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『ミート・ザ・ピープル』(1944年6月1日・日本未公開・MGM・チャールズ・ライスナー)

シネ・ミュージカル史縦断。RKOでスターになったルシル・ボールとワーナー・ミュージカル黄金時代を築いたディック・パウエル主演のMGMミュージカル”Meet the People”『ミート・ザ・ピープル』(1944年6月1日・日本未公開・MGM・チャールズ・ライスナー)を米盤DVDでスクリーン投影。監督のチャールズ・ライスナーは、トーキー初期のMGMミュージカルの原点『ハリウッド・レヴィユー』(1929年)の監督。いわばベテランの登板である。

第二次大戦中の国策ミュージカルで、造船所の溶接工のディック・パウエルが、空軍のエースである従兄弟と手がけたミュージカル・ショーを、ブロードウェイのスタア、ルシル・ボールの協力で上演することになるが、果たして? というプロット。劇中、上演される舞台「ミート・ザ・ピープル」は1940年から41年にかけてブロードウェイで上演されたレビュー。これを原作に、バート・ラー、ヴァージニア・オブライエン、ジューン・アリスン、ラグス・ラグランド、ヴォーン・モンロー楽団、そして元祖「冗談音楽」のスパイク・ジョーンズとシティ・スリッカーズが出演。

ポスター・ヴィジュアル

ディック・パウエルとルシル・ボールの恋のさやあてと、戦時体制の造船所での「スイング・シフト」の大変さ、そして労働者たちを慰撫するエンターテインメントの楽しさを詰め込んでの、MGMらしいミュージカル・コメディとなっている。傑作ではないけど、ステージ場面の充実、贅沢な音楽シーンなど、眺めているだけでシアワセな気分になる。ちなみに、この頃のMGMミュージカルで大活躍していた、コミカルでとぼけた味わいの美人・ヴァージニア・オブライエンは、ブロードウェイ「ミート・ザ・ピープル」の出演者でもあり、舞台で唄った"Say That We're Sweethearts Again"(作詞・作曲:アール・K・ブレント)を披露してくれる。

わがフランキー堺とシティ・スリッカーズや、ハナ肇とクレイジーキャッツの原点でもあるスパイク・ジョーンズは、1930年代、ビクター・ヤング楽団在籍中から注目を集めていた。シティ・スリッカーズを結成してからは、ピストルや金槌、線路の切れ端など、あらゆる音の出るものを楽器として演奏する「冗談音楽」で一世を風靡する。ちょうど、この映画の前年、1943年、ディズニーの反ナチ漫画映画『総統の顔』の主題曲「Der Fuehrer's Face」がシングルとしてリリースされ、全米第2位を記録。その風刺精神で、たちまち人気者となる。本作でもステージで、ムッソリーニのそっくりさんが、ヒトラーのカツラとヒゲをつけたチンパンジーと一緒に登場。痛烈なプロパガンダを展開する。世間がスパイク・ジョーンズに期待していたのが「何か」がわかる。

ヴォーン・モンローはビッグバンドを率いて、甘いラブソングを歌って人気の歌手で、バンドリーダーだった。バリトンの歌声は素晴らしいが、スイング感、ジャイブ感がイマイチで、いささか固いイメージのクルーナー。戦後は、なんとカントリーに転向して成功することになる。とはいえ、他の戦意高揚ミュージカル同様、人気ビッグバンドにコミカルな音楽チーム、美人シンガーのヴァージニア・オブライエンに、アイドル的マスコットのジューン・アリスンの配分が楽しい。

ジューン・アリスン、ヴァージニア・オブライエン、ベティ・ジェーン

第二次大戦中、数々のミュージカルに出演して「アメリカの恋人」となったジューン・アリスンとディック・パウエルは本作で出逢い、翌1945年に結婚。ハリウッドきってのおしどり夫婦となる。ジューン・アリスンの出番は少ないが、クライマックスのステージでの"Smart to Be People"はルシル・ボール、パウエル、オブライエンと共演。髪の毛振り乱して、コミカルに、可愛く、パワフルにシャウトしてくれる。

ディック・パウエルの歳上の相棒で、コメディ・リリーフが『オズの魔法使』(1939年)の臆病ライオンことバート・ラー。その仲間に、やはりボードヴィル出身のラグス・ラグランド。妻が「スイング・シフト」で夜勤の時は、エプロンをして子育て炊事を担当。カリカチュアしているが、こうして銃後のアメリカ家庭を描いている。

