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チェスプロブレムの世界(3-1)門脇芳雄

 今回は、いよいよチェスプロブレムの本命である「2手問題」について述べる。2手問題は現代チェスプロブレムの花形である。世の中が忙しくなって、2手詰のように単純なものが好まれるようになったのではなく、現代の2手問題は「たった2手」の制約の中で大変複雑な内容を表現する。この「複雑の表現」こそ2手問題の魅力である。
 現代の2手問題は「難問」ではない。「様式の曲詰」のようなものである。詰将棋の曲詰は駒で図形を表すが、チェスプロブレムの場合は変化群等で作者の意図した構成を理屈っぽく表現する。妙手やトリックを発見して喜ぶのではなく、作者の描いた構成を鑑賞するのである。この構成を理解しないと、チェスプロブレムの真価は全く理解しがたいであろう。極力その真髄について述べるつもりであるが、現代の2手問題は想像もつかぬほど前衛的で、その面白さは入門者には判り難くなっていることを、あらかじめお断りしておきたい。

2手問題の解き方

 2手問題には、オーソドックスな解き方がある。この解き方は2手問題の鑑賞(構成の理解)と深い関係があるので、まずここで述べておこう。
 2手問題を解く場合には、まず玉方の駒(攻方の駒ではなく)を動かしてみて、その結果、次の一手で即詰みとなるかどうかを調べてみる。これを玉方の全部の駒について、全部の動きに対して行う。つまり、初手を飛ばして、いきなり玉方の応手から検討を始めるわけである。これがチェスプロブレム2手問題の解法の特徴である。
 もし或る玉方の手に対して即詰みが見つからないならば、攻方の初手は、その応手に対する即詰を配慮した手でなくてはならないし、又、玉方の別の或る手に即詰がある場合は、攻方の初手は多分その条件を壊さぬような手であろう。このようにして手を絞って行けば、正解(初手)が容易に見つかる筈である。これが2手問題を早く解くコツである。
 チェスプロブレムの「キー」(初手)は、一見狙いの判らぬボンヤリした手が多いので、上記の方法によらぬ、最初から攻方の駒をヤミクモに動かす解き方だと、読まねばならぬ手が数倍になり(理由は考えて見て頂きたい)、結局時間が掛かってしまうのである。チェスプロブレムの鑑賞で“Set”(「もし局面が玉方の手番で、玉方がこう指したらこう云う詰め方がある」という意味)という言葉が出てくるが、それはこの解き方の内容を意味する。
 実例を一つやってみよう。


Comins Mansfield (Magasinet, 1933 version)

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           #2(7+10)

局面の特徴
①敵玉の自由な逃げ場所は現状ではc6の1ヶ所だけ。
②自玉は安全地帯にいるが、Qg7が移動すると逆王手の筋がある
③d4の場所は2枚のSが利いているので脱出みたいだが、c5の方はSe6が動くと脱出口になり得る。

Setの検討
①Kc6=適当な詰みなし(さらにb6に逃げられる)
②Bb7=Qxb7まで
③Sc8が動くと=Se7まで
④Pe3=Qg2まで
⑤Rxf5にSd4、Rxe6にもSd4が面白いが、何れもKc5で詰まない。
⑥玉方がQc3, Pa5, Pb5の何れを動かしても即詰はない。

◎以上の検討から、初手はKc6の応手に備えながら、しかも次に積極的な詰を見せた手でなくてはならぬことが判る。Kc6と逃がさぬ直接的な手としては、①Sed4②Sfd4③Sd8④Sf7⑤Qd7⑥Qc7⑦Qb7等が考えられるが、それぞれ①Kc5②Rh5③Sc5④Sxf7⑤Qb3⑥Bc6⑦Bxb7の応手ぐらいで見込みがない。
 Kc6と逃がした後でKを仕留める発想の手として、Qa7がある(次にb6へ逃がさぬ狙い)。調べてみると、Kc6ならSd8までで詰むし、Kd5型のままだとQa8までの詰みがある。結果としてこのQa7が正解の手である。このように、玉方の応手から検討を始めると正解に早く到達できる。
 ちなみに本局の狙いは、初手のQa7が難しいとかどうとか云ったことではなく、作者の狙いはこの後にある。すなわち、この後
①Rxf5+にはSd4まで。
②Rxe6+にはSd4まで。
 初手の結果生じた2通りの逆王手及びそれに対する切り返し。そしてその2通りの切り返しが「玉方Rの自己釘付け(Self-pin)」(自殺のように、わざわざ「釘付け」されに行く感じの手)による面白さを描いたものである。

「2手問題」は、①初手、②応手、③最終手の3手しかないのに、非常に多くの駒を使い、驚くほど豊かな内容を表現するが、それはチェスプロブレムでは作者が意図した変化群が全て同格で「本手順」であるばかりか、④紛れ、⑤Setまで表現の要素にフル活用するからである。

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