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「宇宙探査艦オーヴィル」が素晴らしい!

 年始から観始めたディズニー+、セス・マクファーレン主演、製作、監督、脚本「宇宙探査艦オーヴィル」が面白くて仕方がない。往年の「スター・トレック」のあらゆるパターンが再現されたSFコメディ。色々行き届いていて、こういう「スタトレ」観たかったんだと、毎回大満足。当初はパロディ、コメディだったのだけど、回を追うごとに、これぞ王道の「スター・トレック」的世界になっていく。しかも面白くて深い、唸らされるエピソードが次々と展開。しかも読切、一話完結が基本というのもいい。

S-2 第14話「正しい選択 "The Road Not Taken"」は、面白かった。時間軸の流れを修正する話はスタトレなのだけど、ヴィジュアルがいちいち『ジェダイの復讐』で、ああ、こういうのがぼくが見たい「スターウォーズ」なんだよな、とワクワク。

しかも、宿敵・人工生命体のケイロンに銀河の九割が壊滅させらた状況で、人類が死滅した地球のマリアナ海溝に沈んだオーヴィルに、生き残った元クルーが、決死の覚悟で乗り込んで、浮上させる。宇宙戦艦ヤマト的な状況を、ジェームズ・キャメロン的なヴィジュアルで!やー、これは楽しい。テレビドラマを超えたスケール。

このシリーズ、いちいち気が利いていて「スター・トレック」以上に、スタトレ的で、正史に加えたくなる。企画、制作、主演のセス・マクファーレン。本当に好きなんだろうなぁ。

「宇宙探索艦オーヴィル」S-3第5話 "ア・テイル・オブ・トゥー・トパズ""A Tale of Two Topas" 脚本・監督セス・マクファーレン。素晴らしい。観ながら泣けて泣けて。

ぼくは全てのドラマのカタルシスは「喪失したアイデンティティを取り戻すための行動」にあると、考えてきた。主人公の成長は、そのプロセスにあり、それを共有することが、観客、視聴者の感動、カタルシスなのだと、思っているのです。

 男性しか存在しないとされている種族モクランの士官ボータスと、そのパートナー(彼らは「つがい」と呼んでいる)であるクライデンの間に産まれたトパは、女の子だった。ボータスは、彼女を女の子として育てようとしたが、クライデンはモクランの伝統を重んじて裁判に。その結果、ボータスが敗訴して、トパは性転換手術を命じられる。というエピソードがシーズン1にあった。

 それから時は流れ、トパは思春期に。身体と心のアンバランスを覚えて、副長のケリーに打ち明ける。ケリーはトパが性転換させられたことを話すよう両親に勧めるが、クライデンは拒否し、トパがケリーの指導を受けることを禁じる。トパは絶望し自殺を考え始める。やがてトパは、ケリーとボータスの導きで、自分が女性として生まれたものの性転換を受けさせられた記録を発見する。トパはクレアに自分を女性に戻すよう頼む。

 しかし、宇宙連合は、来るべきケイロンとの戦争に打ち勝つためにも、モクラン社会に不用意な刺激、問題を起こすわけにはいかないと、艦隊の医師であるドクター・フィンに手術を禁じる。それは、トパの存在を全否定することになる。ケリーやフィン、キャリたち女性クルーは絶望的な気持ちになる。苦悩する艦長。

 そこで人工生命体であり、今は連合の宿敵であるケイロンから派遣されたアイザックが自分が独断で手術をすれば問題ないと提案。しかし、その手術をオーヴィルのクルーが知ってはならない。あくまでも、誰も知らないうちに、ということにしないと。

 ここでトパの幸せを願う、艦長、副長たちが、考える計略が素晴らしい。トパの父親であるボータスが、自慢のノドを披露するコンサートを開催。全クルーが観覧している間に、手術をしてしまおうとする。ボータスが唄う曲がまた、キャピトル時代のシナトラの曲ばかり。

 ここからラストまでの展開、すべてのセリフ、シチュエーションが素晴らしくて、ナミダナミダ。全キャラクターが、トパの幸せのために、自分が出来ることをする。

 ラスト、女の子に戻ったトパがアイデンティティを取り戻しての表情がイイ。彼女のために、ケリー副長が用意したプレゼントが、本当にイイのですよ。艦隊士官になることがトパの夢。それに一歩近づくことが、彼女の成長でもあるわけで。

セス・マクファーレンは、これまで作られた全ての「スター・トレック」を超える傑作を生み出してしまった。このエピソードは、現代社会が抱える問題に、ストレートに直面して、理想的な解決に導く。これがハリウッドの素晴らしさ!なのですよ。

この素晴らしい作品を観ることができて、ホントに良かった! この回の感動のために、「宇宙探索艦オーヴィル」のこれまでの回を観ても、損はない(笑)娯楽映画研究家が保証しますよ!


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。