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『踊る三十七年』(1936年・ワーナー・ロイド・ベーコン)

ハリウッド・ミュージカル縦断。バズビー・バークレイのワーナー時代を鳥瞰すべく連日スクリーン投影。シリーズ五作目”Gold Diggers of 1937”『踊る三十七年』(1936年・ワーナー・ロイド・ベーコン)を米盤DVDで久々に堪能した。”Gold Diggers ”シリーズは、サイレント時代の『百花笑えば』(1923年・現存せず)、トーキー初期の『ブロードウェイ黄金時代』(部分的に現存、このDVDの映像特典で収録)、バークレイがミュージカル・ナンバーを演出したエポック作品『ゴールド・ディガーズ』(1933年)、『ゴールド・ディガーズ36年』(1935年)に続いての第五作目となる。

ミュージック・シート

とはいえ、バークレイのワーナーでの「万華鏡的ミュージカル」は、『四十二番街』『フットライト・パレード』(1933年)、『流行の王様』『ワンダー・バー』『泥酔夢』(1934年)、『カリアンテ』(1935年)と連作されていたので、まさに「百花繚乱」。しかもそのどれもがパターンに陥らずに、バークレイのアイデア、センス、デザイン、物量作戦が活かされていて、現在でも観るものを圧倒する。

この『踊る三十七年』は1936年12月26日に全米公開されて、日本では翌年、昭和12(1937)年3月に封切られている。日本でもP .C.L.のエノケン映画などで、バークレイショットを意識した作品が作られている。

ディック・パウエル、ジョーン・ブロンデル

冒頭、アトランティック・シティーで、保険会社のコンベンションが開催され、その終了後、ニューヨーク行きの汽車にビジネスマンたち一行が乗り込む。駅で「良い男はいないか」「金ヅルはいないか」と張り込んでいた仕事にあぶれたショーガールたちが”ゴールドディガーズ”となるべく、列車のなかでビジネスマン、エグゼクティブたちに猛アタックする。

そこでノーマ・ペリー(ジョーン・ブロンデル)は、若き保険外交員・ロスマー・ピーク(ディック・パウエル)と出会い、ジュネヴィーヴ(グレンダ・ファレル)はプロデューサーモーティ・ウェザード(オスグッド・パーキンス)とトム・ヒューゴ(チャールズ・D・ブラウン)をDIGする。

主演のディック・パウエルとジョーン・ブロンデルは、この年結婚しており、ハネムーン・カップルの共演がハリウッドでは話題となった。今回の主人公、ロスマー・ピーク(ディック・パウエル)は「保険外交員」、ノーマ・ペリー(ジョーン・ブロンデル)は「元ブロードウェイのショーガールで、保険会社の受付嬢」を演じている。もちろんクライマックスにはリーディング・スターとして唄い、踊る。

クリスマス・アド

本作のメインは、ブロードウェイのプロデューサーで「病気不安症」のJJ・ホバート(ヴィクター・ムーア)と、”ゴールドディガー=金持ちから財産を巻き上げる女”のジュネヴィーヴ・ラーキン(グレンダ・ファレル)のカップル。ジュネヴィーヴが付き合っている、JJのビジネス・パートナーで舞台プロデューサーのモーティとトム・ヒューゴが株で大損してしまう。

そのため、JJ・ホバートの新しいショーの出資金がパーになってしまう。このままではショーは中止となる。ならばと、ジュネヴィーヴの発案で、「病気不安症」で薬ばかり飲んでいるJJに高額保険をかけることに。

とんでもない話だが、フレッド・アステア&ジンジャー・ロジャースの『有頂天時代』(1936年)などでのコメディ・リリーフとして活躍していたヴィクター・ムーアのキャラクターがユーモラスで「ひどい話」も楽しく観られる。これぞハリウッド・コメディ!

グレンダ・ファレル、ヴィクター・ムーア

これは大口取引になると、喜び勇んでJJのオフィスに駆けつける保険外交員のロスマー。今回、ディック・パウエルは口髭のダンディさんで、これまでの「好青年」「若者」のイメージから脱却。その恋人のノーマも大喜び。ノーマとジュネヴィーヴは、ブロードウェイのショーガール時代の親友で、ノーマがロスマーの口利きで「生命保険会社」に就職したことで、ジュネヴィーヴがこの「悪だくみ」を思いついたのだ。

株の大損を生命保険で補填する。ただでさえ「病気不安症」のJJはいつポックリ逝ってもおかしくない。モーティとトムは、なんとか保険金を手に入れようとあの手この手。その手引きをするのが、ジュネヴィーヴ。つまり本作の”ゴールドディガーズ=金持ちから財産をむしり取る女”である。

ジョーン・ブロンデルと私生活でも親友だったグレンダ・ファレルのちゃっかり娘ぶりが、なかなかチャーミング。「ヘイズ・コード後」なので、初期作品のようなギリギリの描写はないが、充分にアンモラルである。

やがて、JJが健康体となり、ロスマーはJJをなるべく長生きさせて保険料をガッポリ取ることに切り替える。しかしモーティとヒューゴは、JJが亡くなれば大金が手に入るためにあの手この手。しかしうまくいかない。最後の手としてモーティとヒューゴは、ジュネヴィーヴにJJの誘惑をさせることにするが、ジュネヴィーヴはJJと恋に落ちてしまい、悪だくみもどこへやら。

