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試合に出られないアスリートの葛藤とあなたへ伝えたい現状打破の3つのマインドセット

プロのアメリカンフットボール選手として活動している佐藤と申します。
日本では社会人リーグxleagueの富士通フロンティアーズに所属しており、2021年からは世界で2番目にレベルの高いカナダのCFLに歴史上初の日本人選手としてドラフトされToronto Argonautsに所属しています。

しかしチームにはリーグのトップ選手が同じポジションにおり昨年、今年と試合に出られていない状況です。そんな中で感じることを自分なりに綴ってみました。

現状

私のポジションであるキッカーはチームで1人だけがレギュラーとして登録されるポジションで、そこに加えて控えがもう1人いるのがメジャーな構成です。(キッカーというポジションについては別の記事で紹介していますのでこちらも是非ご一読ください)

そしてTorontoにはリーグトップのキッカーがいて僕はその控えとしてチームに所属しています。昨年から今年にかけてまだ試合には2度しか出場できていません。普段の練習も圧倒的にレギュラーのキッカーを中心にメニューが構成されています。毎週試合の度にユニフォームを着ずに観戦していると、悔しさが込み上げてきます。しかも2年目。試合後のミーティングも自分が出てくることのないフィルムを見ながら悔しい気持ちを再度噛み締めます。

しかし試合に出られないのはレギュラー選手のせいでもコーチのせいでもない、誰でもなく自分の力不足が原因です。自分にできることは成長し続けて来たるチャンスに備えること、それだけです。

それは言葉にするのは簡単で実際には非常に難しいことで、感情の波が何度もシーズン中に襲ってきます。その中で時には周囲の力を借りながら自分自身と向き合ってきました。

期待していた未来と現実のギャップ

2021年にチームにドラフトされてからカナダに渡るまで僕は能天気に試合に出るイメージしかしていませんでした。今年活躍してステップアップしてNFLに行く、長年は滞在しない、と。

しかし蓋を開けてみるとキャンプ初日からもう1人のキッカーへの扱いの違いを感じました。チームメディアもこぞって彼を取り上げる、地元紙には「新人キッカーSatoも悪くないが、(レギュラーキッカーと)競争にはなっていない」と書かれる始末。渡航前から、Torontoにすごいキッカーが移籍してきたばかりというのは知っていましたが改めて「あ、こいつはスター選手なんだ」と実感しました。彼は私よりも3歳年上でリーグでのキャリアも長く、身長は2メートルを超え、アメリカで一緒に練習していたNFL選手と同等もしくはそれ以上の飛距離を叩き出す、そんなキッカーでした。

レギュラーキッカーのBoris選手

キャンプ中は私もパフォーマンスは良かったのですが、そんなことはお構いなしに誰もが彼がレギュラーで私がバックアップだと認識していました。2021年シーズンが始まってから終わるまで僕が試合に出られたのはリーグ戦最終節の消化試合だけ、そこでも思うような結果は出せずに悔しい1年になりました。

目指すべきものは自分自身の中にしか存在しない

そんな状況だったのでシーズン中に何度かモチベーションが著しく低下してしまったことも正直あったのですが、そこから持ち直すためにたどり着いたマインドセットは「とにかく自分自身にフォーカスする」というものでした。

1年目1番の反省はレギュラー選手のパフォーマンスに大きく自分が左右されてしまったことです。彼が隣で良いキックをすると自分も負けたくないと無駄に力みが入って結局自分のキックができなくて悪循環に陥りました。試合でも彼の成功を妬むような目で見てしまうこともあり、こういった事が自分のモチベーションをどんどん奪っていきました。

そんな中で日本にいる師匠と話したり、過去出会った選手やコーチの言葉を思い出しているうちに「他人の不幸を願うことは自分の成長には決してつながらない」
「他人の成功も失敗も自分にはコントロールできない」ということを改めて実感し、他人がどんなパフォーマンスをしようと自分は自分自身の最大限の成長にフォーカスし続けるべきだと悟りました。

