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富士山はエベレストだ!!エベレスティングinふじあざみライン



君はエベレスティングを知っているか

「あぁ、あれね」となった方はもうこちら側の人間です。おめでとうございます。

エベレスティングとは、
・同じ坂道をひたすら往復し
・一回のアクティビティで途中寝ることなく
・エベレストと同じ標高(8848m)に達するまで走り続ける

というチャレンジ。

何を言っているか分からず不安を覚えたかもしれないが、エンデュランス系のチャレンジというものは大抵意味不明なので安心してほしい。

要するに、どこでもいいから一つ坂道を選び、そこをひたすら往復し続け総上昇量が8848mを超えればOKである。
タイムも一応記録はされるが、速くても遅くても達成の価値は変わらない。

今回のチャレンジで私が選択したルートは、静岡県小山町の"ふじあざみライン"である。
あのコースを走ったことがある人には気が狂ったと思われるかもしれない。狂ってるかもしれない。
日本有数の厳しいヒルクライムとして知られるコースで、今回選んだセグメント(エベレスティングはSTRAVAのセグメント基準で計算される)は11.29kmで1124mを登る。平均勾配は9.9%で最大勾配は22%だ。

なぜこんなコースを選んだのか…?
エベレスティング達成に必要な上昇量は8848m。このセグメントを8本上ればほぼピッタリこの数字になるのだ。
短いセグメントでやるとその分往復回数も増えるので数え間違いなどのリスクも上がる。8本程度ならどれだけ疲れていても間違えることは無さそうだ。通り抜けのできる道ではないので交通量も少ない。
あとSNSで自己顕示欲を満たせるかと思ったので

準備編

機材

これに関しては使い慣れた機材が一番なのでいつものトレーニングと大差ないものを使った。
フレームはEmonda SLR disc(2021 モデル)、コンポはアルテ中心のミックスでEqual機械式ディスク、50mmハイトのカーボンホイールでタイヤは28Cクリンチャーである。フレーム以外はミドルグレード。

唯一、カセットだけは普段の11-30Tから11-34Tに交換した。激坂をできるだけ省エネで上るために1:1のギア比が欲しかったのだ。
あとはモバイルバッテリーや予備のライトなどを入れるためのフロントバッグを取り付けて準備完了。

事前調査

コースについては間違えようがないのだが、実施日や時間、補給などについては割としっかり調べた。

ルート上は街灯に乏しく鹿などの動物の出没も多いので、明るい時間内に走り切るのが基本。
そう考えると、あまり遅い時期では日が短くなってしまうので8月中にはやっておきたい。標高が高い場所なので暑さはさほど気にならないと踏んで、職場のお盆休みの最終日、2023年8月18日(金)に実施することにした。
マイカー規制期間中のため交通量も少なそうだ。

またスタート時間については、上りは暗くてもリスクが少ないので、1本目の上り始めを午前3時に設定して下りで夜明けを迎える想定とした。
上り1本75~80分、休憩と下りで20~25分、途中休憩を合計2時間と計算して合計15時間半。真っ暗になる前に終わる見込みだ。

補給についてはスタート地点のすぐ横にある道の駅に自販機があり、少しだけ下れば24時間営業のローソンがあるので固形物も購入できる。
また、使うことはあまり想定していないが頂上には山小屋がありそこでも補給は可能である。

前日

チャレンジ前日はレスト日。早朝に10kmだけジョギングしてあとはゆっくり過ごし、夕方のロマンスカーで輪行して御殿場へ向かう。
車を借りてスタート地点間近まで向かう方が体力面では有利だが、レンタカーやカーシェアを1人で借りるのはちょっと高い。何より15時間も自転車に乗ったあとに延々運転するのは絶対に考えたくないので輪行を選択した。
御殿場駅からほど近いルートインに投錨しすぐに入浴、コンビニ飯で夕食を済ませ翌朝に備えて早めに寝る。

チャレンジ前日、期待と不安が入り混じるソワソワした気持ちで入る布団が好きだ。

本編

当日スタート前

午前1時起床。意外とよく眠れたようで頭はスッキリしている。
買っておいた食料を食べながら身支度を整え、2時前にチェックアウトした。ここまでルートインを活かせない宿泊者がいるだろうか。さようなら無料朝食。。。

誰もいない丑三つ時の御殿場駅、コインロッカーに着替えや輪行袋などすべての荷物を預ける。
今日は1日晴天の予報。防寒具も最小限で良さそうだ。
まずはスタート地点の須走まで10kmほどのサイクリングとなる。実はこの時点で340mほど上るのだが、もちろんこの数値はエベレスティングのうちにはカウントされない。
途中からは富士山の姿が見える。

暗闇に浮かぶ登山者のヘッドライトと山小屋の明かり

真っ暗な中ゆえ、富士登山に挑むハイカー達のヘッドライトが山腹に綺麗な軌跡を刻んでいるのがよく見えた。

須走のローソンで水を買ってロングボトル2本を満たし(計1.5L)、パンなど補給に使えそうな食料も買い込んだ。
多少重たくはなるが、休憩をできるだけ減らすための戦略だ。
セグメントのスタート地点手前まで移動し、Twitterにスタートする旨を投稿する。

午前3時、いよいよチャレンジのスタートだ!

