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『踊るアメリカ艦隊』(1936年・MGM・ロイ・デル・ルース)

 MGMミュージカル研究。エレノア・パウエル主演第2作『踊るアメリカ艦隊』(1936年・ロイ・デル・ルース)を、アマプラで字幕版をスクリーン投影。前年の『踊るブロードウェイ』(1935年)のキャストとスタッフによるシリーズの姉妹篇的なミュージカル・コメディ。

 エレノア・パウエル、ウナ・マーケル、シド・シルヴァース、フランセス・ラングフォード、そしてバディ・イブセンが引き続き出演。エレノア・パウエルの相手役に、なんとジェームズ・スチュワート! 『ザッツ・エンターテインメント』(1974年)でも紹介されていたが、なんとジミー・スチュワートが唄って踊る! ヒロインの恋敵のブロードウェイのトップ女優役にヴァージニア・ブルース。そしてなんといってもコール・ポーターの書き下ろしによるミュージカル・ナンバーの数々。

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 主人公はアメリカ海軍の水兵三人組。彼らが久しぶりにニューヨークへ寄港して、それぞれのお相手と出会い、恋やすれ違いドタバタを繰り広げる。

 のちのMGMミュージカルのマスター・ピース『踊る大紐育』(1949年・ジーン・ケリー、スタンリー・ドネン)と同じフォーマットだが、これはフレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの『艦隊を追って』(1935年・RKO・マーク・サンドリッチ)のリフレインでもある。このスタイルは、1950年代の『艦隊は踊る』(1955年・MGM・ロイ・ローランド)まで繰り返されるミュージカル映画の一ジャンルとなる。

 トップシーン。いよいよ懐かしのニューヨークへ上陸する。その嬉しさを潜水艦の乗組員たちが歌うナンバー”Rolling Home ”で、テッド・パーカー(ジェームズ・スチュワート)、ガニー・サックス(シド・シルヴァース)、マッシュ・トレーシー(バディ・イブセン)のキャラクターをそれぞれ紹介。艦長ディンビー(レイモンド・ウォルバーン)のユーモラスなキャラクターもここで印象づける。ハリウッド映画だが、ブロードウェイ・ミュージカルのスタイルで、唄によるキャラクター紹介である。

 続いてヒロイン、ノラ・ペイジ(エレノア・パウエル)が登場。ガニーの妻の所有する”ロンリー・ハーツ・クラブ”にやってきたノラが、ブロードウェイでの成功を夢見るダンサーだと知ったノラが、クラブの客たちの前で、彼女のパフォーマンスをお披露目させる。”Rap, Tap on Wood”のナンバーである。エレノア・パウエルのソロ・タップをここでタップリ見せてくれる。

 さて、久々にニューヨークに上陸したテッドは、ガニーに誘われて”ロンリー・ハーツ・クラブ”へ。水兵になる前はヴォードヴィリアンだったマッシュは、艦長からマンハッタン基地の少将宛の手紙を頼まれていたが、それを「後回しにして」一緒にクラブに入ってしまう。この少将宛の手紙が、なかなか届かない。というより後半まで「届けない」笑いで引っ張ってゆく。

 ガニーとジェニーは、四年前、耐久ダンスコンテストで優勝。それが縁で電撃結婚したが、「男らしい人が好き」のジェニーの一言で、結婚二日目に海軍に入隊。それ以来、ガニーは女房と会っていなかった。なので、テッドとマッシュに同行を頼んだのである。案の定、ジェニーはガニーを拒否。夫婦の雲行きは怪しくなる。実は二人には3歳半になる娘・サリー(ファニタ・クイグリー)がいたが、ガニーはそれを知らない。これが後半の「大騒動」の火種となる。

 さて、テッドはノラにたちまち一目惚れ。奥手のテッドは意を決してノラに声をかける。ガニーとジェニー、そしてマッシュはクラブの歌手・ぺピー・ターナー(フランセス・ラングフォード)と意気投合。この三組のカップルが仲良くなったところで唄って踊るのが”Hey, Babe, Hey”のナンバー。エレノア・パウエル(吹替・マージョリー・レイン)、ジェームズ・スチュワート、シド・シルヴァース、ユナ・マーケル、バディ・イブセン、フランセス・ラングフォードの6人と、クラブの客たちが楽しいナンバーを繰り広げる。このメロディは、本作のテーマ曲として、さまざまなシーンのBGMとしても使われている。

ジェームズ・スチュワート、エレノア・パウエル

 ある日、艦長のキモ入りで、ブロードウェイのスター、ルーシー・ジェームス(ヴァージニア・ブルース)が潜水艦へ慰問にやってくる。全てはパブリシティのためと彼女のマネージャー、マッケイ(アラン・ディンハート)の宣伝戦略のためだった。ルーシー歓迎の”Entrance of Lucy James”は、レイモンド・ウォルバーとヴァージニア・ブルース、水兵たちのコーラスによるコミカルなナンバー。ルーシーは、恋人よりも大事な愛犬ペキニーズを抱いていて”Love Me, Love My Pekinese”を唄う。ところが、記念写真撮影中に、艦長が抱いていたペキニーズが海の中へ。パニックになるルーシー。水兵たちが次々と海へ飛び込み、テッドがペキニーズを救出する。

