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『大学の山賊たち』(1960年・東宝・岡本喜八)

喜八コメディの魅力!

「明るく楽しい東宝映画」といえば、都会派喜劇。戦前のP.C.L.時代のエノケン、ロッパの昔から人情喜劇とは対極にあるモダニズム感覚あふれるコメディが東宝カラーを作っていた。岡本喜八が助監督としてついたマキノ雅弘の「次郎長三国志」シリーズや、松林宗恵の『社長三代記』もしかり。モダンなコメディは東宝という会社の伝統でもあった。

 男性活劇や戦争アクションと並んで、喜八映画のベースとなるのがコメディである。漫画映画の「なぜかこうなる」式の視覚ギャグ、ポンポンと飛び出す会話の妙。現場でのアドリブに笑いを求めた「社長」や「駅前」と違い、喜八映画の笑いは、リズミカルなカッティングによるフィルムの笑いである。編集の妙味。「お姐ちゃん」や「若大将」の明朗さとも違う。ドライでシニカル、しかしユーモラス。それが、佐藤允、ミッキー・カーティス、中丸忠雄といった俳優や、堺三千男、中山豊といったバイプレイヤーによって演じられる。

 昭和35(1960)年7月31日公開の『大学の山賊たち』は、岡本喜八らしいコメディだろう。大学の山岳部の山崎努、久保明、佐藤允、ミッキー・カーティスらのパーティが、北アルプスに必死にトライしている。そこにハイキング気分の呑気なデパートガール5人組が登場。このデパガは、白川由美、横山道代、笹るみ子(なべやかんのお母さん)たち。一見明朗青春映画として始まるが、山小屋で三十年前に夫を雪崩で失った未亡人・越路吹雪が現れ、デパートの社長・上原謙が、スキー場経営のために山小屋買収にやってくるあたりから独特の味わいとなる。上原が越路の亡夫とそっくりで、幽霊と間違えてしまう。

 そこから一気にノエル・カワードの「陽気な幽霊」のような、幽霊喜劇となる。浮世離れした越路吹雪たちの描写、スピーディな現代若者たちのコミカルなやりとり。さらに銀行ギャングの中丸忠雄と、若松明が山小屋に立て籠るという急展開をみせる。これはもちろん助監督としてついた師匠・谷口千吉の『銀嶺の果て』のパロディでもある。

 異なるジェネレーションと立場の人間が入り乱れての狂想曲を、大胆なカット編集で、映画そのものにリズムを刻んでゆく。俳優たちの動きや台詞はあくまでも素材、それを編集で切り刻んで繋ぐと喜八流のコメディとなる。余談だがこの映画の撮影現場に、俳優見習いのある若者が訪ねて来たという。その若者は映画の撮影見学よりも、スタッフやキャストとオイチョカブを夜明かしで楽しんだとか。それから一ヶ月後、若者は東宝に入社、加山雄三として喜八監督の『独立愚連隊西へ』で、佐藤允とともに主演することになる。



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