無心の序盤

ほんの少し白み始めた空を背に、あざみラインを上り始める。
マイカー規制の警備員さんに挨拶して最初の直登に入る。すぐにギアはインナーローに入り、あとはただ脚を回すだけだ。

先は長いので意図的にパワーを抑えめに、脳の活動も控えめに上る。鹿の飛び出しを牽制するための熊鈴を鳴らしながら、できるだけ何も考えず・・・
鳥の壁画まで来た・・・

鹿だ・・・

ヘアピン・・・

激坂

かゆ

うま

・・・

山小屋はまだ準備中

一本目終わり。75分38秒、189W、128bpm。
朝早すぎてまだ身体は睡眠中。心拍が全く上がらない。

ダウンヒルはまだ明るくなりきっていないので慎重に。
途中、雲海が美しく見えた。思わず止まって写真撮影。

雲海に向けてダウンヒル

セグメント終端まで下ったら間髪入れず折り返して二本目へ。
警備員さんは(お前また行くんか…)という顔で見送ってくれた。
昇り始めた朝日が山体を真っ赤に染める。

ちょうど中間点あたりで見る赤富士、それはそれは見事な姿だった。
激坂区間も無難にこなして6時前に二本目登頂。

73分58秒、190W、135bpm。
目が覚めてきてちょっと飛ばしすぎたかも。

すっかり太陽も上がり、明るくなったダウンヒルを快調に終えてすぐ3本目。とりあえず3本目までは一気に行こうと思っていたのだ。
マイカー規制の警備員さんは別の方に交代していた。会釈して通り過ぎる。
しかし、ちょっと暑さが気になる。あざみラインは東斜面なので朝日を直接背中に受けながら走ることになってしまう。

この時間になると登山客を乗せたタクシーやマイクロバスが時々通るが、気になるほどの交通量ではない。標高2000mにも及ばない須走口五合目、イージーに富士山を登りたい人には不評である(吉田口、富士宮口は2300m以上ある)。

最初に買った補給を全て使い切るタイミングで3本目終わり。

77分07秒、178W、135bpm。
さすがにちょっと疲れてきた。一旦休憩しよう…ということでダウンヒル後にそのまま須走交差点のローソンまで降りて補給、休憩とした。

試練の中盤

ローソンでおにぎりやパンなどを食べ、ボトルも補充しながら15分ぐらい休む。
まだ朝なのに結構暑さが厳しく感じられ、先はまだまだ長い。 
精神的な疲労が溜まってくるのを感じるが、こういう時に肝心なのは何も考えないことである。
機械的にスタート地点に向かい、また上り始める。

あざみラインは大きく分けて4つのパートでできている。
最初の3 kmがほぼ直線、8〜12%ぐらいがひたすら続く。
そこから2.5kmは緩めの勾配でつづら折りの続く休憩区間。
馬返しの一瞬だけ下って、ここから3kmが休みどころのない地獄の激坂区間。
ラスト3kmは激坂と平坦を交互に繰り返す。
今回のチャレンジで一番キツかったのは実は最初のパートだ。標高が低く遮るものも無いためかなり暑いうえ、単調で飽きやすい。後半の方が涼しくて景色にも変化がありずっとマシなのだ。

時刻は9時半、登山客で賑わう五合目に4度目の到着。

79分59秒、172W、134bpm。

暑さにだいぶやられているが、下りで防寒具を着る必要も無いのは楽だ。道の駅すばしりまで戻ってようやくチャレンジも折り返し地点。
富士山の美味しい湧き水が無料で汲み放題なのがこの道の駅のいいところ。腕や頭にかけて冷却し、ボトルを満タンにして後半戦に挑む。

5本目に入ってやや雲が出てきた。8月の直射日光を少しでも避けられるのはとてもありがたい。
コース上にある段差や穴もだいたい覚えたので、序盤のような脳味噌省エネモードに戻って無心のヒルクライム。

