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合併しない「村」について

ごあいさつ

 こんにちは。東北大学都市・まちづくり研究会2年の町田尚希です。最近は暖かくて過ごしやすい日が徐々に増えてきましたね!っていうか仙台の冬ってこんなに寒くて長くて雪降るんですね。関東生まれの筆者はしっかりと東北の洗礼を浴びました。
 さて、まずはC3の皆様、ご入学おめでとうございます!大学生活には慣れたでしょうか?東北大学都市・まちづくり研究会(通称:としけん)ではnoteの記事を不定期更新しており、部員が各々興味のあるテーマをそこはかとなく書きついています。それらを読んで当サークルがどういったサークルであるか知っていただけたら幸いです。今年はたくさん新入生が入ってくれるといいなぁ……

本題

 さて、前置きが長くなってしまいましたが本題はここからです。皆様は地方自治体はお好きでしょうか。筆者は好きです。その昔、人類は文明が発達していくある過程において共同生活を始めました。そうして各地に集落が発生し、それらが今日まで多様な変化を遂げ、明治時代には自治体として規定されました。それらがまた今日まで形を変えたものが現在の地方自治体となっています。言わば地方自治体はまちづくりの歴史の観測者なわけです。非常にロマンがあっていいですよね。
 現在、地方自治体には1718もの市町村が存在しています。さて、皆様はそれらの「市」「町」「村」のカテゴリーの違いについて意識したことはありますでしょうか?だいたい街の大きさが基準になっていることは想像に難くありませんが、法的な定義は地方自治法第8条より以下のようになっています。

地方自治法第八条

  1. 市となるべき普通地方公共団体は、左に掲げる要件を具えていなければならない。(一)人口五万以上を有すること。 (二)当該普通地方公共団体の中心の市街地を形成している区域内に在る戸数が、全戸数の六割以上であること。 (三)商工業その他の都市的業態に従事する者及びその者と同一世帯に属する者の数が、全人口の六割以上であること。 (四)前各号に定めるものの外、当該都道府県の条例で定める都市的施設その他の都市としての要件を具えていること。

  2. 町となるべき普通地方公共団体は、当該都道府県の条例で定める町としての要件を具えていなければならない。

  3. 町村を市とし又は市を町村とする処分は第七条第一項、第二項及び第六項から第八項までの例により、村を町とし又は町を村とする処分は同条第一項及び第六項から第八項までの例により、これを行うものとする。

 ここで、第2項の町として認められるための条例はほぼ人口要件であり、都道府県により3,000人から15,000人までまちまちです。(町だけにね)
 また、市町村の合併の特例に関する法律の規定が適用されれば、人口が5万人以下であっても3万人以上であれば市として認められることがあります。
つまりめちゃくちゃ簡単に言えば、市町村の違いは、人口が
   市:3~5万人以上  町:0.3~1.5万人以上  村:それ以下
って感じですただし人口要件を上回っていても市政や町政を施行するかは任意であり、また人口減少に伴って自治体が町や村に降格されることは基本的にありません。そのため、人口約52,000人の広島県府中町という町や、人口約8,600人の北海道夕張市といった市も存在します。
 この記事では、そんな市町村の中でも一番規模が小さい「村」についてフォーカスしていきます。

減っていく「村」 

2018年と1999年における市町村数 ー Wikipedia「市町村」より

 上図の通り、「村」のカテゴリーに属する自治体は平成の大合併に伴って大きく減少しました。現在、数にして183村、大合併が行われる前の実に3割程度になっています。
 市町村合併が行われるメリットは大まかに以下の4つが挙げられます。
1:市町村境を取り払うことによる利便性・自由度の向上
2:行政サービスの多様化・高度化
3:まちづくりの広域化
4:行財政の効率化
 近年は特に地方分権が推し進められ、市町村政で行われる業務の内容が多様化、複雑化していきました。そのため、小規模な自治体である「村」の数々は近隣の大きな自治体に吸収、もしくは小規模な町村が集合して自治体の規模を拡大していくという形で市町村合併が進み、村の数は減少の一途を辿りました。しかし逆に考えると、このような社会の風潮に流されることなく「村」であることを貫いた自治体が183村もあるわけです。この記事では、そういった村がどういった理由で村であり続けるのか、実例を交えて紹介していこうと思います。