デラウェア州モーガンビルの造船所の溶接工・ウィリアム”スワニー"スワンソン(ディック・パウエル)は、密かにミュージカル・レビュー「ミート・ザ・ピープル」の脚本を執筆していた。

ある日、造船所で「戦時国債販売」キャンペーン・ショーのためにステージに立ったブロードウェイのスター、ジュリー・ハンプトン(ルシル・ボール)に一目惚れ。このステージで、ヴォーン・モンローが唄い、楽団が演奏するのが、"I Can't Dance (I Got Ants in My Pants)"。1940年代のスイング・エラならではの楽しさ。

最も高額の「戦時国債」購入者にジュリーとのデート権がプライズなので、スワニーは機転を利かして、小口購入者にジュリーとキスが出来ると喧伝。自己資金ゼロで、またたくまに7500ドルも売上てしまう。まるで無責任男のような如才のなさ。

で、スワニーは街一番のレストラン「ザ・リッツ」にジュリーを招待するが、行ってみると、なんと労働者たちの集まるダイナーだった。そこでハンバーガーを買って、スワニーは一番美しい風景の場所に、ジュリーを連れて行く。

このデートで、スワニーは空軍にいる従兄弟・ジョンが作曲、自分が作詞して脚本を書いたミュージカル「ミート・ザ・ピープル」の話をする。そこで二人が、ラブソング"In Times Like These"(作曲:サミー・フェイン 作詞:イップ・ハーバーグ)をデュエットする。ルシル・ボールの吹き替えは、グロリア・グラフトン。この曲は、ヴォーン・モンロー楽団によりリプライズされる。

メイン・ヴィジュアル

ジュリーは、その脚本をブロードウェイのプロデューサー、モンテ・ローランド(モリス・アンクルム)に売り込むことに。モンテは、気に入らない箇所は、スタンダードナンバーに差し替えることを条件に、ショーを上演することとなる。仲間たちの声援をうけて、モーガンビルから汽車でニューヨークへ向かうスワニー。駅での壮行会で、スパイク・ジョーンズとシティ・スリッカーズが演奏するのが、前年に大ヒットした"Der Fuehrer's Face"「総統の顔」。スパイク・ジョーンズの周りには、ジューン・アリスン、ヴァージニア・オブライエン、バート・ラーの顔、顔、顔。

汽車のなかで、あまりの嬉しさにはしゃぐスワニー。隣の客や、車掌に「ミート・ザ・ピープル」の題名を連呼してアピール。うとうとして夢の中で、スワニーが"Meet the People"を唄うミュージカル・シーンがゴージャスに展開する。期待に胸を膨らませたスワニー、ブロードウェイの劇場に「作者です」と胸を張って入って、リハーサルを客席から観ることに。

ロビーカード

ドレス・リハーサルのステージには、ブラック・タキシードに短いスカート姿のダンサーがずらり。のちにジュディ・ガーランドが『サマーストック』(1950年・チャールズ・ウォルターズ)”Get Happy"を唄い踊る、ショーストッパーのシーンで着ていた衣装の原型である。これは1943年の”Presenting Lily Mars”(ノーマン・タウログ)のクライマックス、ジュディ・ガーランドがダンサー(でのちに監督となる)のチャールズ・・ウォルターズと踊った”Broadoway Rhythm"の時にバックダンサーが着ていた衣裳。おそらく流用だろう。のちにチャールズ・ウォルターズが監督となり、ジュディ・ガーランドの『イースター・パレード』(1948年)で演出した”Mr.Monotony”の衣装となる。しかし、このナンバーがカットされてしまったために、リベンジとして撮ったのが『サマーストック』”Get Happy"だった。

閑話休題。このブラック・タキシードのダンサーが踊り、ゴージャスな衣裳のルシル・ボールがステージ中央に現れて"Meet the People"をリプライズで唄う。これぞMGMミュージカル!といったヴィジュアルだが、スワニーは「何にもわかっちゃいない!」と激怒。プロデューサーに噛み付いて、その足でモーガンビルへ帰ってしまう。プロデューサーのモンテ・ローランドにしても「なら、契約は破棄」「ミート・ザ・ピープル」を中止にしてしまう。

