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富海をアクロスのノイズで描く

先日、山口県の富海を訪れた。
訪れたといっても、仕事で広島から山口に移動している途中で1時間程立ち寄っただけだったが、じっくり写真を撮る事が出来てとてもいい時間を過ごせた。広島から徳山まで新幹線に乗り、そこからJRに乗り換えると富海駅がある。田舎が続く景色の途中、電車は富海の駅に泊まる。

梅雨明け前だったのもあり、その日もどんよりと曇っていた。
電車の窓から曇った空を見た時から、「今日はモノクロフィルムっぽく撮りたい」と思っていた。そもそもモノクロで普段撮っているので普段と変わらないと言えば変わらないのだが、曇っていつもよりグレーが多い景色を見ているとフィルムっぽさを強調した絵造りにしたいと思ったので、いつもと少しだけ設定を変えた。

フィルムシミュレーションはアクロス
ISOは800で固定
ダイナミックレンジは400%
ノイズリダクションは−3
シャドウトーンは−1
シャープネスは−1

絵造り・画質造りにフィルムメーカーならではのこだわりがある所が富士フイルムのいい所だが、その中でも「Acros(アクロス)」というモノクロフィルムのシミュレーションへのこだわりをインタビューで見て、感動したのを覚えている。

普通デジタルカメラは感度(ISO)を上げていくとノイズが出てしまう。
ノイズは基本的にない方がいいとされるものなので、感度は上げないようにしたがるもの。だがこのアクロスの場合は別で、驚いたのが「ノイズの乗り方を普通とは違うようにしている。シャドウとハイライトでノイズの乗り方を変えていて、それによってモノクロフィルムの粒子のような質感に近づけている」とのこと。
普通デジタルのノイズは画面にほぼ均質に乗ってしまう。だがフィルムの場合はハイライトには粒子があまり乗らず、シャドウ部に乗る事で質感描写などがされる。(最近ではあえてフィルム風に見せるためにノイズをエフェクトで後付けする場合もあるが、それも画面に均質に乗ってしまうのでやはり本物とはかけ離れているとの事。)

だから富士フイルムの方曰く、「デジタルアクロスの場合は感度を800以上にするといい感じの粒子が乗る」という全く発想が逆の画質設計なのだ。なので普段はシャッタースピードなどの問題もあるのでISO400ぐらいで使う事も多いが、今回は曇って光量が少ないので迷わず800にする事が出来た。

設定の済んだカメラを持ち、電車を見送り駅から歩き出す。



駅は無人駅で、故郷や祖父母の田舎を思い出す。



少し歩くと雨が降って来た。
傘は持っていなかったが、X-Pro2もこの日持ち出したXF23mm F2 、XF35mm F2も全て防塵防滴仕様なので気にする事なく撮影が出来る。カメラマガジンのX-T1のインタビューで海外の写真家が「カメラが防塵防滴になったのだから富士フイルムは次はカメラマンを防塵防滴にしないとね」というジョークを言っていたのを思い出す。



海に出ると誰もいない景色が広がる。
雨に濡れながら、夢中になってシャッターを切る。
夢中ではあるが、構図だったりタイミングだったりをブライトフレームで見る自分に冷静さも感じている。



人の痕跡に思いを馳せる。



基本はOVFで撮影するが、たまに露出の確認の為にEVFに切り替える。
その時に見えるモノクロの景色に感動する。
シャドウトーンを一つ下げているのもあってコントラストがいつもより柔らかい。f2シリーズのレンズはどうもシャドウが硬くなりがちな気がする。



波の音や、向こうで蠢く雲を見ていると自然を感じる。
駅以外で人に会う事はなかった。
自然と私だけの時間がとても心地いい。



おそらく夏本番になったら今回訪れた場所は海水浴客で賑わう場所なのだろう。そういった、人が集まる時に価値が見出される場所に1人ポツンといる時の寂寥や孤独に居心地の良さを少しだけ感じる。

だが、寂しいからモノクロで撮る訳ではないし、モノクロで撮るから寂しくなるのとも違うと思う。

今回の旅はモノクロの良さを改めて考える事が出来たのと、1人で黙々と自然に向き合う時間を作れた。アクロスの生み出すノイズが描く富海。
次に富海に行く事があれば、次は何を思うだろうか、何を感じる事が出来るだろうか。


フィルム写真の文化の一助になるよう活動を続けたいと思います。フィルムや印画紙、薬品の購入などに使わせて頂きたいと思うので、応援の程よろしくお願い致します!