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[随想詩] 天竺夢窓

異国の暮らしにも少し飽きて、
ちょうど荷風の「あめりか物語」など読んでいると、
せっかく洋行したのにふた月もすると経退屈になる男の話などあって、
いつの時代も人間というものは、
贅沢なことを言って刺激を求めて、
煩悩三昧の俗物根性、
少しは曇りを払いたいものだと重い腰を上げて、
言の葉を紡いで無相の想いをつづる次第。

寄宿しているヒンズー寺の、
行者たちが一昨日は集まって、
何やら偉い坊さんの話を聴いておりました。

鮮やかな橙色の装束に身を包み、
髪や髭を茫々と伸ばした行者の群れは、
とうに見慣れたとは言うものの、
やはり異世界を現前させるもので、
ぱちりと写真に取ってみると、
ああ この人たちがインドという国を、
ある意味支えているのだなと、
感無量な気持ちにもなりまして。

昨日はパイロット・ババジという有名なグルのアシュラムから、
ロシア出身の蒼い目の女性の行者が、
ベイロウ寺の儀式にお詣りに来て、
ロシア本国から団体でやってきた、
白い肌の信者の人々も同行していたもので、
これがまた次元に裂け目を入れていたのです。

パイロット・ババジの兄弟弟子に相川圭子さんという人がいて、
お目にかかったことはないのですが、
ずいぶん信者も多いらしく、
時々その人の名を耳にしては、
インドと日本の不思議な縁を思いもします。

仏教という太い絆で千年以上の昔から繋がれた二つの国は、
風土も文化も大いに異なるにも関わらず、
西洋的世界観が赤の他人と言えるほどなのに比べれば、
腹違いの兄弟ほどには価値観を共有しています。

そうしてぼくはと言えば、
ろくにインドの人々と話をすることもなく、
風通しの悪い部屋にこもって寝床に寝そべって、
部屋の小さな窓から時折り空を仰ぎ見たかと思うと、
電子の石板を二本の親指で撫で回し、
天網にかかる有象や無象を呑み込んでは、
空夢の想念を糸として、
虚存の伽藍を築くのです。

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#自由落下の言葉ども

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