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チェスプロブレムの世界(4-4)門脇芳雄

Mate Transferのテーマ(詰め方の転移)

 Changeの一形態にMate Transferと云うのがある。普通のChangeでは、Setと本手順で同じ応手に違う詰め方が成立するのだが、Mate TransferではSetと本手順で違う応手に同じ詰め方が成立する。元のSetが御破算になることには変わりがないが、本流のChangeよりは地味な表現である。これを面白く表現するには相当な苦心がいる。

(G)J.Morra, Joao Baptista Santiago (1953, 1st Prize)

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           #2(7+7)


Set
1...Sc4 2.Sc7#(a)
1...Rc4 2.Rd8#(b)
1...Bxd4 2.e4#(c)
1...xd4 2.Qe6#(d)

1.Bc5(2.Rd6#)
1...Bxc5 2.Sc7#(a)
1...Rxc5 2.Rd8#(b)
1...Sc4 2.e4#(c)
1...e4 2.Qe6#(d)

Setは何れも受方の「自己妨害」(攻方の干渉もある)を表す興味深い局面である。「正解のヒントはこの筋を残した局面」と思いきや、初手Bc5はSetの含みを全部駄目にする意外な手。それでは今までの読みは全部白紙になったかと思えば、意外や意外。受け方の新しい応手に対し、Setの読み手a,b,c,dが全部成立しており、それが新しく別の「自己妨害」を構成していると云う洒落た構成の作品であった。

Rukhlisのテーマ(Rukhlisはロシヤの作家)

 普通のChangeの形式とMate Transferを組み合わせた「Rukhlisのテーマ」と云うのがある。「Setの中で、玉方応手①に詰め方(A)が成立していたとする。本手順の中で、応手①に対して詰め方(A)が成立しなくなる(Change)のは勿論だが、元の詰め方(A)はSet中の別の玉方応手②の中で成立する」のがRukhlisのテーマである。これは次号で述べる「Pattern」の一表現とみられる。
 解答者の立場から、Rukhlisのテーマを面白く感じるかどうか筆者には判らないが、多くの一流作家がこのテーマにチャレンジしているのは事実。次の例題はCPIAの筆者が「古今の2手問題の中でベスト6の一つに挙げられる」と絶賛する作品で、Rukhlisのテーマを表している。

(H)Ottavio Stocchi (Sah 1950)

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           #2(12+10)

Set
①1...c3 2.Se3#(a) (2.Sb4?)
②1...e2 2.Sb4#(b) (2.Se3?)
③1...Sc6 2.Rd6# (2.Rf5?)
④1...Sf5 2.Rf5# (2.Rd6?)

1.Se6! (2.Qd1#)
①1...c3 2.Rd4#
②1...e2 2.Qd4#
③1...Sc6 2.Se3#(a) (2.Sb4?)
④1...Sf5 2.Sb4#(b) (2.Se3?)
⑤1...Kd6 2.Sc7#

 この問題の生命は、4通りのSetが各々Dual Avoidance(詰みそうで詰まぬ紛れ筋)を持っていて「その周辺に正解あり」と思わせておいて、全然違う筋に化けてしまう(Change)点と、正解の中にもDual Avoidanceが現れる(③と④)こと。そしてSetの①と②の詰め方((a)Se3及び(b)Sb4)が、本手順では違う応手(③と④)の対応手となって現れることである(Rukhlisのテーマ)。⑤のように新しくKの逃げ道が生じる初手も高く評価される。オーソドックスにSetから調べて行って本題を解こうとすると、かなり手を焼くに違いない。本題の真価は構成の美しさにあり、難解性によるものでないことは勿論だが…。

 チェスプロブレム2手問題の解き方を知らないと、Changeは妙な理屈のコジ付けの様に思えるかもしれないが、そうではない。私の意見では、Changeは色々なテーマの中で最もチェスプロブレムらしく、重要なテーマである。

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 少々説明がくどく、面白くなくなったようである。ちょっと「2手問題」にこだわり過ぎたきらいがある。
 しかしこの理屈っぽい内容を概念的にでも理解しなければ、現代のチェスプロブレムを語ることはできない。チェスプロブレムの作家はこんな事に血道を上げているのである。この先、彼らのやっていることを「詰まらぬ事をやっている」と見るか「前衛的な凄い事をやっている」と受け止めるか、この私でさえ両方の感慨を持たないでもない。
 しかし、「2手問題」の前衛化はさらに進んで行く。次回(最終回)は「更に彼らが進んだ道」について述べることにする。

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