そのやり方に腹を立てたジュリーは、ニューヨークから再びモーガンビルへ。なんと工員として造船所へ勤めるという大胆な行動に出る。まあ、この時代、第二次世界大戦の激化のなか、アメリカ国内に残った「銃後の女性たち」は若い娘でも、主婦でも、増産に励むため工場勤めをすることが美徳だった。日本では「勤労動員」として、誰も彼も駆り出されたが、アメリカではあくまでも「自由意志」。こうした映画や、テックス・アヴェリーの漫画映画”Swing Shift Cinderella”(1945年)の工場勤めする赤頭巾ちゃんなどで、働く女の子が描かれていた。強制はしないけど奨励する、である。

Smart to Be People"

工場では従業員のためのアトラクションが開催される。アクロバティック・ダンスをミリアム・ラベールが踊る"Acrobatic Dance Music" では、クレーンに吊るされたミリアムがステージへ。クルクル回り、最も簡単に逆立ちダンスや空中回転を披露。ハリウッド・ミュージカルには、こうしたボードヴィリアンの芸を色々と見せてくれる。

続いて幕が開くと、中世のベニスを思わせるセットに、大きなゴンドラに乗ったスパイク・ジョーンズとシティ・スリッカーズの面々が登場。”サンタルチア”の冗談音楽演奏で始まる"Shicklegruber"は、アドルフ・ヒットラーの母・マリア・アンナ・シックルグルーバーの名前をもじったもの。ムッソリーニに扮した男と、ヒットラーの扮装をしたチンパンジーが滑稽なナンバーを繰り広げる。チンパンジーの表情が豊かで驚かされる。シティ・スリッカーズは演奏というより音楽コントで、東宝クレージー映画での谷啓発案の音楽コントのようなアトラクションになっている。

で映画は、この後「ルーシー、造船所で働く」となる。つまりのちの「アイ・ラブ・ルーシー」のような展開となっていく。ジュリーは、同僚たちをキャスティングして工場の仲間たちで新たな「ミート・ザ・ピープル」を作ろうと提案。スワニーも賛同して、モンテと新たな契約を結ぶことに。

ところが、このプロジェクトをジュリーの愛国美談にしようとモンテが仕組んで、パブリシティ作戦を展開。マスコミが殺到して、作業服姿のジュリーの取材をはじめて、それをジュリーはごく普通に受けていたことに腹を立てて大喧嘩。まあ、これに限らずスワニーは、癇癪持ちというか、自分勝手というか、すぐに怒ったり、怒鳴ったり。よくない性格だなぁ。

造船所でのダンスパーティでは、ヴォーン・モンロー楽団がロマンチックな"In Times Like These" をリプライズ演奏。甘く囁くモンローのヴォーカル。うっとりと踊るカップルたち。しかしスワニーとジュリーは仲違いをしたまま。続いてアニー(ジューン・アリスン)がステージに駆け上がり「私、ヴォーン・モンローさんのファンクラブの副会長です」と演奏曲をリクエスト。しかしテンポやスタイルが、なかなかアニーが気に入らない。ここで"I Like to Recognize the Tune"をリクエスト。ヴォーン・モンローとジギー・タレント、ヴァージニア・オブライエン、そしてキング・シスターズが参加しての楽しいナンバーが繰り広げられる。ここはジューン・アリスンの見せ場!

続いて"Oriental Music"をエキゾチックなダンス・カップル”マタ&ハリ”!が踊る。「可愛い魔女ジニー」のような出立ちのマタと、「アラジン」のジニーのようなハリのダンスが展開される。

スワニーとの仲はギクシャクしたまま、ジュリーは諦めずに、工場の仲間のコマンダー(バート・ラー)、その彼女の”ウッドペッカー”ペグ(ヴァージニア・オブライエン)、スミティ・シムズ(ラグス・ラグランド)、アニー(ジューン・アリスン)たちの協力で着々とショーの準備を始める。

やがてスワニーの叔父・フェリックス(スティーブン・ギャレイ)は、「ミート・ザ・ピープル」の作曲家である息子・ジョン・スワンソン(ジョン・クレイブン)に、「ミート・ザ・ピープル」がブロードウェイでショーになった経緯を話す。そのジョンが軍隊から帰還する途中に怪我をしてしまい、スワニーはジョンのために「ミート・ザ・ピープル」を上演することに…しかしジュリーとは仲違いしたまま、スワニーはショーの資金集めに奔走する。

一方、ジュリーは工場の仲間たちと準備を進めいよいよ公演の当日となる。会場は造船所。巨大な船が完成した記念のイベントとして「ミート・ザ・ピープル」の幕が開く。ジョンの指揮でオーバチュアが始まる。ジュリーはスワニーと仲違いしたままなので、モチベーションが上がらなかったが…

