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『八月十五日の動乱』(1962年8月22日・東映東京)

今宵は、先日、日本映画専門チャンネルで放映された、小林恒夫監督『八月十五日の動乱』(1962年8月22日・東映東京)。恥ずかしながら、これが初見となる。

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半藤一利さん(刊行当時は大宅壮一編だが、大宅氏は一行も読んでいなかったという)「日本のいちばん長い日」の初版が刊行されたのは昭和40(1965)年だから、それより三年前の夏に封切られた「敗戦秘話」の映画化。

鈴木貫太郎内閣の閣僚たちが、それぞれの立場で、ポツダム宣言を受諾するか否かで対立、御前会議において昭和天皇が日本の降伏を決定した。本土決戦を叫ぶ、陸軍の将校たちが決起、クーデターを起こして、天皇の御詔勅を録音した音盤を奪おうとする。

岡本喜八監督が昭和42(1967)年で映画化して、敗戦をめぐるさまざまな思惑、軍人、政治家、民間人たちのドラマを知る上で重要な作品となったが、本作はそれに先駆けること5年前に作られた。

宮城事件、玉音盤をめぐる敗戦秘話の映画化としては昭和29(1954年)の阿部豊監督『日本敗れず』(新東宝)がある。早川雪洲さんが陸軍大臣、斎藤達雄さんが総理大臣、柳永二郎さんが海軍大臣、丹波哲郎さんや宇津井健さんたちが陸軍将校を演じていた。

8月6日。広島に原爆が投下され、演劇慰問隊の一員である弟・川崎二郎(小川守)を失った、近衛連隊の川崎一郎少佐(江原真二郎)、その姉・中島敏子(岩崎加根子)と夫で総理秘書官・中島浩(鶴田浩二)たち一家の、8月15日までのそれぞれの物語。天皇の録音盤をめぐる争奪戦をクライマックスに、映画的なフィクションを交えながら、小林恒夫監督のダイナミックな演出で描いていく。

鶴田浩二さんは、リベラルな総理秘書官。日本を維持していくためにはポツダム宣言を受け入れての無条件降伏もやむなしと考えている。江原真二郎さんは、本土決戦に持ち込んで神国日本として最後まで戦いを貫きたい陸軍将校。この義理の兄弟の対立が象徴的。

山形勲さんが陸軍大臣。映画では名前は出てこないが、阿南惟幾である。宇佐美淳也さんが総理大臣=鈴木貫太郎、神田隆さんが海軍大臣=米内光政、北龍二さんが外務大臣=東郷茂徳と、キャスティングも良い意味でタイプキャスト。赤石潮さんの内務大臣のキャラクターがなかなかいい。

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そして決起する青年将校たち。映画版「月光仮面」の大村文武さん、山本麟一さん、関山耕司さん。情報局総裁に加藤嘉さん、内閣書記長に須藤健さん。近衛師団長に松本克平さん。つまり「警視庁物語」のお馴染みの刑事や犯人の皆さんである。

クライマックス。玉音盤を狙って、将校たちが宮内省を占拠。放送時間までに、NHKに音盤を届けることが出来るのか?のサスペンスは、ケレン味たっぷり、東映アクション映画の味わい。宮内省から玉音盤を持ち出すために、女官のひとりを急性盲腸炎にして、宮内省病院から医師の往診をさせる。その大森医師に、千葉真一さん。鶴田浩二さんの脱出作戦に一役買うが、娯楽映画として面白く見せてくれる。

良い意味での小林恒夫監督の「わかりやすい演出」で、九十五分にコンパクトにまとめた手腕はさすが。それぞれの俳優が素晴らしいが、特に大村文武さんの「行っちゃってる」陸軍将校は、ベストパフォーマンスだろう。そして今井健二さん!悪役でない今井さんの純粋な眼差しが素晴らしかった。

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