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過去に読んだ、未来本を思い返してみる

 今から10年前、21世紀が10%経過したところで「これからの社会はどうなるんだろう」と思った自分がいた。そして、自分で勝手に「未来について語った本を読んでみる」プロジェクトを5年くらい続けたことがあった。

 あれから10年後の2020年2月11日。東京都文京区で開催された「読書会フェス」に参加した時のこと。

 ある読書会セッションで、なぜか神田昌典さんの『2022――これから10年、活躍できる人の条件』(PHP研究所、2012)で盛り上がった。この本で紹介されていたリード・フォー・アクション(RFA)の考え方などは今も記憶に残っていて自分の読書スタイルにも影響を与えたと思う。

 読書会で、過去に読んだ、未来について語った本を話した時の盛り上がりが面白かった。その余韻が忘れられず、当時読んだ本をもうすこし思い返してみる。

ヨルゲン・ランダース、野中香方子(訳) 『2052』 (日経BP、2013)

 2020年の時点から振り返った場合、結果として精度が高く、現状に合致していそうなのが『2052』。この本では異常気象が最も大きな影響を与えるとしており、この本で描かれた社会現象を目にすることが増えた。著者たちは今の世界を見て「そら見たことか」なんて思っているのかもしれない。

岡田斗司夫『評価経済社会』(ダイヤモンド社、2011)

 未来本を結果だけで評価するのはもったいない。今また読んで、新たな発見を見つけたのが『評価経済社会』。環境変化に伴って人々の価値観も変わってくると言う指摘は、当時は頭で理解しても実感はそこまで強くなかった。2020年に改めて10年前と比較したときに確かに価値観の違いが広がっていた。予測精度と言うより、価値観の変遷を実感できた点が大きい。

 この本を読んだ後に川上量生さんの『鈴木さんにも分かるネットの未来』(岩波書店、2015)を見て、私がこの本に感じた違和感の理由が分かった。川上さんが「生産性がイチバン!」「未来もGAFAが圧倒!」みたいな価値観のまま未来を語っている点だ。なるほど、岡田さんの指摘は鋭い。

 ちなみに、『評価経済社会』を書店で取り寄せれば1,650円で買えるのに、Amazonだと中古本が6,125円で取引されていた。書店で買えばいいのに。これも価値観の変遷なのだろうか。

P. F. ドラッカー、上田敦生(訳) 『ポスト資本主義社会』(ダイヤモンド社、2007)

 本質といえば、自分の中であと2冊は取り上げておきたい本がある。1冊目はドラッカーの『ポスト資本主義社会』。自分は、ドラッカーによってポスト資本主義なるものを知った。この本を読むと、資本主義に染まった自分が、資本主義以外の考え方をどこまで理解できているのか、自信が持てなくなる。

 ポスト資本主義を理解する上で、新書による解説は役に立った。当時、水野和夫さんの『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社、2014)や、広井良典さんの『ポスト資本主義 科学・人間・社会の未来』(岩波書店、2015)が参考になったことを覚えている。

 その後、自分プロジェクトとして「ポスト資本主義を知るためにも、資本主義についてもっと知ろう」を勝手に始めた。これはこれで面白かったので、別の機会に紹介したい。


ケヴィン・ケリー、服部桂(訳) 『テクニウム――テクノロジーはどこへ向かうのか?』(みすず書房、2014)

 社会と組織の変遷について本質を語っていたのがドラッカーなら、技術の未来を語っているのがケヴィン・ケリーではないか、なんて勝手に思っている。ケヴィン・ケリーさんと言えば 『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』(NHK出版、2016)の方が有名な気もする。

 しかし、本質を突いているという点では『テクニウム』が出色で、この本がくれた視点は、その後の自分の見方に影響を与えたように思う。

 その後、自分プロジェクトとして「自分は機械と信用のどちらを選ぶか、本を通じて思考実験してみる」を勝手に始めた。ちょうど『機械との競争』が話題になった頃で、RPAとかが言われ始めた時期だったこともあり、興味深く知ることができた。



 当時、色々と未来本を読んだことが、その後の未来本に対する識別眼を養ったように思う。例えば、アレック・ロス、依田光江(訳)の『未来化する社会』(ハーパーコリンズ・ジャパン、2016)という本があるが、これがなかなかの説得力を持って読者を煽ってくる。

 これに対して「いや、ここは違うよ」と本に向かって反論できる自分がいた。これからも、煽ってくる本やネットコンテンツは増えるだろうから、批判的な読み方ができるようになったのはありがたい。


 今思えば、2010年前後の未来本で、いまも紹介しようと思うのは長期的な未来展望を書いた本が多い。その後、AIが騒がれはじめ、シンギュラリティがどうのこうのと言われるようになった。それから、シンギュラリティ以後の未来があまり語られなくなったように思う。

 未来もいいけど「いま・ここ」に集中することも大切、ということで、少し前から知覚をテーマに読書をしていて、これが自分の中でヒットとなっている。いくつか読書会で紹介してみようと考えている。

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