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プロパラを振り返る(58)

Miran R. Vukcevich, My Chess Compositions

 今度はStrateGemsのMike Prcicによる編集・出版のものを2冊。まず、Vukcevichは現在のモンテネグロに生まれ、1963年にアメリカに渡った人で、この作品集を遺して亡くなった。本職(General Electricの主任研究員で、金属学および高熱化学が専門)では、ノーベル賞候補だったとか。チェスの実戦では全米オープンで優勝の経験があり、しかもプロブレム創作ではGMと、輝かしい業績を残しました。
 本書はオーソドックス、ヘルプ、セルフ、スタディ、フェアリーとすべてのジャンルを扱っていますが、その中でもVukcevichが最も得意としていた、オーソドックスのmoremoverを中心に紹介します。

(I) Miran R. Vukcevich (The Problemist 1981, 1st Prize)

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           #3 (11+9)

Vukcevichの#3の代表作。Qe4がピンされていて、怖い形をしていますが、Sc3のヒモがついているので今のところは大丈夫。まずキーは1.Bb6!として、B-Pによるバッテリーを組み上げます。これで黒が放置すると、2.Qg6! Qxg6+/Rxf3 3.d4/Rxf3#がひそかなスレット。2...Rxf3の変化を詰ませるために、Qの移動場所がg6に限定されるところがミソです。
 さて、主要変化はBb6のラインを切りに行く1...Rf5/Sf5の2つ。これが白のQのunpinする結果となり、次の華麗な技が決まります。
1...Rf5 2.Qf4!! Rxf4/Rc5+ 3.e4/Be4#
1...Sf5 2.Qh4!! Sxh4+/Sc4+ 3.e4/Rg6#

 黒のチェックをクロスチェックで受けるために、Q-B/Rのバッテリーを組むところに移動するのが急所ですが、それがどちらもR/Sの聞いている場所にわざわざ移動する視覚的効果が抜群です。
 なお、もう1つ副変化があります。
1...e5 2.Qf5! Qxf5+ 3.e4#
この受けは、2.Qg6?なら2...Qxg6+! 3.e4+ Qxb6で逃れる狙いですが、今度は2.Qf5!とは、なんとも気が利いているではありませんか。

(J) Miran R. Vukcevich (Schach-Echo 1982, 1st Prize)

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           #4 (9+10)

 作家には、誰にもお気に入りのテーマというものがあります。Vukcevichの場合、その1つがBristolでした。その中でも、わたしの好きな1局がこれです。
 まず、何はともあれ1.Qh1!とまわってみましょう。これは放っておけば2.f3+! Sdxf3/Sgxf3 3.Qb1+/Qh7+ Kxe3 4.Re2#のスレットがあります。(2...Kxf3は3.Rh2+Kxg3 4.Se2#)
 このスレットを防ぐ手は、1...Rb5/Bb5の2通りしかありません。しかし、この受けは明らかにb5地点でR/Bが相互にinterferenceを起こしています。そこで次のように攻めます。
1...Rb5 2.Rg1! Sdf3(2...Sgf3 3.Qh7+ Rf5 4.Qxf5#) 3.Ra1!! --- 4.Qb1#
1...Bb5 2.Rh2! Sgf3(2...Sdf3 3.Qb1+ Bd3 4.Qxd3#) 3.Rh8!! --- 4.Qh7#

 縦横でBristolを2発やるという狙いですが、その前の2.Rg1+/Rh2+と開くのが、わざわざQの道筋の邪魔駒を作るというパラドキシカルな手になっていて、このあたりが実にこの手筋に通暁していることを思わせる、憎らしいほどのうまさです。

(K) Miran R. Vukcevich (U.S.P.B.1995, 1st Prize)

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           #5 (7+12)

 Vukcevichのもう一つのお気に入りのテーマ、それはNovotnyです。
(K)をご覧ください。中心となるラインは斜めのb8-f4と縦のe6-e2で、それが交差するe5の地点にどうしても目が行きます。それでは1.Qe5?のNovotnyが正解でしょうか?
 そううまくは行かないので、1...Qxe5!と取られると、まだb8,e6の両方に利いているのでこれは失敗です。それと、黒からは1...g4とする強いdefenseがあり、早い手を指さないと逆に白のKが詰む恐れすらあります。
 そんな早い手はどこに?実は、かなり見えにくい手ですが1.Qa2!が正解。このスレットは2.Rb8+ Qxb8 3.Bxe6+ Rxe6+ 4.Qxe6#です。初形ではb8が争点でしたが、それをe6に移したわけです。
 なお、このキーが見えにくいのは、1...c4という妨害電波もあるからなのですが、それには2.Qa3! g4 3.Rb8+ Qxb8 4.Qxe7 Qe8+ 5.Qxe5#という強引だがうまく割り切れた変化で大丈夫。そこで黒の本筋の受けは、e6にもう一枚利かせる1...Qe3!です。
 ここからが見せ場。2.f4(3.Rb8#)と捨てて、2...Bxf4と取らせてから、なんと3.Qb2!と戻ります。これは4.Rb8+ Bxb8 5.Qxb8#のスレットを持っていますから、黒は3...Qg3とまたb8の地点に2枚利かせて受けるしかないところ。
 また初形に戻ってしまっただけか?そうではありません。ちょうど黒のQとBの位置が入れ替わっているではありませんか!
 もうお気づきですね。待望のNovotnyの出番です。
4.Qe5! Rxe5/Bxe5 5.Rb8/Bxe6#
 構想もすばらしく、表現も完璧で、傑作ではないでしょうか。


(L) Miran R. Vukcevich (Chess Life & Review 1986, 1st Prize)

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           #8 (7+11)

 最後にもう1局、Novotnyテーマの作品を見ていただきます。
 そう言えば、キーの1.Bf2!はすぐ目につくでしょう。これは1...Rxf2なら2.Rxh4+ Kg5 3.Rbg4+ Kf5 4.Rh5#ですし、1...Bxf2なら2.Bf7#なので取れません。それでは、黒はどうしたものか。
 あなたがそうならこっちも、というわけで、1...c4!が唯一の受けです。これでどちらで取るか限定させると、2.Rxc4?なら2...Bxf2!、2.Bxc4?なら2...Rxf2!で逃れようというつもり。これは比較的作例がよくある手筋。
 そこで白も、狙う場所を変えに行きます。
2.Rb6!(3.Rxh6#) Bd2 3.Ba4!(4.Be8#) Re1
 ここでよく見ると、黒のRとBのラインが交差する場所がe3に移っています。これは好都合と…4.Be3!! Qc6
 もう後はお片づけということで、いささか間延びする収束が付いています。詰将棋だったらいくら収束が長くても駒が捌けたとかえって褒められるくらいで、たぶんまったく気にならないところですが、プロブレムだととても気になります。作者曰く、「後はほとんどエンドゲーム」とのことで、きっとこれには不満があったのでしょう。
5.Rg5+ hxg5 6.Bxc6 Rxe3 7.Be8+ Rxe8 8.Rh6#
(平成25年3月27日記)

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