見出し画像

『四十二番街』(1933年・ワーナー・ロイド・ベーコン)

シネ・ミュージカル縦断。”ダウン・オブ・サウンド”つまり源流を辿るという意味で、昨夜の娯楽映画研究所シアターは、バズビー・バークレイの「万華鏡的」ミュージカルを世界に知らしめたマスターピース”42nd Street”『四十二番街』(1933年・ワーナー・ロイド・ベーコン)をスクリーン投影。

アマプラで配信中のジュネス企画の字幕版は初めて観た。1980年、ブロードウェイでガワー・チャンピオン演出により舞台化され、日本でもNHKホールで来日公演があり、足を運んだ。バズビー・バークレイのシネ・ミュージカルのステージ化ということで大興奮した。その上演に合わせてテレビで吹替版が放映され、録画して繰り返し、繰り返し観た。

初のトーキー映画『ジャズシンガー』(1927年・ワーナー)でアル・ジョルソンの「お楽しみはこれからだ」の名台詞から、ミュージカル映画の歴史が始まった。それをファーストインパクトとするなら、ミュージカル映画の革命、エポックメイキングとなったのが『四十二番街』(1933年3月9日・アメリカ公開)である。

トーキー初期のミュージカル、レビュー映画では、舞台を丸撮りするような形でダンスや歌唱場面、スペクタクル・ナンバーを撮影していたが、本作では映画ならではの俯瞰ショットやモンタージュ、パフォーマーの顔のアップなどを多用し、映像をコラージュする形でナンバーを構築。舞台では観ることができないアングルで、コーラス・ガールたちの美しい脚や、ボディラインをクローズアップ。ダンサーたちの群舞をマスゲームのように撮影して「映画ならではの表現」で斬新なプロダクション・ナンバーを作り上げた。

その演出を担当したのがバズビー・バークレイ。ブロードウェイで二十数作の舞台を手掛け、ブロードウェイ版を演出したサミュエル・ゴールドウィン製作の『フーピー』(1930年)でコレオグラファーとして招かれた。エディ・キャンター主演の『突貫勘太』(1931年)での”Yes Yes"のナンバーでは、コーラス・ガールたちの円陣を俯瞰ショットで捉えて、万華鏡的なヴジュアルを現出。そのインパクトはまさに革命的だった。

バークレイは、1932年にファーストナショナル(ワーナー)に引き抜かれてロレッタ・ヤング主演のロマンチック・コメディ”She Had to Say Yes”でジョージ・アーミーと共同監督となり、初めて映画の演出を手掛けた。

続いてファースト・ナショナル社が大作ミュージカルとして企画した『四十二番街』のコレオグラファーとしてスペクタクル・ナンバーを任された。ここでバークレイは、あらゆる映画的手法を駆使して「バークレイ・ショット」「バークレイ・スタイル」と呼ばれる独自の映像世界を作り上げた。

さて『四十二番街』は、ブラッドフォード・フォーブスが1932年に発表した小説”42nd Street”を原作に、ライアン・ジェームスとジェームス・シーモアが脚色。監督のロイド・ベーコンは、『アルコール先生公園の巻』(1915年)や「チャップリンのスケート』(1917年)などチャールズ・チャップリン映画に俳優としてキャリアをスタートさせ、マック・セネット製作のコメディ映画で演出家となった。サイレント時代からコメディ、西部劇、ギャング映画をてがけ、トーキー初期には、アル・ジョルソン主演『シンギング・フール』(1928年・ワーナー)などミュージカル映画も手掛けていた。

ブロードウェイのベテラン演出家にワーナー・バクスター、ヴォードヴィル芸人からスターとなった女優にビーブ・ダニエルズ、その恋人にジョージ・ブレント。コーラス・ガールから代役で舞台の主演を務めるヒロインにルビー・キラー、彼女に思いを寄せる歌手にディック・パウエル、コーラスガールに、ジンジャー・ロジャース、ウナ・マーケルが出演。舞台「プリティ・レディー」上演に向けて5週間のリハーサルを経て、運命の初日を迎えるまでのバックステージもの。ショービジネスに生きる演出家、俳優、コーラス・ガール、スタッフたち、それぞれのドラマを群像劇として描いていく。

雑誌のグラビア紹介

作曲・ハリー・ウォレン、作詞・アル・デュービンのコンビによる"Shuffle Off to Buffalo""Young and Healthy""42nd Street"といった名曲の数々が本作から生まれた。バークレイ振付、演出によるこれらのプロダクション・ナンバーは、まさにくシネ・ミュージカルのエポックメイキングとなった。前述のブロードウェイ・ミュージカル”42nd Street”では、これらのナンバーを初め、ワーナーで連作されたバークレイの『フットライト・パレード』『ゴールドディガーズ』(1933年)や『泥酔夢』(1934年)などのプロダクション・ナンバーをステージで再現することとなる。

1932年のニューヨーク。世界大恐慌で大打撃を受け、心身ともに消耗したかつての名演出家・ジュリアン・マーシュ(ワーナー・バクスター)は、おもちゃメーカーを経営する成金・アヴナー・ディロン(ガイ・キビー)の出資で、新作舞台「プリティ・レディ」を製作することに。病魔に冒されていたジュリアンにとってはこれが最後の舞台になるかもしれないと、病を押してリハーサルに望む。

