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太陽にほえろ! 1973・第42話「知らない街で...」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第42話「知らない街で...」(1973.5.4 脚本・小川英、中野顕彰 監督・土屋統吾郎)

 ゴリさん主役の今回は、ハードボイルド&人情噺! 京王線明大前駅の近くで、ゴリさんが張り込みをしている。アパートから出ていく、アタッシェケースの男を追うゴリさん。男は明大前駅から210円の切符を買う。男を追いつつ、スタンドでパンを買い、牛乳を飲むゴリさん。

 ちょうど、駅の階段で殿下とすれ違いざま、パンを落としてしまうゴリさん。その話を聞いて「あのゴリさんが?パンが落ちたまま気がつかないなんて」とシンコ。ゴリさんは誰を追っているのか?「俺も知らない」とボス。前夜のこと、勤務明けのゴリさんはスナックで食事をしていた。その前にひとりの男がいた。男は偶然やってきた警官を見て形相を変えた。「この男は何かを隠している」ゴリさんはボスに連絡して、アパート前で張り込んでいたのだ。

 裕次郎さんは鼻声、風邪気味か?。さて、男は小田急線の秦野駅で下車。ゴリさんは「知らない街で」男の尾行を続ける。そのゴリさんを刑事らしき二人の男が追う。男の入ったスナックに入るゴリさん。怖いお兄さんが「満員だよ」「帰りな」と不穏な空気。ここでゴリさん、いつものように大暴れ。やくざ風の男たちを次々と薙ぎ倒すゴリさん。

 「やめんか!」先程の刑事たちがやってきて「傷害現行犯で逮捕する」。その騒ぎに、スナックのマダム(戸部夕子)が謝る。ゴリさんもしょっ引かれる(笑)。「七曲署の石塚誠です」「失礼しました」と謝る刑事。その上司の北和泉署・新谷刑事(久富惟晴)が「七曲署のものがどうして?」「街で見かけた怪しい男を追ったら、ここへ来たんです」「いつもそういうヤマカン捜査をやっているのか?」「私個人の・・・」。七曲署は刑事の個性を尊重しているからね。

 そばのデスクで古山刑事(小栗一也)が爪を切っている。どうやら窓際族のようだ(そういう言葉はまだないけど)。新谷刑事が「あの男は西次朗。新宿のバーのマスターだ。どうってことはない」。ゴリさん「じゃ、あの女(マダム)は何ものですか」「黒岩という暴力団のボスの情婦だ」。ゴリさんはそのボスが「西を呼んだのでは?」と推測するが、新谷刑事は仮にそうだとしても「逮捕するのは我々の仕事だ!」と激怒する。

 そこへ古山刑事が「係長は拳銃で人を撃ったことがありますか?」「ないよ。警察大学の射撃成績はトップだったし、どんな凶悪犯でも急所を外して、一発で倒す自信はある」「こういう人ですよ石塚さん」と古山刑事は、新谷刑事が全て計算通り、理屈通りに行くと信じている男と断じる。「暴力団対策だってそうだ。いくら私が頭から押さえつけてもダメだ。といっても受け付けん」。皮肉たっぷりの古山刑事だが、明日で定年退職の身である。

 ゴリさんは拳銃と警察手帳を新谷刑事に預け、一個人として単独で動くことに。「おお、やりよるな」と古山刑事。七曲署の捜査一係のような結束力は珍しいことがわかる。ゴリさんは殿下に電話。「クサイと睨んだ奴の尻尾を掴むまでは署に帰らんぞ」(笑)

 北和泉の街を走り回るゴリさん。トラックが土埃を立てる。開発が進んでいるようだ。時の総理、田中角栄の「日本列島改造論」の時代。日本中こんな感じだった。その頃、黒岩(神田隆)はレストランで、西、情婦(戸部夕子)と密談中。西に新谷刑事殺害を命じている。BGMは「四季のうた」、もちろん「歌のない歌謡曲」。そこへゴリさんが入ってくる。「サツに挙げられたそうだな。この連中と一緒に」と黒岩。「とんだトバッチリですよ」とゴリさん。

 「黒岩って親分に会ったら、損害賠償をして欲しいもんだ」「そうかい。俺がその黒岩だ」。無事、黒岩の懐に飛び込んで、ステーキまでご馳走になるゴリさん。そこへ新谷刑事が女性と入ってきて、西の目つきが変わる。「なぜだ? なぜさっきから新谷係長を見ているんだ?」とゴリさんのモノローグ。マダムによれば新谷刑事は、古山刑事の娘・古山の娘(京春上)と付き合っていることがわかる。

