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『空気の無くなる日』(1949年・日本映画社・伊東寿恵男)

昨夜は、明治42年ハレー彗星の接近で、5分間だけ「空気が無くなってしまう」との噂を、真に受けてしまった、北陸地方のとある村の騒動を描いた『空気の無くなる日』(1949年・日本映画社・伊東寿恵男)を久々に観た。

1910年、ハレー彗星接近に伴い、フランスの天文学者・カミーユ・フラマリオンの「彗星の尾に含まれる水素が、地球の空気中に酸素と化合すれば、人類は窒息してしまう」という説が、5月19日の大阪朝日新聞に報じられて、大騒動となった。

原作は岩倉政治が1947年に発表した児童文学。ぼくは『地球最后の日』の原作「地球爆発」とともに、小学校の図書室で読んだ。というか愛読書だった。パニックSFとして^_^ 映画版も、小学校の視聴覚教室で16ミリで上映されて観た。おそらく、最初に観た昭和20年代の映画だろう。

ナレーションは、文学座の中村伸郎さん。北陸の小学校の校長に、深見泰三さん。自転車屋の親父に花沢徳衛さん。新劇の巨人たちが、のんびりした村の騒動を、豊かな表現力で演じている。トップシーン、中村伸郎さんの解説でアニメーションで天体の動きが丁寧に説明さて、ハレー彗星がもたらす気候変動を、渡辺善夫さんのリアルな作画でヴィジュアル化。「マグマ大使」や『大魔神』三部作の作画合成を手がけた渡辺善夫さんの画は、当時の子供たちを戦慄させたことだろう。合成は、東宝特殊技術課から派生した東宝合成課が手がけていて、そういう意味では戦後初の東宝特撮によるディザスター描写が味わえる「特撮映画」でもある。

キャスト

深見泰三、花沢徳衛、河崎堅男、平山均、佐々木浩二、河合健児、大町文夫、望月伸光、榊田敬二、大塚秀雄、高野二郎、日方一夫、島田敬一、北島多恵子、小沢經子、田中筆子、小松千歳、馬野都留子、春野音羽、原緋紗子、木匠久美子、戸田春子、鏑木ハルナ、瀧鈴子、一色勝代、登山晴子、児童劇団「銀河座」

スタッフ

演出・伊東壽惠男、吉田庄太郎、菅家陳彦 撮影・大小島嘉一、藤田正美 録音・酒井栄三、片山幹男 照明・日野正男 音楽・武田俊一 美術・田邊達 進行・水上喜三治 特殊技術・東宝合成課

北陸地方のとある村。ある日、子供たちの貯金を町の郵便局に入金に行った、小学校の小遣いさん(河崎堅男)が、「空気の無くなる日」が近づいている噂を聞いてくる。

半信半疑の校長先生(深見泰三)、役場まで真相を確かめに行くと、11月20日にハレー彗星が最接近する、正午から5分間、地球上の空気が無くなると聞いて大慌て。早速、生徒を集めて、桶や洗面器に水を汲んで、息を停める練習を開始。しかし、5分間は、どうやっても不可能。その時が、刻一刻と近づく。

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のどかな、田舎の村に戦慄が走る。一体、どうしたらいいのか? いよいよ「空気がなくなる」その時に、タイヤのチューブに詰めた酸素を吸えば大丈夫と、村の金持ちが金にあかして、買い占めてしまう。一円五十銭の自転車チューブを法外な値段で売りつける豪着く親父を、若き日の花沢徳衛さんが演じているが、すでに花沢徳衛さんの、あのキャラが確立しているのがおかしい。

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特撮は、東宝合成課(合成 向山宏)、鷺巣富雄(イントロ部分のアニメーション)、渡辺善夫(合成作画)が担当。アニメーションで太陽系の動きを的確に描写したり、東宝特撮チームの技術の確かさを楽しめる。

伊東壽惠男監督は、戦前から東宝文化映画部で、数々の文化映画を手がけてきた。昭和16(1941)年、映画会社統合で、東宝文化映画部が日本ニュース社など文化映画製作会社が開組されて社団法人・日本映画社となる。そこで『戦場にかける橋』(1957年)で知られる泰緬鉄道建設の記録映画を製作。昭和20(1945)年9月には、長崎県出身ということもあり、原爆投下後の広島、長崎で『広島・長崎における原子爆弾の効果』の演出を小畑長蔵、奥山大六郎、山中真男、相原秀二とともに手がけている。

この映画は、文部省選定作品として、昭和25(1950)年に映画配給会社「共同映画」の配給網にのって、全国の学校で巡回映画として上映されることになる。昭和29(1954)年には、劇場公開された。


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