「これは宣伝になる」とマネージャーのマッケイは、テッドとルーシーの写真を新聞に売り込んで「水兵とルーシーの恋」が紙面を飾り、ルーシーは内心気が気ではない。

 ヴァージニア・ブルースは『ラヴ・パレード』(1929年・パラマウント・エルンスト・ルビッチ)『ウーピー』(1930年・ゴールドウィン・ソートン・フリーランド)などにコーラス・ガールとして出演。MGMと契約、『奥様ご寵愛』(1932年・モンタ・ベル)で共演したジョン・ギルバートと結婚。『巨星ジーグフェルド』(1936年・ロバート・Z・レナード)での”ウェディング・ケーキ”シークエンスでの螺旋階段の周り舞台のトップに立った。

 とはいえ、テッドとノラは連夜デートを重ねていた。夜のセントラル・パークで将来の夢を語るノラ。テッドが甘く囁くように歌い出すのは、本作のためにコール・ポーターが書き下ろした新曲Easy to Love。フランク・シナトラ、ビリー・ホリデー、ジュディ・ガーランド、ビング・クロスビー、リー・ワイリーなどのシンガーが唄ってスタンダード・ナンバーとなるが、この名曲を最初に唄ったのはなんとジェームズ・スチュワート!

 ジミー・スチュワートとエレノア・パウエル(吹替・マージョリー・レイン)がデュエットで歌い、エレノア・パウエルが草の上で踊る。ロマンチックなシーンだが、そこへ警官(レジナルド・ガーディナー)が現れる。叱られてしまうのかとノラとテッドがビビっていると、警官は帽子を脱ぎ捨て、髪の毛を振りかざし、指揮棒を手にEasy to Loveを、クラシックのコンダクターよろしく指揮を始める。

 コメディアンで俳優のレジナルド・ガーディナーは、チャップリンの『独裁者』(1936年)でシュルツ司令官を演じ、フレッド・アステアの『踊る騎士』(1937年)、ジェリー・ルイスの『底抜け楽じゃないデス』(1958年)などでコメディ・リリーフを演じていくこととなる。

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 一方、ルーシーのマネージャー、マッケイの作戦で、ルーシーとテッドをナイトクラブでデートさせ、ゴシップ記事にして新作舞台の宣伝にしようと目論む。テッドはノラとデートをしたいのに、艦長命令で仕方なくお相手に。ナイトクラブで、ルーシーが甘く唄うのは、本作のために書き下ろされた新曲”I've Got You Under My Skin”。コール・ポーターのスタンダードとして、フランク・シナトラの十八番となる。オリジナルは、ヴァージニア・ブルースだった。映画はタイムマシン、こうしたスタンダードナンバー誕生の瞬間に立ち会うことが出来るのが楽しい。このシークエンスで”I've Got You Under My Skin”のデュエット・ダンスを踊るのは、ニューヨークのウォルドーフ・アストリア・ホテルでザビア・クガード楽団の演奏で踊っていたダンスチーム、ジョージ&ジャルナのコンビ。

 結局、テッドはノラとのセントラルパークでのデートに間に合わず、翌日の新聞には「ルーシーと水兵の恋」が大々的に報じられて、ノラはテッドに愛想を尽かしてしまう。このあたりは、わが「若大将シリーズ」の澄ちゃん(星由里子)の勘違い嫉妬に近い。で、さらにジェニーはガニーに娘・サリーがいることを伝えていなくて、なんとサリーがノラの娘だと、テッドに嘘をついてしまう。テッドもノラが既婚者だと知ってがっかり。

 さらにノラは、オーディションを受けて、なんとルーシーの代役にキャスティグされてしまう。ノラがステージに立つためには、ルーシーが降板しなければならなくなる。事態はどんどんややこしい方向になっていく。

 しかもルーシーは、本気でテッドを愛してしまい、マッケイに「テッドとの記事が新聞に出たら、舞台を降板する」と宣言する。クライマックスの入り組んだドタバタは、この時代から盛んになってきたスクリューボール・コメディの味わい。テッドはどうしても、ノラに舞台に立って欲しい。ルーシーは、テッドをモノにしたい。波乱含みで、舞台の初日が始まる。

 テッド、ガニーとマッシュは、満期で海軍を除隊となり、マッシュはマッケイに見出されて舞台に立つことになる。バディ・イブセンとフランセス・ラングフォードがリハーサルで、”Easy to Love”をデュエットするが、「ベビー・アステア」と呼ばれ、ジーグフェルドの舞台で活躍していたバディ・イブセンの芸達者ぶりが堪能できる。

 さて、肝心の主役、ルーシーは、マッケイのやることなすことが気に入らず、リハーサル現場でも、衣裳や編曲にケチをつけて傍若無人な振る舞い。楽屋に引きこもってしまったので、仕方なく、リハーサルの代役をノラがつとめることに。ここでエレノア・パウエルが、セントラルパークのシーン以来、久々にソロでタップを踊る。観客が待ち望んでいた瞬間である。怪獣映画でいうと、後半戦のゴジラ出現と同じようなカタルシスがある!