しかし、新作レビューの資金が確保できなくなる。さあ、困った、どうしよう? というときにコーラスガールたちが、それぞれDIGした金持ちの男性に電話をかけまくり、出資を募っていく。そのモンタージュがおかしい。これぞ”ゴールドディガーズ”である。金持ちの鼻の下で、ショーが成立するのである。

楽曲はハロルド・アレンとエドガー・イップ・ハーバーグのコンビが手掛けた。この3年後に、ジュディ・ガーランドの名曲「虹の彼方に」を作詞・作曲するソングライター・チームが参加。”Speaking of the Weather”は、スタンダードとなり、この年のワーナーの短編漫画絵映画「メリー・メロディーズ」シリーズで同名アニメ化された。中盤のパーティ場面で展開される”Let's Put Our Heads Together”もアレン&ハーバーグらしいナンバー。

しかしバークレイは、二人の楽曲に「物足りなさ」を感じて、『四十二番街』以来、バークレイ作品のナンバーを作ってきたハリー・ウォレンとアル・デュービンのコンビに追加楽曲を依頼。”With Plenty of Money and You (The Gold Diggers' Lullaby)”と、クライマックスのプロダクション・ナンバーのための”All's Fair in Love and War”をウォレン&デュービンが手がけている。

【ミュージカル・ナンバー】

♪たくさんのお金を貴方と With Plenty of Money and You(1936)

作曲:ハリー・ウォレン 作詞:アル・デュービン
*唄:ディック・パウエル
ワーナーマークが開けて、ディック・パウエルが登場。カメラ目線で歌うのがウォレン&デュービン・コンビによる主題歌”With Plenty of Money and You”。前述のようにバズビー・バークレイが、アレン&ハーバグの曲では物足りないと追加発注。ディック・パウエルの歌声をタップリ聴かせたところでローリングタイトルとなる。

♪生命保険ソング Life Insurance Song(1936)

作曲:ハロルド・アーレン 作詞:エドガー・イップ・ハーバーグ
*唄:ディック・パウエル、ビジネスマンたち
アトランティック・シティのホテルでの「生命保険業者大会」でディック・パウエルが唄い、彼らが帰途に着くシーンで見送りにきたマーチング・バンドが勇壮に演奏する。その派手な様子に、仕事にあぶれた”ゴールドディガーズ”たちが目をつける。

♪スピーキング・オブ・ウエザー Speaking of the Weather(1936)

作曲:ハロルド・アーレン 作詞:エドガー・イップ・ハーバーグ
*唄:ディック・パウエル、ジョーン・ブロンデル
*唄(リプライズ):ロザリンド・マーキー、リー・ディクソン、コーラス
*ダンス:リー・ディクソン、コーラス、グレンダ・ファレル、ヴィクター・ムーア
ディック・パウエルの紹介で保険会社に就職したジョーン・ブロンデル。二人が会社でデュエットするショウ・ストッパー。天気予報についてジョーン・ブロンデルが話していると、途端に外は荒天となり、走る稲妻、轟く雷鳴。慌てて部屋の窓を締めながら二人で唄う楽しいナンバー。中盤、ヴィクター・ムーアの屋敷のパーティで、保険会社の若手社員ブープ・オグルソープ(リー・ディクソン)と恋人でコーラス・ガールのサリー・ラヴァーン(ロザリンド・マーキー)が唄い、デュエット・ダンスをする。長身のリー・ディクソンはブロードウェイ出身のダンサーで本作のダンスパートを担っている。ナンバーの後半、グレンダ・ファレルとヴィクター・ムーアもデュエットする。

♪一緒に頭をくっつけて Let's Put Our Heads Together(1936)

作曲:ハロルド・アーレン 作詞:エドガー・イップ・ハーバーグ
*唄:ディック・パウエル、グレンダ・ファレル、ロザリンド・マーキー、コーラス
JJ宅のパーティの後半、男と女が頭をつけながら回転するユニークなナンバー。バークレイらしいモンタージュを重ねて、男女コーラスたちが踊る。


♪ラブ・アンド・ウォー All's Fair in Love and War (1936)

作曲:ハリー・ウォレン 作詞:アル・デュービン
唄・ダンス:ディック・パウエル、ジョーン・ブロンデル、リー・ディクソン、ロザリンド・マーキー、コーラス
*クライマックス。すったもんだがあってJJのミュージカル・レビューのプレミアの幕が開ける。104名の白い軍服を着たコーラスガールたちが旗を持って隊列を組んでマスゲームを展開する。とにかく圧巻、バークレイ渾身のプロダクション・ナンバーである。たくさんのロッキング・チェアに座った男女のカップル。マスゲームのように壮観に並んだロッキングチェアが揺れ動く。やがて、夫婦は倦怠期に陥り、男性軍VS女性軍の壮絶な戦いが始まる。白い衣装を纏った男女が、白い軍服になりバトルフィールドで闘いを繰り広げる。ディック・パウエルとジョーン・ブロンデル、リー・ディクソン、ロザリンド・マーキー。本作の四人のリーディング・スターが唄い踊る。これぞバークレイ・マジック!

♪Hush Mah Mouth(1936)

作曲:ハロルド・アーレン 作詞:エドガー・イップ・ハーバーグ
最終的にカットされたナンバー


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