①地理的隔絶性

 合併が起こらない理由の一つとして、その自治体が近隣の自治体に対して「隔絶されている」ということが挙げられます。離島自治体などがそれにあたるのは想像に難くないでしょう。極端な例を挙げると、東京都小笠原村などがあります。小笠原村の中心部である父島と母島は東京から南に約1000kmほど離れた太平洋上に存在しており、アクセスにはフェリーで丸一日かかります。

小笠原、まさに孤島 ー Google Mapより

 こういった自治体はまず合併することはないといっていいでしょう。なぜなら、上段でも述べたように利便性の向上や財政の効率化に繋がらないため、合併するメリットがないのです。これが、「地理的隔絶性」ということです。また、こういった地理的隔絶性は平面の地図では認識しづらい場合があります。その例を紹介していきます。

 まず、皆様には各都道府県に村がどれだけ残っているのかをご覧頂きましょう。

各都道府県の基礎自治体数 ー Wikipedia「市町村」

 村数が0である自治体も多数見受けられますが、他県と比べて群を抜いて多い35村が残っている都道府県があることが表からわかりますね。そう、長野県です。ここで長野県の各基礎自治体の分布を見てみましょう。

長野県における基礎自治体分布 ー Wikipedia「長野県」

 この図を見る限りでは、県の東部や北東部、南部には町村が密集している地域があり、もっと盛んに市町村合併が行われていても差し支えないのでは……というような印象を受けます。しかしここで、上図赤枠で囲まれた朝日村と木祖村について見てみましょう。両自治体は隣接しており、一見すると合併によりアクセスが活性化されそうに見えると思います。しかし、両自治体の標高に応じてグラデーションを施し(暖色が強いほど標高が高い)、村役場の位置を赤丸で示します。すると……

地理院地図より作成(画質……)

両自治体の村境には尾根線が発達し、標高が高くなっていることがわかりますね。そう、つまり両自治体は山によって「隔絶」されているのです。ここを行き来するには、一山越えるか迂回をしなければなりません。これが山間部における地理的隔絶性なのです。この状態だと、合併が起こっても、あまり移動の利便性や自由度は高まりません。これは離島自治体のように距離的に隔絶されているものと違って、白地図では気づきづらいという特徴があります。
 長野県は北西に飛騨山脈、南部に木曽山脈、南東部に赤石山脈、東部に関東山地を擁する日本を代表する山脈地帯であり、県全体が山地と盆地から構成されています。従って、こういった非常に複雑な地理体系が長野県全体に地理的隔絶性を生じさせ、長野県には非常に多くの村が現存しているという傾向があります。

 以上のように、周囲から隔絶されている自治体は合併したくてもできないという現状があります。したがって、財政的に不安定であったり、深刻な過疎化・高齢化といった問題を抱えている自治体も多いです。
 しかし、それとは真逆の理由で合併をしない自治体も存在しています。

②財政の安定

 上記で述べたとおり、合併の目的には財政の安定化があります。村自治体は僻地に存在していることも多く、一次産業従事者の割合も高いため財政の安定性はあまりないのでは……と、思う方も多いのではないかと思います。その通り、実際そういった自治体は多いです。しかし一方で、村の財政が非常に安定しているためあえて合併を「しない」自治体も多くあります。皆様は、全国市町村の財政力指数の上位には町村が多くランクインしていることはご存知でしょうか?以下では財政が非常に安定している村の例をいくつか紹介します。

