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2018年に読んで、よかった本2冊

2018年に読んだ本の中から Best 2冊を紹介しようと思います。
(こういうことは年末にやるのが正しいのでしょうが。)

1. アリス・マンロー『小説のように』

2009年刊行の本ですが、今年の夏ごろに神保町の三省堂の、何かの特設コーナーで出会い、ジャケ買いしてしまいました。その後、神保町のベローチェで読んで、呆然としたのを覚えています。短編集なのですが、ひとつひとつが重すぎて、次を読むのが怖いという感覚に陥りました。

アリス・マンローは、これを書き上げた時点で78歳なわけですが、78歳のおばあさんの頭の中にこんな物語たちが蠢いていたと思うと、驚愕です。2013年にノーベル文学賞を受賞していたらしいのですが(全然知らなかった)納得。人間の知性のひとつの到達点だと思いました!

(妻は、さっそく次のアリス・マンロー作品に取り掛かっていますが、私はなかなか勇気が出ません。。)

どの短編が良かったか、話し合える人募集中です。
ぼくはやっぱり一番最初の「次元」が忘れられません。映画 Manchester by the Sea を思い出しました。

2. トクヴィル 『合衆国滞在記』

これに至っては1832年に書かれたものですが、2018年10月に京都大学学術出版会から出版されたものに、またまた神保町の三省堂で出会い、実はまだ半分くらいまでしか読めていないのですが(記事タイトル詐欺?)、すこぶる面白いです。今年はアリス・マンローの年だったなーと思っていたのですが、終盤にこの本が現れて、読了前にも関わらず同率首位になりました。

27歳のフランス人法律家が、アメリカを旅行しながら書いたものです。旅行の目的はアメリカの刑務所制度の視察でしたが、彼の興味はアメリカの自然や文化にも及びます。

トクヴィルのことは、大学の政治思想史の授業での間接的な言及で知っていただけで、著書は読んだことがありませんでしたが、立ち読みをして、最初の「アメリカ人の国民性」という文章を読んでズガーンと頭を殴られたような気分になりました。アメリカに着く前の洋上で書かれたとされる、19世紀前半のアメリカについての描写です。少し長めに引用します。

アメリカ人は、財産の上で起こる急激きわまりない変化の時時刻刻の証人であり、新たな資産など苦もなくもう一度作れることを知っているので、よりよき未来への希望のためになら、既得財産を危険にさらすことに世界のどの住民よりも恐れを感じない。だから、自分の勝ちしか危険にさらさないギャンブラーの自信を持って、アメリカ人は人生を賭けた大きな富くじに参加する。(中略)こちらでは法律が絶えず変わり、為政者も次々と交代する。(中略)自然そのものが人間より速く変化する。事物のありふれた秩序が奇妙に逆転することで、まさしく事物が可動的に見え、人間が動かざるものに見える。同じひとりの男が、彼より前にはだれも横切ったことがなかった荒野に自分の名前をつけることができた。彼は森林で木を最初に切り倒すことができたし、人気のないところに農園主の家を建てることができた。まずそれを中心に人が集まって、小集落を作った。そして今日では、それを巨大都市が取り囲むようになっている。生と死を隔てる狭い空間のなかで、彼はこれら全ての変化に立ち会ってきたし、彼と同じように、他の無数の人間もそうすることができてきた。(中略)時の流れがここでは、いかに力強く激しくあろうと、想像力はそれの前を行き、絵は十分に大きくはない。世界の中で、人間がこれ以上の自信を持って未来を掴み、これ以上誇り高く、自分の思い通りに天地万物が作れるのだと感じている国はひとつもない。

どうですかね、この万能感。ホリエモンが近畿大学入学式スピーチで語っていた未来や、「死ぬこと以外はかすり傷」みたいなスローガンでギラついている業界人諸氏の雰囲気と似ていないでしょうか。
こういうのを見るにつけ、「我々はかつてない時代を生きているのだなぁ」みたいに思っていましたが、そうでもないのではないか、一種の時代精神なのではないかと少し引いた視点を得ることができます。

法制度と政治制度と文化の関わりについての分析も面白いです。トクヴィルが語るというよりは、現地の知識人のインタビューを通じて伝わってきます。

最後になりますが、紀行文としても素晴らしいです。デトロイトから荒野を往くさなか、手帳に書きつけたと思われる端的で詩的な描写。連なる体言止めの向こうに、27歳のトクヴィルの感動が伝わってきます。
旅に出るといろんな気づきがありますが、帰ってくると家の安心感とともに、忘れてしまいます。感じた鮮度の高いうちに、現地で書き留めることが大事なのだな、と自省もしました。

これらには及ばなかったけれど、かなり良かった3冊はこちら。
・丸田俊彦『患者の心を誰がみるのか』
・平野啓一郎『ある男』
・町屋良平『愛が嫌い』

今年もいろんな本を読みたいですね。それでは今年もよろしく~。

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