プロパラを振り返る(01)
ついこの間までこの場で近代将棋と詰パラのバックナンバーに目を通す作業を続けていたのは、ここの読者ならみなさんご存知だろう(注 このころ筆者はmixiで「私家版・近代将棋図式精選」と「温故知新」を連載していた)。どちらも一応昭和編が完成して小休止しているのだが、もう一つ私には振り返っておきたい雑誌があった。それはプロパラだ。幸い、プロパラなら手元に創刊号から最新号まで全部揃っているし、冊数も全部で50冊ほどなので、そんなに難しい作業ではなかろう。
この作業、単なる懐古趣味という訳でもない。実は個人的に目論んでいるのが、最初の頃は全然ついていけなかった上田吉一さんのフェアリー作品群を改めて鑑賞し直すことだ。当時は殆ど手が出せなかったが、今なら少しは理解できるかもしれないという淡い期待を持って、もう一度プロパラを最初から読み直してみようと思うのだ。
まずは、記念すべきプロパラ第1号の表紙を載せておこう。
この表紙から推察できるように、お世辞にもきれいとは言えないし、作品こそ100題も載っているが、その9割は他誌(Problemist, Die Schwalbe, Phenix)からの引用で、新作はたったの9題。わずか24ページの小冊子だった。今の洒落た仕上がりからは想像もできない、垢抜けない姿でのデビューだったが、とにもかくにもここから日本のチェスプロブレムは始まったのである。
では、この中から新作をいくつか引用してみよう。
(1) 小林敏樹 (Problem Paradise 1, 1996 v)
H#3 2sols. (3+11)
1.Be8 Rd1 2.Bc6 Bd2 3.Qe6 Bxb4#
1.c6 Bh2 2.c5 Rg3 3.Re7 Rg6#
白のバッテリー構成はよく見る筋だが、それに黒のtempo moveを組み合わせたのが作者の工夫。
続いて、お目当ての上田作品。しかし、鑑賞する前にまずはフェアリーピースとルールについて説明しておこう。
UltraSchachZwang:黒は常に白にチェックをかけなくてはならない
Madrasi:同種の敵の駒から取りを掛けられると、その駒は動けなくなる
Grasshopper:Qと同じ方向に、駒を一つ飛び越えてその次の桝に着地する。そこに敵の駒があれば取れる。
neutral piece:黒からも白からも動かすことができる駒。
(2)上田吉一 (Problem Paradise 1, 1996)
H#4 (5+3)
UltraSchachZwang, Madrasi
Grasshopper 4+2
1.Gd5+ Gf3 2.Ge4+ Kb7 3.Gc6+ Ka6 4.Gg2+ Gd6#
3.Ka6が作者狙いの一手。通常のチェスピースではMadrasiは対称的だが、Grasshopperなら片方だけ縛りがかかった状態ができるというのが作者の主張だ。
(3)上田吉一 (Problem Paradise 1, 1996)
H#7 (2+2+1)
UltraSchachZwang, Madrasi
Neutral Knight g1
1.nSh3+ Sg5 2.Se2+ nSg1 3.nSf3+ nSd4 4.nSb3+ Kf3 5.Sg1+ Sh3 6.nSd2+ Kg3 7.nSe4+ nSf2#
こちらはMadrasiとneutral pieceを組み合わせるとどうなるかという実験。詰上がりで黒はneutral Sを動かしたいのだが、黒の駒とみなすとSh3の利きによって動けなくなるので、これで詰んでいる。
(平成23年09月22日記)
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