愛知県飛島村

 愛知県飛島村は愛知県西部、名古屋市と港湾地域で隣接する形で存在する人口4,400人ほどの村です。そしてこの村こそが前述した財政力指数が全国1位の自治体となっています。村域の多くに田園風景の広がる何の変哲もない村ですが、なぜこの飛島村はこんなにも財政が安定しているのでしょうか。
 そもそも財政力指数とは何かというと、総務省によると「地方公共団体の財政力を示す指数で、基準財政収入額を基準財政需要額で除して得た数 値の過去3年間の平均値」です。つまりは財政力指数が高い自治体ほど財政に余裕があり、住民一人ひとりにきめ細かい行政サービスの提供が可能となっていくわけです。飛島村は財政力指数が2.10(令和3年度)と、2を上回る財政力指数を持つ唯一の自治体です。ダントツです。

飛島村の地図 ー Google Mapより

 飛島村の財政がここまでも安定している理由は、南部の埋立地にあります。村南部に作られた埋立地には運輸企業の本社、物流センター、火力発電所、鉄工所などが林立し、輸出入が特に盛んである中京工業地帯の中でも物流や貿易の要衝となっています。こういった企業の固定資産税などが歳入として入ってくることで、飛島村は非常に財政の安定した自治体になっているのです。

青森県六ヶ所村

 青森県六ヶ所村は青森県東部、下北半島の付け根に位置する人口10,000人ほどの村です。六ヶ所村は財政力指数では飛島村に次ぐ2位の自治体となっています。

六ヶ所村の地図 ー Google Mapより

 六ヶ所村の財政の安定性は、村内に存在するエネルギー関連施設にあります。六ヶ所村には、日本原燃の原子力サイクル施設に加え、大規模な太陽光発電所ややませが吹く地理的特徴を活かした風力発電所などが存在しています。また、数々のエネルギー関連施設が同村域内に存在する珍しさからツアーなどが企画され、観光業的にも成功している側面もあります。

 今回ご紹介した飛島村や六ヶ所村のように財政が極めて安定している村は日本中に一定数存在しています。それらの多くは村に大企業の本社や工場、もしくは発電所などを誘致することで法人税や固定資産税を安定的に歳入として取り入れるという場合が多いです。また、これには地元住民の働き口も確保できるといったメリットがあります。
 こういった自治体は合併することで歳入が分散されることで住民一人当たりに充てられる公共サービスの質が低下してしまうことが懸念され、市町村合併の住民投票が行われても否決されてしまうことが多いです。
 ただし、こういった自治体は全体の自治体のうちほんの一部であり、現在の日本では町村をはじめ、零細な市までも財政難の課題を抱えている場合がほとんどです。というのもこういった大規模な誘致が可能である自治体は広大で未使用である平地を用地として提供可能である自治体に限られるためです。

終わりに

 この記事をここまで読んでいただいた皆様、としけん部員の独りよがりな自治体紹介にお付き合いいただいて誠にありがとうございます。
 今回は合併しない「村」に関してその事例の一部を紹介しました。この記事を読んで、いわゆる「村」に対するイメージが変わったと言う方もいるのではないでしょうか。しかし昨今では地方の過疎化が進み、多くの村自治体の人口は減少の一途を辿っています。現在、村の中には数十年後には消滅してしまうのではないかと言われている自治体も数多くあります。この記事で、皆様が少しでも「村」に対して少しでも興味を持っていただければ幸いです。

P.S.

   この記事とは全く関係ないのですが、筆者の好きなVtuberグループのにじさんじから先日デビューされた石神のぞみさんが配信で、自身が道路工事の状態及びその背景に思いを馳せることが好きな「道路工事フェチ」であるという旨のことを仰っており、非常に弊サークルとシンパシーを感じました。としけんもそういう人いっぱいいますからね(筆者をはじめ)。

Vの配信で「拡幅」という言葉が出てくるとは……推せる……

土木愛が溢れまくる彼女の本配信もぜひご覧になってみてください!
↓切り抜きと本配信

参考文献

・Wikipedia「市町村」「地方公共団体」「長野県」「小笠原村」「飛島村」「財政力指数」「中京工業地帯」「六ヶ所村」

・e-GOV法令検索「地方自治法」

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/chihou_seido/singi/pdf/No29_senmon_2_s6.pdf

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