74龍迄241手詰。

 繰り返しのロジックの明晰さ、そして最大限に溜め込んだ成香を全て消去してみせる手際の鮮やかさ。大型趣向にもかかわらず、構図や手順に全く無理が見られないのが素晴らしい。是非復活して欲しい作家の一人である。

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