 ゴリさん、ステーキを頬張りながら「石塚って言います。なんでもやりますから使ってやってください」と黒岩に売り込む。黒岩の運転手となり、黒岩興業に入り込むゴリさん。これもハードボイルドの定石通り。黒岩のデスクに座っているのは、なんと古山刑事。「雇ったのか?奴を」「ダンスホールの用心棒ぐらいには」と古山に平身低頭の黒岩。

 黒岩と古山は20年の付き合いになる。やくざと刑事ではあるが、お互い出し抜きあってきた関係。「お前さん、何か俺に隠してることはないかい?」と古山は、東京から黒岩が呼んだ西について訊く。「あれは、女房の同業者でね」と誤魔化す黒岩。「少なくとも俺が警察にいる間、騒ぎは起こすなよ」と釘を刺し出ていく古山。

 古山に赤提灯に誘われるゴリさん。「石塚くんな、悪いことは言わない。明日になったらこの街から出ていきなさい」これ以上止まっていてもろくなことはない。自分が退職したあとは、何が起こるかわからない。「それでいいと思っているのですか?」とゴリさんの正義の血が騒ぐ。

 酔った古山は「そういうことになったらいかん」から新谷に口を酸っぱく言った。「馬鹿と鋏は使いよう」なのに、あの若造は無視をしたんだ。チンピラが図に乗るのは新谷の責任だという古山に対し、ゴリさんは「あの連中は甘やかしたらキリがない」と反論。古山に「卑怯ですよ」と怒るゴリさん。そんなゴリさんを気に入ったと古山は、家にゴリさんを連れて帰る。

 父を介抱する娘・ようこ(京春上)。微笑ましく見つめるゴリさん。ご機嫌で「暁に祈る」を歌う古山。毎晩、いつでも飛び出せるように靴下を履いたまま寝るのが習慣だったと笑いながら話す。「刑事も終わりだ。私は明後日から、このまちで一番大きな工場の警備課長だよ。それも黒岩の世話さ」

 ようこに「レストランで新谷さんと一緒でしたね」とゴリさん。「そのことを父に?」ようこと新谷な密かに付き合っていた。それを寝床で聞く古山。犯罪の裏側で、それぞれのドラマがある。これが「太陽にほえろ!」の深さあり、視聴者を引きつけた要素である。ダンスホールで黒岩の情婦と踊るゴリさん。バックに流れるのは、キャロルの「ルイジアンナ」。

 西のことを彼女からそれとなく聞き出そうとするゴリさん。「あんまり調子に乗ると痛い目に会うわよ」とピシャリ。そこへ新谷刑事、ゴリさんを連れ出して「直ちに署に帰りたまえ」と激怒する。その様子を黒岩興業のものに見られてしまう。再びダンスホールに戻るゴリさん。「ようこそ刑事さん」と情婦。BGMはザ・モップス「たどりついたらいつも雨降り」。

 開き直ったゴリさんは、西に「お前がやろうとしていることは一体何だ?」と胸ぐらを掴むが、ここで激してはいけないと「我慢するんだ」と自重する。西は黒岩に「殺るのは明日じゃなかったのか?」「そのつもりだった。古山のじいさんが現職でいる間は、後がうるさいからな。だが情勢は変わった」。ゴリさんが西を徹底的にマークするだろう。「殺るとすれば今だ」。

 駅前商店街を歩く新谷刑事と部下。BGMはチェリッシュの「ひまわりの小径」懐かしいね。その新谷を追う殺し屋・西。危機が迫る。一方、将棋所で油を売っている古山をたずねるゴリさん。西が新谷を狙っていると告げるが、古山は動かない。路地で新谷を西の拳銃が狙う。倒れる新谷。血をみて動転する。「やられてからでは遅いんですよ」と焦るゴリさん。

 そこに古山への電話。「何? わかった。すぐ行く」ゴリさんの言った通り、新谷が撃たれた報せだった。北和泉署では、「ホシはまだこの街にいる。みんなで手分けして、黒岩興業の息のかかった連中を徹底的にマークするんだ!」包帯を巻いた新谷が陣頭指揮を取っている。そこへ古山とゴリさんが到着。「犯人は西でしょ?」犯人の特徴を尋ねるが、新谷は口ごもる。一緒にいた宮本刑事に「あなた犯人を追ったと聞きましたが」しかし宮本も口ごもる。

