『忠臣蔵』(1958年4月1日・大映京都・渡辺邦男)
娯楽映画研究所シアターで、大映オールスター大作、渡辺邦男監督『忠臣蔵』(1958年)。Amazonプライムの「シネマコレクションby KADOKAWA」で視聴。大映京都の総力を結集しての一大絵巻。緊張感、緊迫感は薄く、映画的なエモーションは今ひとつだが、お馴染みの「忠臣蔵」の物語をゆったりと、ご存知のエピソードで綴っていく166分。つまり『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』とほぼ同じ尺。
長谷川一夫さんが大石内蔵助、市川雷蔵さんが浅野内匠頭、勝新太郎さんが赤垣源蔵。赤穂サイドが大映スターで、吉良上野介には劇団民藝の重鎮・新劇の巨人・滝沢修さん、柳沢出羽守には清水将夫さん、千坂兵部には小沢栄太郎さん、吉良サイドが新劇の重鎮という「大映VS新劇」の構図。
とにかく絢爛豪華、モンタージュや編集でリズムを作るのではなく、長谷川一夫さん、市川雷蔵さんたちを、適度なアップを交えて写していくことで観客の気持ちを昂めていく。
まずは、浅野内匠頭に意地悪をしまくる吉良上野介パート。増上寺畳替え→烏帽子取り違え→松の廊下。滝沢修さんが「田舎侍」を連発。徹底的に嫌なヤツを好演!
で、赤穂城明け渡しまでの赤穂での評定パート。脇坂淡路守(菅原謙二)は、ここで登場。東映版の中村錦之助さんよりは「イイ人」度が薄い。その代わり、本作での最高に「イイ人」は、黒川弥太郎さんの多門伝八郎。内匠頭切腹の場から、町人に化けた岡野金右衛門(鶴田浩二)へのアドバイス、吉良家の絵図面を渡すなど至れり尽くせり。さらに東上してきた大石内蔵助に対しても本音を伝え、本懐を遂げた後、ラストにも見せ場がある。他の作品での脇坂淡路守、千坂兵部、立花左近が受け持っていた「イイ人」を一手にになっている。
本作には、立花左近は登場せず、史実に則って垣見五郎兵衛(中村鴈治郎)と、内蔵助の「腹芸」シーンをたっぷり見せてくれる。展開は、いつもの通り。もともと立花左近は、マキノ省三監督が『実録忠臣蔵』(1922年)で創出したキャラクター。浪曲では垣見左内。いずれも「勧進帳」をベースにした「忠臣蔵」最大の見せ場の一つ。
瑤泉院には山本富士子さん、内蔵助に惚れてしまい、千坂兵部を(結果的に)裏切る事になる女間者・おるいに京マチ子さん。そして岡野金右衛門に惚れ抜いて吉良邸改築後の絵図面を渡す大工の娘・お鈴に若尾文子さん。大映三大女優も、それぞれ見せ場がタップリ。特に、一力茶屋に潜入したおるいは、京マチ子さんが演じているだけに、どの作品よりもウエイトが重い。三船プロ「大忠臣蔵」の隠密・お蘭(上月晃)のキャラクターは、この京マチ子さんのおるいに一番近いかも。
討ち入り直前には、三つの別れがドラマを盛り上げる。勝田新左衛門(川崎敬三)と義父・大竹重兵衛(志村喬・特別出演)との別れ。赤垣源蔵(勝新太郎)が兄に別れを告げにいくも不在。そして岡野金右衛門とお鈴の(来世での)夫婦約束。いずれも講談などでお馴染みのエピソード。これがないと「忠臣蔵」を見た気がしない、という大衆が「待ってました!」と声を掛けたくなる、エピソードである。
そして、無事本懐を遂げての勝利の朝、増上寺までの赤穂浪士たちの凱旋で、それぞれのキャラクターが縁ある人と再会、別れを告げる。で両国橋を立場上、渡らせまいとする大目付・多門伝八郎が、内蔵助の労を労うシーンがいい。「永代橋なら」問題ないとまたまたアドバイス。で一行が反転すると、永代橋近くで、瑤泉院が、浪士たちに頭を下げる。
チャンバラや、アクションは、そんなに見せ場がないが「大映歌舞伎」ともいうべき、極め付けの展開は「忠臣蔵」ってどんな話?を知るには最適かも(笑)そして大映スター・カタログとしては最高の一本!