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プロパラを振り返る(56)

(D) Klaus Wenda (feenschach 1990(v), 1st Prize)

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           S#19 Circe (8+3)

 最終形はPxb6だろうと想像はつきますが、それにはa6を埋めておかねばなりません。方針が決まっているので簡単そうに見えて、その実現は思ったより難しく、いろんな箇所に罠があります。
 いきなり1.Sxc2+(Pc7)?だと、1...Kb3 2.Sa1+ Ka3 3.b5 cxb6+ 4.Rxb6(Pb7)となったところでステイルメイトで失敗。ということは、Pを取る前にBh1をa6に移す予備工作が必要だと分かります。その意味で、この作品もforeplan物になります。作意を並べてみましょう。

1.Sb3! Kxb3(Sb1) 2.Sd2+ Kb3 3.Sf1! Kb3 4.Bd5+ Ka3 5.Rc4! Kb3 6.Sd2+ Ka3 7.Sde5! Kb3 8.Rc6+ Ka3 9.Bb3 Kxb3 10.Bc4+ Ka3 11.Ba6 Kb3 12.Sd2+ Ka3
13.Sf3 Kb3 14.Sd4+ Ka3 15.Sxc2(Pc7)+ Kb3 16.Sa1+ Ka3 17.b5 cxb6 18.Rxb6(Pb7)bxa6(Bf1) 19.bxa6(Pa7) axb6#

3.Sf1!がうまい退避場所で、3.Se4/Sf3?だとBh1の筋と重なってしまいます。5.Rc4といったんBを遮るところもポイント。本当は5.Bb3?と早く指したいのですが、現在はSf1がいるために5...Kxb3!でBが再生せず消えてしまって失敗。このあたりの仕掛けは精密にできています。
 後はいったん7.Sde5!でSc3にヒモをつけ、10.Bc4+から狙いの11.Ba6をようやく実現させます。最後に16.Sa1+もうまく、ここに移動しないで16.Sd4+?とすると、最終手19...axb6(Ra1)がセルフチェックの禁手でステイルメイトになってしまうのです。

(E) Friedrich Chlubna (J.Breuer MT 1983, 2nd HM)

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                                        #4 (10+9)

 次は、この本を出版した編集者でもある、 Chlubnaさんの作品を見てみましょう。(E)はわたしが好きなChlubna作品の一つです。
 黒Kの周囲には、3個の白Pがあります。そのどれもが邪魔駒であることに気付かれたでしょうか?
(a)Pd4がなければQd3#
(b)Pd5がなければQe6#
(c)Pf4がなければRf4#
というわけです。狙い筋はこれ。ただし、たとえば1.d6(2.Qe6#)といった手段は1...Bh3!で防がれてしまいます。また、Pを消しに行くのに1.Sg5+? Kxd4 2.Sf3+には2...Kc6!の退路があります。
 初手は1.f5!です。この静かな手には2.Re7+ Kxf5 3.Rf7+ Ke4 4.Rf4#のスレットがついています。これが上記(c)の狙い筋を実現させたものです。
 これに対して、e7に利かせる黒の受けは、1...Bxc5/c6の2通りしかありません。このとき、c5/c6の退路が塞がれていますので、
1...Bxc5 2.Sg5+! Kxd4 3.Sf3+ Ke4 4.Qd3#
1...c6 2.Qd3+! Kxd5 3.Qb3+ Ke4 4.Qe6#
 いかがですか。なんともセンスのいい作品ではありませんか。テーマの統一感もさることながら、この地味なテーマを全体として静かなトーンで彩った、その感性がすばらしいと思います。もの静かなChlubnaさんに何度も会って話したこともあるわたしには、とりわけこの作品がその人柄にマッチしているように思えてなりません。 

(F) Friedrich Chlubna (Schach-Report 1994, 3rd Prize)

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           #4(7+8)

 もう1局、大好きな作品を。
 有効な初手がなかなか見つからない形をしていますが、1.Kb7!が意外性のあるキー。なぜなら、Bh1で何かの拍子にチェックがかかるラインだからです。しかし、よく考えてみればこの手には2.Bd3+ Kd5 3.e4+ fxe4 4.Bc4#のスレットがついています。そして、それに対する黒の受け手もなさそうに見えます。
 ところが、黒には1...f4!という奥の手がありました。これが唯一の受けで、その意図は、先ほどの3.e4+に対して3...fxe3 e.p.!と、e4の地点をselfblockせずにアンパサンで取り戻そうというもの。
 さて、ここまで進んだ局面で、白から直接2.Sg5+? Kd4 3.S7e6#という順がありそう。はてな?と思ったら、Bh1の利きで2...Kd4+がクロスチェックになっているではありませんか。これではいけません。これで一度失敗してみると、作意が浮かびます。つまり、白は前もってKを移動しておけば、先ほどの手順がスレットになるのです。そこで、2.Kc8!と元に戻すのが何とも感触のいい手。この後も、いかにもChlubnaさんらしく、静かな手で収束します。すなわち、
2...f3 3.e3!(4.Sg5#) Bxe3 d3#
 白のKによる遠隔操作で、黒のPが2マス進むというアイデア。まるで手品を見ているようです。
(平成25年3月13日記)

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