目指すべきはレギュラー争いをする相手ではない、自分自身がなれる最高の自分になることなのだと。この過程の中にレギュラー獲得もNFL選手になることも存在していて、どんな外的事象もゴールではなく過程にしかなり得ないと思っています。

などとカッコつけて言ったものの、このマインドセットを完璧に体現できているかと言われれば、まだまだだと思っています。それでも昨シーズンよりも今シーズンはこれを確実に体現できるようになっています。一朝一夕でできるものではないのでコツコツ時間をかけながらやっていきます。

努力は裏切る-高校時代の経験-

試合に出られていないならばやることはひとつ、「努力」を積み重ねることです。
しかしがむしゃらにやり続ける努力は平気な顔で裏切るということを私は高校時代に学びました。

高校時代はキッカーではなくQB(クォーターバック)というボールを投げるポジションでプレーしていたのですがこれがとにかく下手くそでした。どれくらい酷かったかというと、3年生進級時に行われるオールスター戦では前年度全国優勝した私の高校からは前ポジション1人ずつ選出可能と通知が来たにもかかわらず、QB以外の選手たちを選出しますと監督が返答したほどです。あれはショックでした。

それでも1個上のQBの先輩に教わった、下手ならば誰よりも先にグラウンドに出て練習後は最後まで残ってとにかく練習するしかない、という事を実践し続けました。家がグラウンドから遠かったので朝は5時に起きて練習場に向かったり最後まで残って自主練していました。しかし一向に上達することはありませんでした。これは才能とかではなく単純に「ただやっているだけ」だったのだと思います。努力する事自体を目標にして悦に浸っていたのかもしれません。そんな努力は当前実を結びません。努力すれば必ず報われるというのは漫画の中だけで正しくない努力は裏切るのです。

結局怪我を転機に今のキッカーというポジションに出会い高校最後の1年はレギュラーとして全国優勝を果たし、大学、社会人でも国内トップの結果を出し続けてきた自信がありますが、キッカーになってからはとにかく「正しい努力」というものを意識し続けました。QB時代の失敗を絶対に繰り返したくなかったのです。

具体的には、多くやりすぎない、良い意味で抜く時は抜く(これが案外勇気がいると思います)、筋力トレーニングする際は目的を明確にする、自分の課題を常に客観視(ビデオ撮影等で)して見つけ出す、自分自身の変化を恐れない、等です。
これが身を結んで現在プロの世界にいると思うのですが、試合に出られていない今、更なる成長が求められています。

今ここにいることには必ず意味がある、意味を持たせる

CFLのキッカー事情を鑑みると「ああ、あのチームなら試合に出られていたかもしれない」と思うことが正直あります。よりによってトップのキッカーがいるチームになぜ来てしまったのかと。
しかしこれにも意味があるはずです。ベテラントップキッカーから学ぶことは実際多く、そこは自身の成長に繋がっていますし、今試合に出られていない期間にしか得られない心の成長もできていると思います。日本でトップの成績を残したり日本記録を樹立したりと、どこか伸びていた鼻をへし折ってくれるいい機会で、これを乗り越えてカナダで結果を出すことでまた一つアスリートとして成長できると確信しています。

私の強みの一つは高校時代のようなどん底選手時代とプロの世界というトップの環境両方を一競技で経験している事だと思います。成功も挫折も知っている、そんな自分だからこそどれだけ打ちひしがれても立ち上がり続けることができますし、そういった自分の姿を見た人にポジティブなエネルギーを感じてもらうために競技を続けています。

今自分のいる環境はただの偶然かもしれないし、もっといい環境があるのかもしれない、それでもそこに意味を見出すしかないし、それができるのは自分自身だけ、と思っています。
競技者で自分の年齢(29歳に今年なります)となると若くは無いと思われがちですがキッカーは30代後半でも第一線で活躍できるポジションで実際僕もまだまだ成長中です。この環境下でもポジティブに自分自身の成長にフォーカスし続けて最高の自分を目指していきます!

最後に、今現在試合に出られていないアスリートや、アスリートではなくても望むポジションに立つことのできていない読者の皆様のポジティブな原動力にこの記事がなればと思います。周囲に流されることなく自分自身にフォーカスして望む自分になっていきましょう!


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