鍵のない部屋(27歳貧乏絵描きの住処)その2
四畳半、六畳の2DK、ぽっとん便所付、家賃3万円。敷金10万円、礼金なし
家具は、自分で買った小さな冷蔵庫と炬燵、そしてお爺ちゃんから譲り受けた安物のアンティークのドア付きの本棚、小さな箪笥、そして大型ゴミの日に拾った水屋だけ。
これが初めて独り暮らしする僕の城だ。
あとは、アトリエにしている六畳の部屋に、イーゼルと油絵の道具、そして数多くのキャンバスと段ボールに詰め込まれた本。
本はかなり処分したが、まだ段ボールに8個ぐらい残っていた。
捨てるに捨てられないモノばかりだ。
結局は、その数年後に手放して、今は物凄く後悔している。
完成した絵は壁に打ち付けてあり、子供たちはその圧倒的なおどろおどろしさに泣き出す始末。だから子供たちはアトリエには入らないw
その時のテーマは「魂」だったので、ゴミ取集の日に、積み上げられてあるゴミ袋を魂に見立てスケッチしたようなものばかり。
主に魂の苦痛や悲しみを表現しようとしていた・・・ので、凄く暗いw
たまに風景に感動して描いたり、静物を描いたりすると、何故かすぐに売れた。
描きたいもの、思いの詰まったものは売れない・・・そういうものだ。
歯医者で溜まっていた治療費を、絵を持って行って代わりに支払ったりw、
いつもランチを食べる喫茶店にも絵を持って行って支払ったw
まあ、五万円ぐらいだけどね。
画商が付くには付いたけど、商売ペースには乗せられず・・・喧嘩しちまったい。
必死で注文通りに描いた静物画を1~2万円で買い取ってくれた。
引っ越し祝いや新築祝いに需要があるそうだ。
後で知ったところによると、その絵は20万前後で売られていたという・・・・
画商は絵描きの血を吸って生きている害虫だ。
もっと新人を育てろよ! だからいつまでたっても日本の絵描きは成長しないんだよ!ヽ(`Д´)ノ
安く買いたたき、高く売ることしか考えていない。
まあ、今更言っても仕方ないけどね。
ずっと我慢して描いてたんだけど、最後にこう言われたんだ。
「額にキャンバスを入れて描くんだ。今度は、縁起物で、富士山に鷲が飛んでいるところを描いてくれ」
・・・・絵描きの常識では、駄作のことを、額に入れて描いたような絵だな・・・って言う・・・・。
引っ越し当初、何もない部屋で絵を描いたり、本を読んだりして自由と我が城を満喫していた。
しかしある時、僕の右手が何かを求めて彷徨っていることに気付いた。
何を探しているんだろう?
いつまでも炬燵の上を指先で這い回る手を見ながら、僕は気付いたんだ。
リモコンを探しているんだなって・・・・。
そう言えば、テレビのない生活は初めてかも知れない。
テレビってそんな悪影響を与えていたんだと、つくずく思った。
部屋に戻ってすぐに見もしないテレビを点ける人、気を付けた方がいいよ。
無意識に嘘の情報を植え込まれているから。
友だちの家に行って、すぐにテレビを消す僕は嫌われてるけどw
夏、エアコンのない僕の部屋には、恐怖の暑さが待っていた。
子供が暑いからと、自分家に仕舞って合った扇風機を持ってきた。
しかし、回しても熱風が起こるだけ。
窓と玄関を開け、自然の風を通すしか涼を取る方法はなかった。
僕はパンツ一丁になり、部屋で過ごした。
髪は流し台で洗い、身体はタオルを水につけてゴシゴシ拭いた。
銭湯は一週間に一度行くだけだ。
眠る時は、畳の上に直接裸で横たわった。
夜明けまでぐっすり眠れた。
それは、眠る前に行う瞑想のお陰。
ずっと続けていた瞑想を一時間ほどして横になると、熟睡した。
長い時は3時間から6時間ほどしていた。
朝まで微動だにしない。
畳に僕の身体の型の汗がくっきりと残るぐらいw
その所為か、僕が眠っていると、よく死んでいると勘違いして起こされたw
息が深く静かだからだ。
その時付き合っていた彼女、お袋、結婚した妻、そして今も時々心配して僕の鼻に手を当てて呼吸を確認するw
ある時、僕は不思議な体験をした。
バイトで疲れていたのと、寝ずに絵を描いていたのとで、半覚醒状態になって横になった時のこと。
目が覚めると、背中に体重を感じないのだ。
あれ? 僕は目を瞑ったまま手を背中に回した。
そこに当たるはずの畳がないのだ!
うわっ!
僕は浮いていた!
最初は30センチほどだった。
でも段々と上に上がって天井が近くなってゆく。
背中と天井までの距離感がやけにリアルだ。
これは夢ではない!
天井が目の前にまで来た。いや、天井に僕の身体が近付いた。
いつも見ている天上のシミが大きく見える。
そこで僕は気が付いた。
これって・・・幽体離脱?!?
試しに天井すれすれのまま部屋の中を移動してみた。
それまで知らなかった天井のシミや傷がはっきりと見えた。
間違いない! 幽体離脱だ!
僕は面白くなって部屋中を飛び回った。
そうだ! 仲のいい友達の家に行き、驚かせてやろう!
僕は玄関に向かった。
その途端、僕は生まれて初めて感じるような恐怖を感じた。
今、部屋を出てはだめだ!
誰かが僕に警告した。
昔読んだ本の中に、幽体離脱するときは、一人でしてはいけないと書いてあったのを想い出した。
そこには、魂が抜けた後の身体に獣の魂が宿ることがあり、二度と身体に戻れなくなる、というようなことが書いてあった。
僕は怖くなり、畳の上で横たわっている僕の身体に戻った・・・。
身体に戻った僕は、パッと目を開けた。
そして天井の隅々を見渡した。
今見たばかりの知らなかったシミがそこにはあるのを確認した・・・。
これは妄想ではなく、本当にあった話・・・。
信じるかどうかは、あなたの課題だ。
これは本当かどうかわからないが、友達に聞いたことがある。
大好きな彼女が牛に憑りつかれたって・・・・。
まじめな男だった。嘘をついて楽しむような男ではなかった。
そいつが言うには、ある日、彼女は突然、牛に憑りつかれて話もろくに出来なくなったらしい。
渋る親を説得して彼女の部屋に行くと、四つん這いになった彼女が、とても人間とは思えない声で牛の鳴き声を出していたらしい。
口からよだれを垂らし、もぐもぐと口を動かしていたという・・・。
それ以降、その友だちは、宗教にどっぷりつかってしまった・・・・。
何かにすがりたかったんだろうなあ・・・。
僕は他に、不思議な体験をいくつかしている。
それはまた別の機会に。
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