タルタルとチキン南蛮
チキン南蛮とは果たして何なのか?
そんなことを考え始めたきっかけは「おぐら」のチキン南蛮を食べた時でした。宮崎市内にある、チキン南蛮にタルタルソースをかけはじめた発祥の店です。
食べた後の感想は、衣が独特、タルタルが濃いめ、味も少し濃いかなあ、という印象でした。あと値段が高かったのを覚えてます。おぐらを勧めてくれた友人に正直に伝えると、値段が高いのは行程が複雑だからだね。揚げてから甘酢に漬けるし、手間がかかってるからね。と言われて、ハッとしました。
「確かに。。。甘酢の味がした。だから、チキン南蛮って言うのか」
恥ずかしながら白状すると、私はチキン南蛮の南蛮の意味をずっとわかっていなかったのです。タルタルソースが添えられているものがチキン南蛮だと思っていました。迂闊! なぜそんなことに気がつかなかったのか。
しかし、よくよく思い出してみると、過去食べてきたチキン南蛮は必ずしも甘酢に浸かってたわけではなかったような気がしました。
恥を忍んで、SNSで食レポートをすると、え?知らなかったの?という呆れた反応の中に、自分もタルタルが南蛮だと思ってた、という人も散見しました。
やはり! そう、東京では必ずしも甘酢に浸してあるチキン南蛮ばかりではないのです。時に、唐揚げにタルタル添えもチキン南蛮と呼んだりします。紛い物だけど、それがまかり通る世の中。言葉の誤用が頻度を重ね大衆性を帯び、いつしか意味が逆転する、そんな現象でしょうか。タルタルの主張は強く、我こそが南蛮である、という顔を始めたのに違いありません。
しかし、おぐらを勧めてくれた友人によれば、宮崎県延岡市にはもう一つのチキン南蛮元祖のお店「直ちゃん」があって、タルタルソースがかかっていないのだ、と。自分としてはそのチキン南蛮の方が好きだと、友人は言いました。何と! タルタルのないチキン南蛮。それは食べてみたい!
友人に頼み込み、日を改めてお店に連れて行ってもらいました。実食し、驚愕しました。
胸肉に小麦粉を振り、卵液を絡めてあっさりと揚げ、さらに甘酢に浸したチキン南蛮は、食感も味も軽く、揚げ物とは思えない程。あっという間に平らげてしまうくらい、食べやすいものでした。そうか揚げ物をこうして食することが、本来の甘酢の目的なのだな。
とすると、タルタルソースに甘酢がかかっているのは、どうなのでしょうか? 甘酢であっさりさっぱり食べやすくしたものを、タルタルが一気にボリューミーで食べ応えのあるものへと変化させる。言わば、味のベクトルを逆転させるのです。タルタルチキン南蛮は食べ応えやボリュームを求め、食感もサクッとなるように衣も変わり、ジューシーさを求め肉もモモへと変化する。。対して、甘酢のみのチキン南蛮はあくまで軽く、油を緩和し、食べやすさを追求しています。
もちろん、私はタルタルのチキン南蛮も好きです。それで育ってきたから。しかし、甘酢のみのチキン南蛮があるのに、チキン南蛮、と呼称してもいいのでしょうか?
もう状況的に難しいかもしれないが、私は言いたい。タルタル添えのチキン南蛮は、敢えてチキンタルタルと呼称すべきだと。それは甘酢のチキン南蛮に対する敬意です。その食べ方の復権を目論見たい。
みなさん、ぜひ、タルタルのかかってないチキン南蛮を食べてみてください。チキン南蛮という言葉に隠された、歴史の変遷を味わえるはずです。
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