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私家版・近代将棋図式精選(112)

           (235)添川公司「阿修羅」

235 添川公司「阿修羅」

          (近代将棋 平成19年6月号)
           第100期塚田賞、第46期看寿賞

「阿修羅」はここ数年の添川氏の発表作の中でも特に独創性の高い作品である。では早速その仕組みを調べてみることにしよう。

 66金、44玉、45歩、同玉、36龍、同玉、58馬、37玉、47馬、28玉、

          (10手目の局面)

235-1 添川公司「阿修羅」10手目の局面

 まずここまでが序。馬鋸の目標が92歩であることもすぐに見て取れる。ここからまず横の龍鋸が始まる。

 46馬、29玉、49飛、39飛、同飛、同玉、33飛、29玉、56馬、18玉、
「38飛成、17玉、47龍、18玉、58龍、17玉、67龍、18玉、78龍、17玉、
 87龍、18玉、88龍、28飛、同龍、同玉」

          (36手目の局面)

235-2 添川公司「阿修羅」36手目の局面

 攻方は33飛から56馬として龍を作る。この龍を88迄連れていくと玉方はたまらず飛合をしてくる。これを取ると、図1における47馬が56に移動した図が得られる。後はこの繰り返しかと早とちりしそうになるが、作者の企みはもう少し深い。

 55馬、29玉、
『49飛、39飛、同飛、同玉、33飛、49玉、43飛成、39玉、34龍、49玉、
 45龍、39玉、36龍、29玉』

          (52手目の局面)

235-3 添川公司「阿修羅」52手目の局面


 先程と同じように33飛と打つが、馬が離れた影響で49玉とよろける手が成立する。(46馬型ならば16馬以下簡単)これには43飛成の一手となり、今度は縦の龍鋸が出現した!つまり、馬が55以遠にあるときは、馬が一桝動く度に縦又は横の龍鋸を一つ入れる必要があるのだ。ここでようやく「縦横2種類の龍鋸×馬鋸」という作者の構想の全貌が姿を現した。後はこれを繰り返して92歩を取って46馬型にするまで、一直線に進む。

 65馬、18玉、
「38龍、17玉、47龍…88龍、28飛、同龍、同玉」
 64馬、29玉、
『49飛、39飛、同飛、同玉、33飛、49玉、43飛成…36龍、29玉』
 74馬、18玉、
「38龍、17玉、47龍…88龍、28飛、同龍、同玉」
 73馬、29玉、
『49飛、39飛、同飛、同玉、33飛、49玉、43飛成…36龍、29玉』
 83馬、18玉、
「38龍、17玉、47龍…88龍、28飛、同龍、同玉」
 82馬、29玉、
『49飛、39飛、同飛、同玉、33飛、49玉、43飛成…36龍、29玉』
 92馬、18玉、
「38龍、17玉、47龍…88龍、28飛、同龍、同玉」
 82馬、29玉、
『49飛、39飛、同飛、同玉、33飛、49玉、43飛成…36龍、29玉』
 83馬、18玉、
「38龍、17玉、47龍…88龍、28飛、同龍、同玉」
 73馬、29玉、
『49飛、39飛、同飛、同玉、33飛、49玉、43飛成…36龍、29玉』
 74馬、18玉、
「38龍、17玉、47龍…88龍、28飛、同龍、同玉」
 64馬、29玉、
『49飛、39飛、同飛、同玉、33飛、49玉、43飛成…36龍、29玉』
 65馬、18玉、
「38龍、17玉、47龍…88龍、28飛、同龍、同玉」
 55馬、29玉、
『49飛、39飛、同飛、同玉、33飛、49玉、43飛成…36龍、29玉』
 56馬、18玉、
「38龍、17玉、47龍…88龍、28飛、同龍、同玉」

          (308手目の局面)

235-4 添川公司「阿修羅」308手目の局面

 これで馬の長い旅路もやっと終焉を迎え、後は16馬以下盤面を綺麗にさばいて収束に向かう。

46馬、29玉、49飛、39飛、同飛、同玉、33飛、29玉、47馬、18玉、
38飛成、17玉、16馬、同玉、18龍、17歩、27龍、15玉、17龍、24玉、
14龍、同玉、33桂成、13玉、14歩、24玉、25馬、33玉、34銀、44玉、
45歩、54玉、53金、同玉、43銀成、54玉、44成銀、63玉、64歩、72玉、
82銀成、同玉、93香成、81玉、82歩、91玉、92成香、同玉、47馬、91玉、
92歩、82玉、83金、81玉、91歩成、同玉、92金迄365手詰。

          (詰上がり図)

235-5 添川公司「阿修羅」詰め上がり図

 収束に入ってからも18龍-17龍で一歩稼ぐなど、芸が細かいところを見せてくれる。輪廻転生を繰り返しながら盤上狭しと駆け回る龍は、まさしく阿修羅の如き働きで、思い切った合駒制限をしてまで表現したかったのも十分納得できる。プロットの論理構成も明快であり、作者らしくスケールの大きな傑作趣向と言えよう。

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