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『日蓮と蒙古大襲来』(1958年・大映・渡辺邦男) 「妖怪・特撮映画祭」で上映

 五反田のイマジカで「妖怪特撮映画祭」で上映される渡辺邦男監督「日蓮と蒙古大襲来」(1958年10月)デジタル版試写。先日、娯楽映画研究所シアターでBlu-rayを観たばかりだが、スクリーンで観るとそのスケールに圧倒される。

 蓮長(長谷川一夫)が17年の修行を経て、釈迦の教えの真実に悟りを得て開眼。日蓮となり、鎌倉幕府に外敵の襲来の危険を唱えるが… というおなじみの話を、大映京都撮影所の技術を結集、ケレン味ある展開で、一大絵巻スペクタクルにまとめ上げた文字通りの超大作。

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 宗教スペクタクルであると同時に、長谷川一夫さんのスターとしての圧倒的な存在感が、法力に説得力を持たせてしまう。長谷川御大の眼力は、何にも勝る映画的なチカラがあるのだ!

 北条時宗を演じた市川雷蔵さんは、まだ二十六歳とは思えないほどの存在感。とにかく観ているだけで、惚れ惚れする。それに日蓮聖人をサポートする日昭を演じた黒川弥太郎さんがお見事見事! 頼もしいったらありゃしない。

 悪役パートは、平左衛門頼綱 (河津清三郎)と依智の三郎(田崎潤)の二人が担っている。「次郎長三国志」的には、大政と桶屋の鬼吉コンビが、長谷川一夫先生を虐める、虐める。これぞ時代劇の勧善懲悪の醍醐味。

 鎌倉、龍ノ口で三郎が日蓮を斬首しようとした瞬間、雷鳴、落雷により刀が吹き飛ぶ。この特撮シーンもなかなか。そこで三郎が改心していくのだが、田崎潤さんが堂々、長谷川一夫さんと渡り合うのが凄い。

 大映京都の俳優陣だけでなく、日蓮の両親に千田是也さんと東山千栄子さん。俳優座の新劇の巨人のナチュラルな演技と、時代劇のベテランの大仰な芝居がぶつかり合う楽しさ。なんといっても、ボスキャラは北条時宗の母・尼御前を演じた村瀬幸子さん! 日本の母、糟糠の妻役のイメージが強い村瀬さんが、とにかく悪役として機能している。

 そして、松竹から東宝映画で森繁久彌さんの相手役を演じていた、お景ちゃんこと淡島千景さんが、白拍子・吉野として本作のヒロインパートをつとめている。宝塚歌劇団のトップスター出身だけに、見事な舞を見せてくれる。

 やはり特撮スペクタクルとして、スクリーンで味わうのが一番。博多に攻めてきた10万余の蒙古軍の船がずらりと並ぶミニチュア特撮。このヴィジュアル! ディティールが素晴らしい。

 さらに、蒙古軍の上陸シーン、迎え撃つ鎌倉武士たちのモブシーン。「史上最大の作戦」のノルマンディー上陸作戦もかくやの大スケール。しかも蒙古の残虐さを表現するために、バイオレンス描写が半端ではない。おそらく時代劇でここまでハードな闘いを描いたのは、これが初めてかも?
新東宝の大シネスコ「明治天皇と日露大戦争」を成功に導いた渡辺邦男監督がキャスティングされたのも、このモブシーンを期待されてのことだろう。カラーだけに、かなり見応えがある。

 そして、長谷川一夫さん、林成年さん、黒川弥太郎さんが「南無妙法蓮華経」を唱え、神風が吹くシーン。まるで「指輪物語」のガンダルフか、ジェダイ騎士団のフォースのような描写。ノンケにもマジカルなスペクタクルとして楽しめる。

 ミニチュアの蒙古船団が、暴風でぶつかり合い、火を吹きながら、次々と沈んでいく描写は、特撮ファンならずとも、目を見張る。大映京都撮影所の映画技術の伝統と成熟を堪能。まさに眼福である。

 永田ラッパのハッタリが、娯楽映画として、観客を楽しませてくれる。この技術が「釈迦」や「大魔神」三部作に昇華していくのである。
百聞は一見にしかず。「妖怪特撮映画祭」で上映されるので、是非!

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