 「あなたは犯人が狙撃してくる間に、何か見たはずだ」とゴリさん。「わからん、私は・・・」何かを言いかけると、宮本が「係長!」と制する。古山も「係長は何も見なかったんだ」。何かを隠しているのか?。失態を隠したいのか? ゴリさんは「私は西を追います」。ここからゴリさんエンジン全開! 黒岩興業のやくざたちを追い回す。「西はどこだ!」ゴリさん激しい。まるで『007/ダイヤモンドは永遠に』で妻・トレイシーの仇・ブロフェルドを探すショーン・コネリーのジェームズ・ボンドのようだ。

 その夜、黒岩興業の前で、いきなり構成員が殴られる。階段の上にはゴリさん。ハードボイルドの味。黒岩は「あんたか。だいぶ暴れているようだが、いいかげんにしないと、こっちも黙っちゃいないよ」。ゴリさん「やってみるんだな黒岩。世の中には懲戒免職ぐらいへっちゃらな刑事だっているんだぞ」。そこへ古山が現れ、事務所の中へ招き入れる。

 黒岩、態度を変えて「お宅の係長を撃った男なら、実はここにいるんですよ。本人が勝手にやったとはいえ、これは私の責任ですからな」と、平謝りする黒岩。しかし出てきたのは、西ではなく身代わりだった。犯行に使った銃を古山に差し出す替え玉。ここで事勿れ主義で、古山が呑み込むかと思いきや、古山がいきなり替え玉を殴り飛ばす。

 「黒岩、今度ばかりはこの手は通用しないんだ。チンピラ同士の喧嘩とは訳が違うんだ!お前は俺の上司を撃った。北和泉署の係長をな。明日の朝まで待ってやるから、それまでに本星を出すんだ。俺にガセを掴ませたら、どういうことになるか、わかってるだろうな」ここで古山の正義が燃える。

 黒岩は、「やっぱりあんただけは騙せねえ。西の居所を教えよう。ただし条件がある。そこへはあんた一人で言ってくれ」。古山はそれを呑んで、黒岩興業へ単身乗り込むことに。「罠ですよ」と制止するゴリさん。そこで古山が昔話をする。20年前の自分も新谷のようだった。ある時、初めて抜いた拳銃を震えてしまい、取り落としてしまった。しかし、焦って拳銃を拾うことができない。その時、黒岩が凶悪犯に飛びついて、そいつの拳銃を吹っ飛ばしてくれた。しかもその時の古山の失態を黒岩は誰にも言わなかった。その上、黒岩は古山に色々と協力してくれた。

 しかし街が大きくなるにつれて、黒岩は本性を出し始めた。そのことに気づきながら「見てみぬふり」をしてきたが、決着を付けなければならない。これは自分の手でやらねばならないんだ。おお、日活アクションのセオリー。「わしにもしものことがあったら娘をよろしく」新谷との結婚を暗に認める古山。

 「なあ、石塚くん。君んとこの係長は、どんな人だ?」「え?」「いやいい、部下を見れば、上に立つ者のもわかるもんだよ」いいセリフだね。単身、現場に乗り込む古山。ゴリさんは、一発だけ拳銃に弾をこめる。見ているこちらの興奮が一気に高まる。

 古山を待ち構えている西。「黒岩はどこだ?」「古山さん、とうとう別れる時がきちまったようだな」黒岩興業の連中が古山を取り囲む。「だがな黒岩、お前は俺が死ぬと決めてかかっているが、俺はそんな気はないぜ」と射撃の腕前に自信を見せる。発砲!ゴリさんの一撃だ。「殺人教唆罪で逮捕する」。「おめでとう古山さん」ゴリさん感動する。

 ラスト、七曲署にゴリさんを訪ね、退職の挨拶をする古山。和気藹々の一係。去り際、古山は「石塚さん。私も立派に悪を倒した刑事として退職することができました。あんたの一発のおかげで」「一体何のことだが、僕には・・・」「ありがとう。本当にありがとう」。ゴリさんいいことしたね。「俺は幸せだよ。いい部下を持って」とボスがニヤリ。この緩急の魅力。今回もまた傑作!

















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