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『ガンマン大連合』(1970年・伊・西独・西・セルジオ・コルブッチ)

「ガンマン大連合」ポスター

先日、Netflixで、クエンティン・タランティーノが出演して「マカロニウェスタン=スパゲッティ・ウエスタンへの愛」を熱く語るドキュメンタリー『ジャンゴ&ジャンゴ:コルブッチとマカロニ西部劇のレガシー』を楽しく観た。僕らの世代「マカロニ・ウエスタン」は、テレビで体験した世代。正統派西部劇を「是」とする父親(昭和ひとけた世代)にとっては「邪道」で「亜流」だったので、テレビでもなんとなく「二番手」というイメージだった。

それが大きく変わったのが小学4年の7月、TBS「月曜ロードショー」でクリント・イーストウッド&セルジオ・レオーネ監督の『荒野の用心棒』(1964年)を観てから。「こんなに面白い映画があるんだ!」と大興奮した。黒澤明監督の『用心棒』(1961年・東宝)を観るのは、もう少し後なので、僕のなかではイーストウッドがオリジンでもある。

で、その翌週に月曜ロードショーで放映されたのが、フランコ・ネロ主演『続・荒野の用心棒』(1966年・セルジオ・コルブッチ)だった。これには心底痺れた。棺桶をズルズルと引きずった”さすらいのガンマン”ジャンゴ(フランコ・ネロ)のニヒリズム。何を考えているのかさっぱりわからない男。およそヒーローとは程遠い。悪党一味に殺されかかっていた娼婦マリア(ロレダーナ・ヌシアク)を助け、ジャクソン少佐(エドアルド・ファヤルド)の配下の悪どもを射殺する。後半、ジャンゴが両手を潰されたり、残虐かつ陰惨な描写が続く。しかしジャンゴが、ガドリング砲をぶっ放すクライマックスに、11歳の僕は大興奮。これがセルジオ・コルブッチ初体験だった。今から20年ほど前、リビングで『続・荒野の用心棒』をDVDで観ていたら、例の「耳」のシーンでカミさんから「なんて映画を観てるの!」と驚かれ、以来密かに観ることに(笑) 

さて『続・荒野の用心棒』を観てすぐ、同じ7月にNET(現・テレビ朝日)の「土曜洋画劇場」で観たのがコルブッチの『豹/ジャガー』(1968年)だった。つまり1ヶ月の間に3本のコルブッチ作品と出会ったわけである。

これもフランコ・ネロ主演ということで観たのだが、ジャンゴとは真逆のスマートなキャラクターで、どちらかというと植木等さんの「無責任男」のような如才のなさが魅力的だった。メキシコ革命下、ゲリラ軍の軍事指導を買って出た早討ちのガンマン”ジャガー”と、革命に憧れるパコ(トニー・ムサンテ)の友情、出し抜き合い。ジャック・パランスの悪党カーリーとの三つ巴の戦いが、明るいタッチで描かれ、『続・荒野の用心棒』の陰惨さと真逆の魅力があった。

それから、同世代の映画ファン同様、玉石混淆のマカロニ・ウエスタンを、テレビの洋画劇場で次々と観た。その中でセルジオ・レオーネの傑作たちは光り輝き「別格」だった。同時にセルジオ・コルブッチの作品は、娯楽映画として、とにかく面白く、刺激的で惹かれるものが多かった。

特にジャン=ルイ・トランティャンが、声帯を切られて言葉を失ったガンマン”サイレンス”を演じた『殺しが静かにやって来る』(1968年)は、格別というか特別な作品だった。わが眠狂四郎や「大菩薩峠」の机龍之介のような幽明を彷徨うガンマン、という感じで、とにかくカッコ良かった。しかもラストは、かなり衝撃的で、初見の時は呆然とした。同じ頃テレビで観た、『シノーラ』(1972年・ジョン・スタージェス)でクリント・イーストウッドが演じたジョー・キッドに”サイレンス”と同じ匂いを感じた。

セルジオ・レオーネが本流、黒澤明監督だとするなら、セルジオ・コルブッチは舛田利雄監督のような「なんでも面白くしてやる」精神の娯楽映画監督である。滅法面白い映画に、社会への怒りや自分のモラルが色濃く反映されている。タランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)で、落ち目となったテレビスター・リック・ダントン(レオナルド・デカプリオ)は、コルブッチのスパゲティ・ウエスタンに主演するためにイタリアへ飛ぶ。この時は「おお!」と思わず声を上げそうになった。

リック・ダルトン主演「ネブラスカ・ジム」(セルジオ・コルブッチ)のフェイク・ポスター 「ワンハリ」劇中より

というわけでNetflix『ジャンゴ&ジャンゴ:コルブッチとマカロニ西部劇のレガシー』を観て、久しぶりにコルブッチ作品を観たくて、DVD棚から引っ張り出してきて見始めた。

『ガンマン大連合』(1970年・イタリア・西ドイツ・スペイン)

「ガンマン大連合」アド

セルジオ・コルブッチ”Vamos a matar, compañeros”『ガンマン大連合』(1970年)を久しぶりにDVDでスクリーン投影。エンニオ・モリコーネのキャッチーな主題歌”compañeros”に乗せて展開する、痛快、爽快、そして胸熱の「メキシコ革命」マカロニ・ウェスタン。

『豹/ジャガー』(1968年)のバリエーションでありながら、その間に横たわっているのは、サム・ペキンパーの『ワイルドバンチ』(1969年)。だから『豹/ジャガー』で提示された「革命に憧れる若き狼=青二才」と、フランコ・ネロの海千山千のプロフェッショナルとの、出し抜き合いと友情。そしてジャック・パランスの悪党との対決。というフォーマットは同じだけど、いろんな意味で「深化」しているのがいい。

スエーデン人の武器商人・ヨドラフ (フランコ・ネロ)と、革命に生命をかけるエル・バスコ (トーマス・ミリアン)。そして世ドラフに恨みがあるアメリカ人・ジョン(ジャック・パランス)。そして美しき革命の志・ローラ (イリス・ベルベン)。この関係性は『豹/ジャガー』を踏襲している。

に加えて、革命の指導者であり非暴力主義のサントス教授 ( フェルナンド・レイ)を登場させることで、殺し合うことの愚かさ、滑稽さ、虚しさ、非情さが際立つ。コルブッチらしい直裁的な描写とコメディ・センス爆発の笑い。そしてジャック・パランスの悪辣さ。今回は、ジャック・パランスが「ハヤブサ使い」というのもいい。かつてヨドラフに裏切られ、敵に磔にされたとき、釘を打ち付けられた手のひらを、ハヤブサに肉を食われて九死に一生を得たという設定。そのハヤブサと、教授が大事にしているカメの対比。これも「暴力と非暴力」の対比である。

で、マカロニ・ウエスタンとしての見せ場が山ほどあってのラスト。『豹/ジャガー』では革命に加わらずに、傍観者として相棒を見送ったフランコ・ネロが、勝ち目のないメキシコ国軍との戦いに挑むところで映画が終わる。

そういう意味でも『豹/ジャガー』→『ワイルドバンチ』→『ガンマン大連合』なのだなぁと納得。とにかく、ヒロインのイリス・ベルベンの美しさ!これにつきます。冒頭のロングヘアー、中盤からのショートヘアー、いずれもヨシ!


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