見出し画像

市島啓樹の12局(6)

           (11)市島啓樹

11 市島啓樹(15手詰)柏川手筋

          (詰パラ 平成14年6月号、A級首位作)

A65桂、同馬、93龍、イ83歩、B55角、同馬、84金、63玉、83龍、73馬、74龍、同銀、64歩、同馬、62銀成迄15手詰。

A93龍は83桂打、95角、74玉以下逃れ。
イ83桂打は95角以下。
B84金は63玉、83龍、同馬で逃れ。

 初手から93龍だと桂合で逃れ。そこで65を埋めることで歩合を強制するのだが、その後すぐに84金とすると83龍を同馬と取られてしまい、打歩詰が解消できない。これを避ける為に55角として予め馬を移動させておくのが、作者の仰る「柏川手筋」。ただ、結果稿を読む限りでは、解答者の目には「馬のスイッチバックを含む虚々実々の攻防」という風に映ったようだ。
良く整った初形から繰り広げられる、恐ろしく密度の高い手順。論理的な面と感覚的な面がハイレベルで融合した、希有な短編である。

           (12)市島啓樹

12 市島啓樹(43手詰)

          (詰パラ 平成10年12月号)

 
 32角、同香、同銀生、イ14玉、
「16香、ロ15角、同香、同玉、24角、14玉、13角成、同香」
「16香、15角…13角成、同香」
「16香、15角…13角成、同桂」
 16香、ハ15歩、23銀、同玉、
 22飛、14玉、15香、同玉、33馬、16玉、17歩、同玉、44馬、16玉、26馬迄43手詰。

イ同玉は22飛、31玉、32香、42玉、53歩成以下。
ロ15歩は23銀、同玉、22飛以下。
ハ15角は同香、同玉、33角以下。

 本作のような軽趣向においても、作者はその技巧の冴えを随所に見せてくれる。殆ど仕掛けらしい仕掛けも見当たらない中空で、突如として始まる香剥がしは意外性十分。しかも24角が捨駒になっているのはポイントが高い。21桂が跳ねると玉方は合駒を角から歩に変えざるを得なくなり(角合は同香、同玉、33角以下)、以下自然な収束を迎える。
 こういう作品を見ていると、必要以上に複雑化せずとも面白い趣向はまだまだあるのだなと再認識させられる。パラ発表時の担当者山下氏が仰るように「緊張感のある面白い手順を繰り返す」ことで、8手1サイクルの本作が手数が長いだけの凡百の趣向作よりもずっと魅力的なものになっているのだから。私は氏が、今後こういった方面に本腰を入れてくれることを密かに期待している。

終わりに

 今回、全12題を改めて鑑賞して感じたのは、作者のセンスの良さだ(今更指摘することでもないのだが)。言い換えると、どの作においても感覚と論理のバランスが絶妙なのである。この天性のセンスがある限り、彼が再度受賞する可能性も十分あるに違いない。その日がそう遠くないことを祈って、この拙い解説を終えようと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?