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ニジンスキーといえば?

我が同胞を見分けるのはとても簡単だ。
「ニジンスキーといえば?」と聞けばいい。
きょとんとする人は、同胞にあらず。
教養のある人は、「ロシアのバレエダンサー」というだろう。
そして、「古いね」と言う人は、恐らく我が意を得ている。
だが、そんな人にはあえて「オーギュストロダンでもいいよ」と答えよう。
これで笑う人は完全に同志だ。

一般に、オーギュストロダン(オーギュスト・ロダン)といえば彫刻家であり、その有名な作品「考える人」だろう。
しかし、ここ数年、我々の間では、ディープインパクトのラストクロップであり、代表産駒になりうるダービー馬の名前だという認識になった。
ニジンスキーも無敗で欧州三冠を制した名馬の名前である。
もちろん、私だってそれぞれの馬名の由来は先に挙げた人名であることは知っている。
これは、どちらが先かという問題ではない。
ただ、とっさにその名を言われて浮かぶのは、馬なのである。

そう、私は競馬が好きだ。
特に、誰が誰の仔でどうのこうのと話すのが大好きだ。
競馬はブラッドスポーツと言われ、競走馬は厳密に血統を管理される。
だから、どの馬も5代前の父が誰なのかすぐにわかるようになっている。
サラブレットといわれる所以だ。

ゆえに、知れば知るほど面白いのだ。
あの父にこの母を組み合わせるということは、母の父がどういう影響を与えて…。わあ!この馬にはあの馬の血が流れているのか!
そうやってレースを予想し、その競走馬の将来を想像するのがとても楽しい。

だが、しかし。

血統に詳しいことと、馬券で勝てることは、全く別の問題だとはっきり申し上げておく。
私は、競馬が好きだし、詳しい方だと思うが、馬券を当てられるわけではない。
馬券を買い、敗れることを、俗にJRA銀行への貯金という。
私もご多分に漏れず、毎回コツコツと貯めている。
預金額はちょっと考えたくないほどに貯まっているのだが、なにしろ暗証番号が毎回変わるから、引き下ろせない。
それでも楽しいからよしとする。
競馬とは、そういう趣味である。

私が馬券を買うようになったのは大学生になってから。
しかも、成人してからだ。
しかし、競馬に出会ったのは幼稚園のときだった。
当時流行っていた競走馬育成ゲーム「ダービースタリオン」を父親がプレイしていたからである。
競馬は、簡単に言えば馬のかけっこであるから、幼稚園児にも勝ち負けがわかった(ちなみに、麻雀はまったく意味がわからなかった)。
しかも、馬の名前を考えるのが面倒になった父親は、私に自牧場の馬の命名権を与えた。
自分が名前をつけた馬が勝てば嬉しい。
そして、その勝ったレースに興味を持つようになった。

さらに、小学1年生のときに漫画『みどりのマキバオー』を読み始めた。
見てくれがどう考えても馬ではない白馬マキバオーがクラシックロードを駆け抜ける物語である。
ジャンプ漫画のご多分に漏れず、友情・努力・勝利に溢れたアツいストーリーが展開していく。
何度も何度も読み返し、出てくるレースは全て覚えた。
というわけで、齢6歳にして、クラシック三冠の名前と距離を全て言えるようになってしまった。
ちなみに、三冠は皐月賞、日本ダービー(東京優駿)、菊花賞の3つであり、3歳馬(マキバオー掲載当時は4歳馬)だけが出ることができる。甲子園のようなものだ。

このように、私は競馬や馬がとても好きな子どもだったのだが、同級生に「無敗のダービー馬はかっこいい」などと話しても通じるわけがない。
しかし、友達にはわからない趣味として楽しみ続けた。
そもそも、友達に通じない話題というのは、私にとってさして珍しいことではなかったのだ。
我が家にはたくさんの漫画があったのだが、『エースをねらえ』や『ドカベン』、『生徒諸君』など親世代のものが多かった。
そして、残念ながら「『生徒諸君』の沖田成利が好き」と言って、わかってくれる友達はいなかった。
それでも、漫画は読み続けたし、競馬も自然とダービースタリオンなどのゲームに手を出すようになった。

競馬ゲームの醍醐味は血統である、と思う。
自分で代を重ねて、強い馬を生み出す。
そこから入ったために、現実世界の競馬を楽しむようになった今でも血統が好きなのだと思う。

また、競馬について話せる人も増えた。
誰かに話せなくても競馬は楽しいが、誰かに話す競馬はもっと楽しい。

なので、問う。
「ニジンスキーといえば?」
仲間がいればとても嬉しい。


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