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LE COIN DU RETRO(9-1)

                                                                                    written by M. Caillaud

Jean Bertinは、1915年に出版され長らく伝説となっていたT.R.DAWSONとW.HUNDSDORFER の本(これは同様に伝説的な、A.C.WHITEのクリスマスシリーズとして上梓された)のフランス語訳をとうとう完成させた。彼のこれまでの仕事("Extraordinary Stories of 64 cases"、そしてJ.MORICE、P.DRUMARE、GMFUCHSやF.RAENKELについての論文)もそうであったが、彼は全てを独力で成し遂げた。タイプを打ち、図面を作成し、写真を複写し、それら全てに対し細心の注意を払って装丁する。その仕事ぶりには、ただただ感心するばかりだ。そこにはオリジナルのテキストに加えて、解析的な補足、やや不正確な部分への補助的な説明、そして「彼らの研究において引用された作品の抜粋」を含む補遺がついている。
 不可能局面の研究、そしてこの時代の今なお古びていないレトロ解析の作品(1)を数作紹介した後の、非合法なキャスリング(2,3)、合法なアンパサン(4,R31)についての体系的な研究がこの本の主題である。

(1) T.R.Dawson (Reading Obs. 1914)

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白から1手詰にするためには、どこに白Rを加えたらよいか?
(15+11)

 通常のチェスとの関連において、レトロ解析の新たな基礎となる発見はほんの僅かしかない。en passantの合法性を巡るレトロ解析は、(我々が現在知る限り)1858年に登場した。castlingの合法性を巡るレトロ解析もその1年後、Sam Loydによって発表された。1880年の初頭には、F.C.Collinsが恐らく初めてレトロ問題を分析してみせた。現在までのレトロ解析の歴史全体を総括するには、これら数行で足りるのだ。最近の作家たちは、これら先駆者たちの業績を完成させたに過ぎない。しかしながら、未だ可能性が残っていることは疑いない。それがチェスというものだ。それを知るために、チェスは存在し続けている。

 (1)は我々を「不可能局面の構成問題」と呼ばれる新しい分野に導いてくれる。この壮大な名称は(他の壮大なものと同様)、非常に単純な意味を帯びている。我々は解答者に対し、ある目的(しばしばそれは黒Kを詰めることになるが)が達成されるような局面を構成するよう要求する。幾つかの可能性が浮かび上がるが、レトロ解析によってそのうちの一つだけが合法であることが判明する。
(1)において、我々は#1となるように白Rを追加することが求められている。このようなRの配置は明らかにa5, b5, c5, a6そしてd4のいずれかであるが、最初の4通りは直前の黒の手が存在しない。残りはd4だけであり、この位置のみ1.Kd5-e6 Re4-d4+と戻すことができて合法となる。C.Q.F.D!

(2) J.C. Wainwright(Amer. Bul. 1912)

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           #3 (7+2)

 (2)では1.b2-b4+というそれらしいトライがあるが、黒Kはc1に到達する前にd2とe1を経由するので、白はキャスリング不可能である。これはレトロ解析的な意図を持ち、要求せずとも観客の賞賛を得られる優雅で効率的な配置の作品である。
 しかしながらこの作品は、より精巧なレトロプロブレムが持つ深みや複雑さを欠いている。そのようなプロブレムを前にした解答者達の態度はいつも我慢強い訳ではなく、それは私たちにサミュエル・ジョンソンの逸話を思い出させる。
 ジョンソン博士が仲間と一緒に偉大なピアニストの演奏を聴いていたときのことだ。演奏が終わると、隣に座った男が彼に向かって「とても演奏が難しい曲でしたな」と言った。「難しいだって!」とジョンソン博士は叫んだ。「いっそ不可能だったら良かったのに」
 つまり、少しでも早く複雑なレトロ解析の問題を解こうとする解答者も、心の中ではこれと同様なのであり、彼らは自分自身を責めることになる。忍耐力のなさは彼らの欠点なのであって、作者の欠点ではない。この分野は、まだ見たことのない視座と価値観を提供できる比較的新しいものである。もしも最初の挑戦で混乱を感じたなら、それはこの一文の欠陥であると同様、読者の側の落ち度でもあるだろう。この内容を完全に理解するために、もう一度読み直してみることは決して悪くない。
作意:1.Bb3 Kb1 2.Kd1 Ka1 3.Kc2#

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