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『拳銃無頼帖 不敵に笑う男』(1960年・野口博志)

 ダイヤモンドライン“第三の男”として、1960年の赤木圭一郎は多忙を極めていた。5月の『電光石火の男』に続いて、6月18日公開の『男の怒りをぶちまけろ』(松尾昭典)、そして7月9日公開の『霧笛が俺を呼んでいる』(山崎徳次郎)でさらなる飛躍を見せ、堂々たる風格が備わってきた。

 そうしたなか、8月6日公開の第三作『不敵に笑う男』は、赤木圭一郎と宍戸錠のコンビネーションがますます充実し、日活アクションが脂の乗り切った時期だけに、カラフルな魅力に満ちている。このシリーズと平行して、宍戸錠は、小林旭の「渡り鳥」「流れ者」でも、主人公の好敵手役を演じ続けており、そのディティール豊かなキャラクター造型が素晴らしい。

 宍戸錠によると、マンネリを避けるために、毎回キャラクターづくりを徹底する。すると完成作を見た脚本家の山崎巌が、次の作品で錠のその仕草をシナリオに書き込む。さらに錠は新たなアイデアで撮影に望むという。その切磋琢磨ぶりは、トニーとジョーの冒頭のやりとりから冴え渡っている。

 ライバル同士が同じ列車で出会う、しかも向い合せの席で! 網棚からジョーの荷物が落ちると中から札束が。すかさず胸ポケットに手を入れるトニーとジョー。ここで二人がある種のプロフェッショナルだと観客に伝える巧みな構成。物語では前作との関連性はないが、観客にとっても出演者にとっても「拳銃無頼帖」の物語は続いているわけである。

 今回のトニーは、“早撃ちの竜”壇竜四郎。錠は、拳銃使いにしてダイヤモンドの鑑定人“コルトの謙”。アイビースタイルで、ストライプのハンチングに、ストライプのスーツ。前作のラフなジーンズとは一転、東京から来たお洒落野郎という感じである。

 謙が「わずか二年ばかりでムショボケするのは、チッとばかり早かねえかい?」と、竜四郎が刑務所帰りであることを見抜く。そのことを竜四郎が問うと、謙が竜四郎の服を指して「そいつは二年前の流行もんじゃねえかよ」。ファッションにこだわっているキャラがここで活かされているのである。

 脚本は第一作に続いて、「渡り鳥」「流れ者」のメインライター、山崎巌。二人の会話にはさらに磨きがかかっている。例によって、対決にこだわる謙は「覚えときな、今度、お前がそいつを使うのは、オレとサシでやる時だぜ」。竜四郎「断るぜ、オレにはあんたと勝負なんかする理由はねえよ」。謙「オレにはある。この町でオレぐらい腕の立つ奴は、二人も必要ねえってことさ」。

 中盤、いよいよ対決かという橋の上のシーンもいい。背中合わせになり、正攻法の決闘となるも、決着はつかず。謙「勝負はどうなったんだい?」竜四郎「あらためて、やる。こうなったら逃げやしねえよ」と銃を返そうとするが、謙「持ってろよ」、竜四郎「気前がイイな」、謙「質屋じゃあるめえし、出し入れが面倒くせえやな」。

 今回の舞台は能登半島。金沢市だけでなく、珠洲市などロケ地は、石川県の広範囲に渡っている。クライマックスの勇壮な祭りのシーンなど、シリーズ人気、日活アクション人気によるロケ誘致が盛んだったことが映像の充実ぶりに伺える。金沢駅のカットの次が、輪島だったりするのは、映画の嘘のご愛嬌。

 宍戸錠氏所蔵の撮影台本を拝見すると、このシーンのト書きの横に「食べる」との書き込みがある。この映画のコルトの謙(宍戸錠)は、いつもポップコーンを頬張っているが、シナリオにはその指定がない。この「食べる」という書き込みは、キャラクターを豊かにするためのアイデアなのだ。

 中盤、中華料理屋のシーン。もくもくと謙が料理をほおばっていると、二本柳寛のボスが入ってきて、謙側のボスである藤村有弘と密談をはじめる。席を外す前に、謙は料理を手際良く小皿に取る。さらに、廊下でチンピラともめそうになった時に、その料理を差し出す。ユーモラスな名シーンだが、これぞ宍戸錠流のキャラ造型なのだ。この「食べる」行為はクライマックス、藤村のボスの目的が明らかになるシーンでさらにリフレインされる。謙が差し出すポップコーンを口に入れた藤村が一言「ショッパイ」。その間のよさ。

 「拳銃無頼帖」はヒロインとの濃密な関係が描かれている。この映画からトニーと名コンビを組むことになる笹森礼子との関係も複雑だ。“早撃ちの竜”が服役を終えて戻ってくると、彼を待つはずの恋人・ユリがなぞの死を遂げている。竜四郎がその恋人と見間違えるのが、ユリの妹・則子(笹森礼子)。観客は以後、竜四郎と同様、則子を「亡くなった恋人と瓜二つ」の女性として認識することになる。こうした設定がドラマに陰影をうまくつけている。

 また、前作『電光石火の男』で日活デビューを果たした吉永小百合が初々しい。出演シーンは少ないが可憐な妹として強い印象を残している。笹森礼子、吉永小百合は、この当時「日活パールライン」として売り出されていた。

 前二作では最期に死んだジョーも、今回は自首する。次回作への期待を持たせてくれるラストである。シリーズならではのディティールの楽しさを味わう。それがこの映画の正しい楽しみ方だろう。

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