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『独身者と女学生』(1947年・RKO・アーヴィング・レイス)

 番匠義彰監督作品の「面白さ」を、松竹大船の系譜から考えても、どうしても説明しきれないので、この半月、ハリウッド黄金期のスクリューボール・コメディを検証している。

 昨夜は、あのシドニー・シェルダンが1948年のアカデミー・オリジナル脚本賞を受賞した『独身者と女学生』(1947年・RKO・アーヴィング・レイス)をスクリーン投影。原題は”The Bachelor and the Bobby-Soxer”。ボビー・ソクサーとは、1940年代、第二次対戦中、男性が戦争に駆り出されるなか、颯爽と登場したフランク・シナトラに熱狂したハイティーンの女の子たちのこと。男の子のようなソックスを履いている、という意味でBobby-Soxerと呼ばれた。

 タイトルロールのThe Bachelorには、1930年代ロマンチック・コメディのリーディング・スター、ケイリー・グラント。the Bobby-Soxerには、1930年代の天才子役・シャーリー・テンプル。ハイティーンになったシャーリー・テンプルが、大人の男性・ケイリー・グラントにお熱を上げる、という発想で作られたコメディ。テンプルちゃんのお姉さんに、これまた1930年代のロマンチック・コメディや「影なき男」シリーズでコメディエンヌぶりを発揮した美女・マーナ・ロイ。

 我が家のキッチンには、この映画のアメリカ版「アド」が額装して飾ってある。昔ダイソーで、1940年代から50年代の雑誌の切り抜きを「インテリアグッズ」として売っていて、その一枚なのだけど、当時もののオリジナル(笑)

我が家の『独身者と女学生』アド

 この『独身者と女学生』は、瀬川昌治監督が若い頃、ロードショーで観て「これは面白かった」といつも話してくれた。若くて可愛い高校生のシャーリー・テンプルに、猛アタックされて、逃げ回るケイリー・グラントがおかしかったと。それが松竹の「喜劇旅行シリーズ」のフランキー堺さんを追い回す倍賞千恵子さんのキャラクターのヒントになったそうである。

 さて『独身者と女学生』である。マーガレット・ターナー(マーナ・ロイ)は敏腕判事として、多忙な日々を過ごしているうちに、婚期を逸してしまっている。その恋人は、地方検事補のトミー(ルディ・バレー)だが、結婚するほどはお熱くない。マーガレットは早くに両親を亡くしたため、高校生の妹・スーザン(シャーリー・テンプル)の母親代わりをしている。

 十七歳のスーザンは「恋に恋する年頃」で、次から次へと「運命の人」を見つけてはお熱を上げている。特別講師として講演をした画家、ディック・ヌージェント(ケイリー・グラント)に夢中になるが、プレイボーイのディックは、ナイトクラブで騒動を起こして、マーガレットの法廷で厄介になったばかり。

 スーザンの熱は高まる一方で、深夜、こっそり家を抜け出して、ディックのアパートへ忍び込む。夜遊びから帰ってきたディック、家のソファーにスーザンが横になっていてビックリ。そのシーンで、ラジオから流れるのは、フレッド・アステア主演のRKO映画『青空に踊る』(1943年・エドワード・H・グリフィス)で、ヒロインのジョーン・レスリーが歌った"My Shining Hour(作曲・ハロルド・アレン 作詞・ジョニー・マーサー)である。

 なんとそこへ、マーガレット判事と、トニー検事補がやってきて、ディックは「不純異性交遊」で逮捕されてしまう。ディックにとっては晴天の霹靂。ハイティーンのお熱に巻き込まれて大迷惑。

 マーガレット判事は、妹のことがスキャンダルになっては困るので、法廷での裁判にせずに、ディックに「マーガレットの熱が冷めるまで交際すること」と意外な提案をする。それに従わなければ逮捕されてしまうので、ディックは仕方なく、十七歳のスーザンのボーイフレンドになることに…

 とにかくケイリー・グラントの迷惑顔がおかしい。マーナ・ロイはクール・ビューティで、中年男が戸惑う姿を楽しんでいる。シャーリー・テンプルは可愛く、その思い込みは、なるほど「旅行シリーズ」の倍賞千恵子さんに通じるなあと。

 そこから話がややこしくなり、どんどん拗れていく。後半、判事一家とディック、トニー検事補たちが郊外の「お祭り」にピクニックに出かける。ディックとトニーが張り合って、さまざまな競技で張り合う。障害物競争やスプーンレースなど、日本の運動会でもお馴染みの競技に、ケイリー・グラントとルディ・バレーが大真面目に挑戦するおかしさ。バックに流れるのは、オッフェンバック「天国と地獄」。ああ、これも運動会だ!

 で、マーガレット判事は、いつしかディックに恋をしていることに気づき、ディックもマーガレットを愛していることに気づく。マーガレットの叔父で精神分析医・ドクター・ビーミッシュ(レイ・コリンズ)が、登場人物の心理分析をするのがおかしい。

 果たして恋の三角関係、いや、スーザンのボーイフレンド、トニー(ドン・ベドー)、マーガレットを愛するトニー検事補もいるから五角関係となって… クライマックス、この五人がナイトクラブの小さいテーブルを囲んで、言い合うシーンがおかしい。この拗れ方も番匠義彰監督の「花嫁シリーズ」と同じ面白さ。

 シドニー・シェルダンのシナリオが素晴らしく「あれよあれよ」のクライマックス、ラストの「ストン」と落ちる快感が楽しい。瀬川昌治監督が、後年、喜劇映画を撮る際に、この『独身者と女学生』を意識したというもの、なるほどである。

このDVD BOXに収録。コズミック出版のこのシリーズは、有り難い!


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