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『拳銃魔』(1949年・キングブラザース・ジョセフ・H・ルイス)

 Amazonプライムビデオには、思わぬ拾い物がある。ジュネス企画からリリースされているクラシック映画がどんどん配信されていて、集中して観れるのは、映画好きとしては本当に嬉しい。長年、観たいと思っていたノワール『拳銃魔』(1949年・キングブラザース・ジョセフ・H・ルイス)をスクリーン投影して堪能した。

 製作はフランクとモーリスのキング・ブラザース。『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2015年・ジェイ・ローチ)でジョン・グッドマンが演じていたプロデューサーがフランク・キングである。赤狩りで仕事を失ったドルトン・トランボが、ロバート・リッチ名義で原案を手がけた『黒い牡牛』(1957年)を製作したのがキングブラザース。低予算で刺激的かつ、クオリティの高い作品を残している。

 さて『拳銃魔』「サタデー・イヴニング・ポスト」に掲載されたマッキンレー・カンターの大衆小説”GUN CRAZY”をもとに、拳銃に魅せられた少年が、凄腕の拳銃使いとなり、やがて妻と共に連続強盗を働いて、全米中を逃亡するクライムサスペンス。1949年、最初にリリースされた時は”Deadly Is the Female”と題されていたが、1950年”GUN CRAZY”に改題さている。

 主演のカップルにはジョン・ドールとペギー・カミングス。ブロードウェイの舞台出身のジョン・ドールは、二枚目というより個性派。悪女と出会って、自分の弱さゆえに、転落していく主人公バート・テアーの屈託を、時折見せる暗い表情で見事に演じている。アルフレッド・ヒッチコックの『ロープ』(1948年)でファーリー・グレンジャーと共に殺人を犯すブランドンを演じていた人である。

 カーニヴァルの拳銃使いとして登場し、バートを魅了するヒロイン、アニー・ローリー・スターを演じたペギー・カミングスは、アイルランド出身でイギリスで活躍中、ダリル・F・ザナックに見そめられハリウッド入り。『ワイオミングの緑草』(1948年)のヒロインを演じてスターダムに。特にこの『拳銃魔』でのファム・ファタールぶりが高い評価を受けている。

 アーサー・ペン監督、ウォレン・ビューティとフェイ・ダナウェイが、伝説のボニーとクライドを演じた『俺たちに明日はない』(1967年)の原点ともいうべき、快楽的強盗カップルの逃避行が、リアルに描かれている。

 この映画のペギー・カミングスは圧倒的に素晴らしい。可愛い顔立ちなのに、男を惑わす妖艶さと、自分の欲望のためなら殺人も厭わない冷徹さ。まさに犯罪的美女=ファム・ファタールである。拳銃が好きで、マニアックな人生を過ごしてきたジョン・ドールのバートが、彼女に一目惚れして、転落していく。傑作ノワール”My Name Is Julia Ross”(1945年)などを手がけてきた職人監督ジョセフ・H・ルイスの演出は緩急自在。

 映画の冒頭、バートの少年時代の”GUN CRAZY”ぶりが描かれる。拳銃に魅せられたバート少年が、銃砲店から拳銃を盗み、その裁判から物語が始まる。両親が早く亡くなり、姉・ルディ(アナベル・ショウ)が母親がわり。バートは西部劇が好きでおもちゃの拳銃に飽きたらず、小遣いで本物の拳銃を買うが保安官に取り上げられる。どうしても本物が欲しくて盗んでしまったのだ。気持ちの優しいバートは、射撃の腕前はすごいが、動物は絶対に殺さないポリシーの持ち主。と、バートの性格を裁判を通して丁寧に描いている。

 第二次大戦終了後、バートは故郷の村に復員。親友たちと出かけたカーニヴァルで、射撃の女王・アニー・ローリー・スター(ペギー)と500ドルをかけて腕を競い、見事優勝。それをきっかけにバートは一座に加わり、アニーと結婚。しかし贅沢な暮らしに憧れるアニーは、バートに拳銃強盗を持ちかけて、二人は荒稼ぎを始めるが…

 二人が拳銃強盗をするシークエンス。手際の良いモンタージュで、次々と犯行を重ねていく。低予算映画なのでロケーションを多用していて、なかなか迫力がある。特に、バートが街角の銀行を襲うシーン、アニーは警備の警察官を殴ってきぜるさせ、銀行から出てきたバートと共に、そのままクルマに乗り込んで逃亡する。このシークエンスを車載カメラでカットを割らずに見せてくれる。いやー、これはすごい!

 1940年代末のアメリカの田舎町の風景、街を歩く人々などが実にリアル。盗みを重ねていくうちに、アニーはどんどんエスカレート。バートは「このままじゃいけない」と何度も止めようとするが、彼女の色香に惑わされて…

 アニーは逃走中、ついに殺人を犯してしまい。二人は全米で指名手配され、逃げ場を失っていく。その疲弊感。ボニーとクライドのような快楽的強盗犯をペギー・ライアンが見事に演じている。クライマックス、精肉会社の給料を奪い、厳重な警戒網を突破してカリフォルニアに逃げ延びた二人。メキシコへ逃げる手筈を整えるも、二人が使った紙幣から足がついてしまう。そこで、バートはアニーを連れて故郷に戻るが、もはや二人の居場所はない。

 後半の逃亡劇の焦燥感。そしてハリウッドモラルによる「犯罪者必罰」のラスト。トップシーンからエンディングまで、無駄のないスタイリッシュな演出で、これぞ犯罪映画、これぞノワールの味わい。文句なしの傑作!


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