 しかしルーシーはノラが代役だと知って激昂する。さらに怒りまくり、マッケイは仕方なくノラに「降りてくれ」と告げる。ああ、万事休す! 果たしてどうなるのか? ここでテッドが大活躍、あれよあれよと、ハッピーエンドに向かっていくが、このあたりの省略が鮮やかで、観客はお待かねのスペクタクル・ナンバーをたっぷり味わうこととなる。

 舞台の幕が開き、フランセス・ラングフォードが”Swingin' the Jinx Away”をパワフルな歌唱で唄う。バース部分でキャブ・キャロウェイを讃えると、キャブのアイコンとなったズートスーツ姿のコーラスがズラり登場。やがてバディ・イブセンが登場して、長身を活かして超絶技巧のアクロバティックなダンスを展開。

 ゴージャスなセットに、芸達者のパフォーマンス、そしてコール・ポーターの新曲!「ジンクスなんて吹き飛ばせ!」のフレーズが気持ちいい。シネ・ミュージカルの楽しさ、ここに極まる!このナンバーは『ザッツ・エンターテイメント』でも収録されていて、サントラや関連アルバムで繰り返し聴いてきた耳馴染み。1980年代末、知人に録画してもらった、アメリカのテレビ録画で『踊るアメリカ艦隊』を初めて観た時の感動が甦る。

人海戦術でエレノア・パウエルのダンスを盛り立てる!

 そしていよいよ、ナンバーのクライマックス。ルーシーではなく、ノラが登場! 戦艦の艦橋を模したセットで、エレノア・パウエルが縦横無尽に”Swingin' the Jinx Away”を踊りまくる。この映画の影響で、日本のレビューでも、艦橋のセットでミュージカルが展開するのは定番となる。『艦隊は踊る』のクライマックスの「ハレルヤ」は、この映画のリフレインでもある。

 日本のバラエティ番組でも「植木等ショー」(1968年・TBS)でドリフターズがゲストの回で、水兵ミュージカルを展開するが、やはり艦橋のセットだった。不二家ルックチョコレートのCMもこのパターンのものがあった。

さて、巨大砲を前にエレノア・パウエルが、コーラス・ダンサーを従えて、クルクル踊る!超絶ステップに驚嘆しながら、ピカピカに光るゴージャスなセットに目を見張る。戦前、この映画を観た観客の驚きを想像するだけでも楽しい。

【ミュージカル・ナンバー】

♪ローリング・ホーム Rolling Home(1936) 

作詞・作曲:コール・ポーター
唄:シド・シルヴァース、バディ・イブセン、ジェームズ・スチュワート、コーラス

♪ラップ・タップ・オン・ウッド Rap, Tap on Wood(1936)

作詞・作曲:コール・ポーター
*唄・ダンス:エレノア・パウエル(吹替・マージョリー・レイン)
*ダンス:エレノア・パウエル(リハーサル)

♪ヘイ・ベーブ・ヘイ Hey, Babe, Hey(1936)

作詞・作曲:コール・ポーター
*唄・ダンス:エレノア・パウエル(吹替・マージョリー・レイン)、ジェームズ・スチュワート、シド・シルヴァース、ウナ・マーケル、フランセス・ラングフォード、バディ・イブセン
*ハミング:ウナ・マーケル

♪ルーシー・ジェイムズ登場 Entrance of Lucy James(1936)

作詞・作曲:コール・ポーター
*唄・レイモンド・ウォルバーン、ヴァージニア・ブルース、コーラス

♪ラブ・ミー、ラブ・マイ・ペキニーズ Love Me, Love My Pekinese(1936)

作詞・作曲:コール・ポーター
*唄:ヴァージニア・ブルース、コーラス
*ダンス:エレノア・パウエル

♪イージー・トゥ・ラブ Easy to Love(1936)

作詞・作曲:コール・ポーター
*タイトルバック
*唄:エレノア・パウエル(吹替・マージョリー・レイン)、ジェームズ・スチュワート
*唄・ダンス:フランセス・ラングフォード、バディ・イブセン
*リプライズ:オールキャスト(エンディング)

♪貴方はしっかり私のもの I've Got You Under My Skin(1936)

作詞・作曲:コール・ポーター
*ダンス:ジョージ&ジャルナ
*唄:ヴァージニア・ブルース

♪ジンクスなんて吹き飛ばせ Swingin' the Jinx Away(1936)

作詞・作曲:コール・ポーター
*タイトルバック
*唄:フランセス・ラングフォード、バディ・イブセン、コーラス
*ダンス:バディ・イブセン、エレノア・パウエル


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