ジョンの演奏が終わると、ステージには”ウッドペッカー”ペグ(ヴァージニア・オブライエン)が登場。ブロードウェイの舞台でもも彼女が唄っていショーストッパーとなった"Say That We're Sweethearts Again"のナンバーとなる。

躊躇していたがスワニーは、ようやく開場に到着する。出演者やスタッフから話を聞き、プログラムを見て、初めてスワニーは、ジュリーは自分のためにショーを計画したことを知り、大感激する。

いよいよクライマックスのナンバー。ジュリーが"Smart to Be People" を唄い出し、大きなステージで男女のダンサーたちが踊っていると、そこへスワニーが唄いながら登場。びっくりするジュリー、すぐに嬉しそうな顔になって二人のデュエットが始まる。そしてヴァージニア・オブライエン、ジューン・アリスンも参加。楽しいナンバーが繰り広げられる。ジョニー・グリーンの編曲は、これぞMGMミュージカルのサウンド! 派手なナンバーが展開するなか、クライマックスは進水式。ジュリーがシャンパンの瓶を叩きつけると船が出奔する。音楽が最高潮に盛り上がってエンドマークとなる。

【ミュージカル・ナンバー】
♪ミート・ザ・ピープル Meet the People(1940)

作曲:ジェイ・ゴーニー 作詞:ヘンリー・マイヤーズ
*タイトルバックのインスト演奏
*唄:ディック・パウエル、コーラス(白日夢のシーン)
*唄(リプライズ):ルシル・ボール(吹替・グロリア・グラフトン)、コーラス(ドレス・リハーサル)
*唄(エンディング):コーラス

♪イン・タイムス・ライク・ディーズ In Times Like These(1944)

作曲:サミー・フェイン 作詞:イップ・ハーバーグ
*タイトルバックの演奏
*唄:ディック・パウエル、ルシル・ボール(吹替・グロリア・グラフトン)
*演奏・唄:ヴォーン・モンローとその楽団

♪アイ・キャント・ダンス I Can't Dance (I Got Ants in My Pants)(1934) 

作曲:クラレンス・ウィリアムズ 作詞:チャールズ・ゲインズ
唄・ダンス:ジギー・タレント、ヴォーン・モンロー楽団

♪総統の顔 Der Fuehrer's Face(1942) 

作:オリバー・ウォレス
演奏・パフォーマンス:スパイク・ジョーンズとシティ・スリッカーズ

♪アクロバティック・ダンス Acrobatic Dance Music

作曲:不明
ダンス:ミリアム・ラヴェール

♪シックル・グルーバー Shicklegruber(1944)

作曲:サミー・フェイン 作詞:イップ・ハーバーグ
ランメルモールのルチア(1835)より 曲:ガエターノ・ドニゼッティ
演奏・パフォーマンス:スパイク・ジョーンズとシティ・スリッカーズ

♪ピアノ演奏 Piano Instrumental

作曲:不明
ピアノ:リチャード・ホール

♪ライフ・オン・オーシャン・ウェーブ A Life on the Ocean Wave(1838) 

作曲:ヘンリー・ラッセル 作詞:エイプス・サージェント
*ジュリー・ハンプトン登場前の音楽として、バンド演奏

♪ヒーヴ・ホー Heave Ho(1944)

作曲:ハロルド・アレン 作詞:イップ・ハーバーグ
*唄:バート・ラー

♪アイ・ライク・トゥ・レコギナイズ・ザ・チューン I Like to Recognize the Tune (1939)

作曲:リチャード・ロジャース 作詞:ロレンツ・ハート
*唄:ジューン・アリスン、ヴァージニア・オブライエン、ジギー・タレント、ヴォーン・モンロー、キング・シスターズ
*演奏:ヴォーン・モンロー楽団

♪オリエンタル・ミュージック Oriental Music

作曲:不明
*ダンス:マタ&ハリ

♪もう一度、恋人と言って Say That We're Sweethearts Again(1944)

作詞・作曲:アール・K・ブレント
*唄:ヴァージニア・オブライエン

♪イッツ・スマート・トゥ・ビー・ピープル It's Smart to Be People(1944)

作曲:バートン・レーン 作詞:イップ・ハーバーグ
*唄:ルシル・ボール(吹替・グロリア・グラフトン)、ディック・パウエル、ヴァージニア・オブライエン

♪サンタルチア Santa Lucia

ナポリ民謡 
*演奏:スパイク・ジョーンズとシティ・スリッカーズがムッソリーニのネタを展開するときに唄う。


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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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