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『不良少女 魔子』(1971年・日活・蔵原惟二)

 『不良少女 魔子』が公開されたのは1971 (昭和46)年8月25日。同時上映は藤田敏八監督『八月の濡れた砂』だった。

 1954 (昭和29)年、『国定忠治』(滝沢英輔)と『かくて夢あり』 (千葉泰樹)から製作再開を果たした日活は「信用ある日活映画」をキャッチに文芸作、石原裕次郎、小林旭のアクション映画で時代を築いてきたが、1971年の晩秋、ロマンポルノへと路線変更することになる。そういう意味では『八月の濡れた砂』と共に、『不良少女魔子』でひとます日活映画の時代が終わったということになる。

 <これはズベ公たちのグループに身を投した“不良少女”の奔放で衝動的な生活をすさまじいカメラアイをとおして描いた鮮烈な青春像の映画である>とプレスシートにある。監督の蔵原惟二は、日活を代表する監督・蔵原惟繕の実弟で1957年に助監督部に入社。阿部豊、小杉勇、滝沢英輔、そして長谷部安春に師事。これが監督昇進第一作となる。シナリオを手がけた藤井鷹史は、『女番長 野良猫ロック』(1970年)で“女の子のアクション映画”というジャンルを確立させた長谷部安春のペンネーム。

 主演の夏純子は、この頃『女子学園悪い遊び』(1970年・江崎実生)を第一作に、『女子学園ャパイ卒業』(1970年・澤田幸弘)、『女子学園おとなの遊び』(1971年・加藤彰)と立続けに三作作られた「女子学園」シリーズで、フレッシュでセクシーな魅力を振りまいていた。「女子学園」シリーズは、「ハレンチ学園」よりもリアルで、「野良猫ロック」の梶芽衣子たちよりも、低年齢の不良少女たちのイキイキとした生態を描いたもの。

 そこでのイメージから、やや大人びたキャラクターへのシフトを狙ったのが『不良少女魔子』だった。冒頭、不良少女グループが、当時大流行のポーリング場で、若い男の子をカモにする日常から映画がはじまるカッ上げしてヤキを入れるシーンは、どこかユーモラスでもある。そこでタイトルバック、子犬とじゃれ合いながら,新宿の街を気ままに歩く魔子(夏純子) が実にキュート。

 日活ニューアクションをサウンドで支えた鏑木創の音楽が実に軽快。男の子をカモにして、小遣いを稼ぎ、ゴーゴークラブでマリファナに興じる。この時代の若者風俗カ洗鋭的に描写されている。中盤、秀夫(清宮達夫)と湘南に車を飛ばした魔子がカーセックスをして、マリファナに興じるシーンは、女優・夏純子の魅力にあふれる名場面。ラリって画面が真っ白くなるドラッグ描写もまた1970年代の味。

 さて、ゴーゴークラブのステージでゴキゲンに歌うのが、『野良猫ロックマシンアニマル』(70年長谷部安春)にも出演していたカルトGS「沢村知子とピーターバン」、曲は「イン・マイ・ワールド」。

 こうした女の子たちのバックにいるのが、魔子の兄・田辺(藤竜也)が所属する組織暴力団・安岡興業。ゴーゴークラブの経営や、マリファナの密売、そして組織売春などで利さやを上げている安岡興業の組長に宍戸錠。藤竜也や宍戸錠の世界は、ダークな暗黒街で、魔子たちはその庇護のもとにいる。ちょっとしたトラブルから、その安岡興業に刃向かうのが、洋次(岡崎ニ朗)、徹(小野寺昭)、秀夫(清宮達夫)、サプ(清水国雄)たちの若者グループ。最初は、魔子が秀夫にちょっかいを出したことから、ヤクザと不良グループの全面戦争へと転換していく。「野良猫ロック」にもあった、ヤクサVS不良という日活ニューアクションの典型的なバターンでもある。

 非情な組織暴力と、反体制の若者。居場所を求めて、街を彷徨い興味本位で行動している不良少女たちの生態。まさしく日活ニューアクションが描き続けて来た世界の集大成的作品でもある。藤井鷹史による脚本は、彼らの歯車が狂って行く様を、抜群のセンスと見事なダイヤローグで描写し、同時に、藤竜也と夏純子の“あにいもうと”のドラマが暖かく、切なく綴られていく。
 
 不良グループのなかで、仲間を裏切っていくことになる小野寺昭は、この翌年、1972(昭和47)年「太陽にほえろ!」の殿下役を演じることになる。魔子のグループのズベ公たちには、ユリ( 戸部タ子)、春美(美波節子)、早苗(太田美鈴)、おカズ(原田千枝子)、そして役名不明の(宮野リエ)。さらにテパートで万引きする女子高生に、牧まさみと五月由美(後の片桐タ子)が出演。ロマンポルノ前夜の若手日活女優陣の競演も楽しい。

 ボーリング場のジュークポックスを前に、太田美鈴が挿入歌は東芝レコードからリリースされた「バカヤローのあいつ」(作詞・西沢爽 作曲・大木恭敬)。太田美鈴は本作の後、東映の「不良番長」シリーズなどに出演。当時「本物のスケバン」女優として男性誌のグラビアなどを飾った。

 すべてが破滅に向かって行くクライマックス。魔子の純情が踏みにしられ、兄妹の絆も失われて行く。衝撃のラスト「邪魔だなあ。みんなどいてよ。邪魔だなあ」と叫ぶ魔子。このセリフが日活映画、そして日活ニューアクションの最後のセリフとなった。

日活公式サイト

web京都電視電影公司「華麗なる日活映画の世界」



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