気づいたら頂上にいた。

80分14秒、169W、132bpm。

下って道の駅に水を汲みにきたら、ちょうどお昼時ということで屋台で富士宮焼きそばを売っていた。これをお昼ご飯とする。

普通の焼きそばとの違いは正直よく分からないが、塩気と炭水化物でちょっと元気が出た。

六本目も曇り空。上り始めてすぐ、さっき下りですれ違った電動アシスト小径車の方にすれ違いざま「何本ですか!?」と声を掛けられる。
「8本でーす!!」と答えて先へ進む。
後から聞いた話だが、電動アシスト車はオーバーヒートして登坂途中で休憩を余儀なくされたらしい。

馬返しより先は雲に包まれ、だいぶ涼しい。
パラパラと小雨も降ってくるがむしろ歓迎だ。
淡々と上り続け六本目終わり。

81分05秒、169W、132bpm。
念の為言っておくが、ふざけて何度も同じ写真を貼っている訳ではない

復活の終盤

さて、道の駅で水を汲み甘いドリンクも買って最後の休憩とする。
あとたったの2本で終わりだ(2248mUP)!

マイカー規制の警備員さんはもう完全スルーである。顔パスだとポジティブに考えておこう。
太陽が西に傾き、山陰に入りだしたことで気温も下がってきた。さっきまでの暑さが嘘のように走りやすい。
何より、あと2本で終わりだという事実が精神的な余裕を作ってくれた。
脚は重いがまだ回る。コレは行けるぞ、という気持ちが湧いてきた。

77分09秒、174W、135bpm。
タイムがまた持ち直した!

…ロウソクって燃え尽きる直前にひときわ明るく燃えますよね。
いや、何でもないです。

下がった気温と小雨に対応できるよう上着を着てダウンヒル、下りきって間髪入れず折り返した。

いよいよラスト1本だ!
気持ちはこれまでで一番軽い。
さすがに筋疲労が激しいが、脚もよく回る。

しかしあと2㎞というところで急速に力が入らなくなってきた。
少し補給が足りなかったか。
あと10分で終わりだと念じながら気合で前に進む。

そして・・・

燃え尽きたロウソク、五合目に立つ

77分13秒、174W、130bpm。

着いた!ようやく着いた!

さすがに体中が痛い。脚に力が入らない。
エネルギー不足を感じる。ダウンヒルの前に山小屋で何か食べよう。

さっそく山小屋の売店に入った瞬間、私のエベレスティング達成を祝うかのように停電した。

えっ?


山小屋のご主人がバタバタ走り回っている。
「1日8回も来るような気持ち悪い奴に売るものはない」という山の意思だろうか…(被害妄想

幸い隣の売店は自家発電で営業していたのでソフトクリームを買った。

こけももソフト、あっという間に食べてしまった

さあ、あとは安全に下るだけだ。下り始める瞬間、ふと右手を見上げるとさっきまで雲に隠れていた山頂がはっきりと姿を見せてくれた。

一日中見守ってくれてありがとう

夜明け前から日没まで(多分ドン引きしながら)見守ってくれた富士山にお礼を言って、いざダウンヒル。
少しずつ暗くなってきているので、鹿や猪が飛び出してくるかもしれない。
スピードを出しすぎないよう慎重に下り、道の駅まで戻ってタイマーを止める。

14時間48分27秒。想定より40分ほど早く終えることができた。

綺麗なバランですね

さあ、あとは家に帰るだけだ。
御殿場駅までのんびりと下り、着替えて輪行で帰路についた。

エピローグ

お盆休み最終日に実行した、ということは翌日から普通に仕事である。
意外と身体へのダメージは深くなく、普通に自転車通勤して一日立ち仕事をすることができた。
恐らくチャレンジ中にペースを崩さず、心拍を低く抑え続けられたおかげだろう。

循環器に優しい系チャレンジ

あざみラインでのエベレスティングというのはやはり字面のインパクトが強いようで、初対面の方に挨拶したら「あぁ、あざみでエベレスティングやってた…」と認知されていたという場面も何度かあった。

ただ、実際の難易度に関しては軽量級クライマーにとってはそこまで高くないと感じた。
まともな神経ではやる気にならないので、心のリミッターを外して放り投げるだけだ(あとで拾っておいてね)。
ちなみにあと1本足して9本やればEveresting 10K(10000mUP)という次の称号を得られる。激坂好きな方は試してみて欲しい。私は絶対やらない。

通常のエベレスティングに加え、"short"の称号ももらった

無事に認定も貰えた。Andyありがとう。
さあ、次はなにをやろうかな。

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