ジュリアンが出資を決めたのは、お気に入りの女優・ドロシー・ブルックス(ビーブ・ダニエルズ)が主演するという条件だった。ヴォードヴィル出身のドロシーには、かつての相棒パット・デニング(ジョージ・ブレント)という恋人がいたが、成功者と敗残者のカップルではうまくいくはずもない。

コーラス・ガールのオーディションの当日。演出助手・トーマス・バリー(ネッド・スパークス)の恋人・ロレイン・フレミング(ウナ・マーケル)や「枕営業」で金持ちの鼻毛を抜いている”ゴールドディガーズ”のアン・ローレル(ジンジャー・ロジャース)たちが劇場にやってくる。のちにMGMミュージカル「ブロードウェイ・メロディ」シリーズなどで活躍するウナ・マーケル。RKOでフレッド・アステアとコンビを組んでダンス・ミュージカルの黄金時代を築くジンジャー・ロジャース。この二人がコーラスガールとして目立っているが、『四十二番街』には、他にも”その後のスター”がコーラス・ガールとして出演している。ロレッタ・アンドリュース、ジョーン・バークレイ、ミュレル・バーネット、そしてルース・エディングスなどなど。眺めているだけでも楽しい。

ワーナー・バクスター(中央)コーラス・ガールたち。その左がルビー・キラー、右がジンジャー・ロジャース

そのオーディションに、何もかも初めての新人・ペギー・ソーヤー(ルビー・キラー)も参加。ロレインとアンの機転でコーラス・ガールとして起用される。ジュリアンの激しく厳しい演出は、ペギーたちにとっては過酷なものだったが、彼女たちはジュリアンのシゴキに耐え抜く。フィラデルフィアでのトライアウトまでの5週間、さまざまな人間模様が描かれていく。

フィラデルフィアのプレミアの前夜、主演女優のドロシー・ブロックがアクシデントで足首を骨折。「プリティ・レディ」上演はピンチを迎える。追い詰められたジュリアンは、なすすべもないが、コーラス・ガールのアン・ローウェルの提案で、ペギー・ソーヤーが代役に抜擢される。上演までは五時間しかない。ペギーはジュリアンとのマンツーマンで猛特訓に挑む。いよいよ開演一時間前となった時に、松葉杖のドロシーが楽屋にやってくる。「楽屋口に入るまでは、あなたのことを嫉妬していたけど。これはあなたにとって最大のチャンスなの、頑張って!」と励ますドロシー。

オーケストラがオーバーチュアを演奏し、コーラス・ガールたちが舞台袖に集まる。いよいよ、ミュージカル「プリティ・レディ」の運命の幕が開く…

♪バッファロー行きの汽車 Shuffle Off to Buffalo

作曲:ハリー・ウォレン 作詞・アル・デュービン
*唄・ダンス:ルビー・キラー、クラレンス・ノードストーム
*唄:ジンジャー・ロジャース、ウナ・マーケル、コーラス

♪ヤング・アンド・ヘルシー Young and Healthy

作曲:ハリー・ウォレン 作詞・アル・デュービン
唄:ディック・パウエル、コーラス・ガールズ

♪42番街 Forty-Second Street

作曲:ハリー・ウォレン 作詞・アル・デュービン
*オープニングタイトル伴奏
*唄・ダンス:ルビー・キラー(「プリティ・レディ」のステージ)
*唄:ディック・パウエル、コーラス(「プリティ・レディ」のステージ)

【ミュージカル・ナンバー】

♪42番街 Forty-Second Street(1932) (uncredited)

作曲:ハリー・ウォレン 作詞・アル・デュービン
*オープニングタイトル伴奏
*唄・ダンス:ルビー・キラー(「プリティ・レディ」のステージ)
*唄:ディック・パウエル、コーラス(「プリティ・レディ」のステージ)

♪あなたと一緒に You're Getting to Be a Habit with Me(1932) (uncredited)

作曲:ハリー・ウォレン 作詞・アル・デュービン
*オープニングタイトル伴奏
*唄:ビーブ・ダニエルズ、ハリー・アクスト(リハーサル・ピアノ伴奏)

♪6月でなければ It Must Be June(1932) (uncredited)

作曲:ハリー・ウォレン 作詞・アル・デュービン
*唄:ビーブ・ダニエルズ、ディック・パウエル、コーラス・ガールズ

♪ラブ・テーマ Love Theme(1932) (uncredited)

作曲:ハリー・ウォレン
*インスト(ペギーとパッドのアパート・シークエンス)
*インスト(ペギーのリハーサル・シークエンス)

♪プリティ・レディ Pretty Lady(1932) (uncredited)

作曲:ハリー・ウォレン
*ファスト・ダンスナンバー:コーラス・ガール(ショーのオープニング)

♪バッファロー行きの汽車 Shuffle Off to Buffalo(1932) (uncredited)

作曲:ハリー・ウォレン 作詞・アル・デュービン
*唄・ダンス:ルビー・キラー、クラレンス・ノードストーム
*唄:ジンジャー・ロジャース、ウナ・マーケル、コーラス

♪ヤング・アンド・ヘルシー Young and Healthy(1932) (uncredited)

作曲:ハリー・ウォレン 作詞・アル・デュービン
唄:ディック・パウエル、コーラス・ガールズ





よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。