見出し画像

『モーガン先生のロマンス”Vivacious Lady”』(1938年・RKO・ジョージ・スティーヴンス)

ハリウッド・コメディ研究。芳醇の1930年代後半、RKOでジェームズ・スチュワート、ジンジャー・ロジャース主演で作られたジョージ・スティーブンス製作・監督”Vivacious Lady”(1938年)をDVDで。日本未公開だが、テレビ放映、DVD化タイトルは『モーガン先生のロマンス』。これまた快作。テンポといい展開といい、この時期のハリウッドのコメディの充実を堪能できる。

 ジョージ・スティーヴンス監督はモンゴメリー・クリフトとエリザベス・テイラーの『陽のあたる場所』(1951年)やアラン・ラッドの『シェーン』(1953年)、ジェームス・ディーンの『ジャイアンツ』(1956年)など戦後のハリウッド・クラシックスの巨匠。1930年代はRKOでフレッド・アステア&ジンジャー・ロジャースの『有頂天時代』(1936年)やアステア&ジョン・フォンティーンの『踊る騎士』(1937年)などの粋なミュージカル・コメディを得意としていた。本作はアステアの相手役のイメージが強かったジンジャー・ロジャースをフィーチャーして『ステージ・ドア』(1937年)で高い評価を受けた、ロジャースの女優としての魅力を引き出すために企画されたもの。

 原作は、1936年に I. A. R. ワイリーが発表した短編"Vivacious Lady"。若き助教授がナイトクラブ・シンガーが恋に落ちる瞬間を描いた短編小説。それをハリウッド流のコメディに仕立てている。ジェームズ・スチュワートのとぼけた味と、ジンジャー・ロジャースの魅力が満載のスピーディなコメディ。

 ストーリーはシンプル。田舎町オールド・シャロンからやってきた大学助教授、ピーター・モーガンJr.(ジェームズ・スチュワート)が、ニューヨークで踊り子の虜になってしまった従兄弟・キース・モーガン(ジェームズ・エリソン)を連れ戻そうとナイトクラブへ。厳格な大学学長の父・ピーター・モーガン・シニア(チャールズ・コバーン)からの厳命を受けてのことだった。

 このナイトクラブのトップシーンがRKOらしいゴージャスさ。くだんの踊り子は、ナイトクラブのスター・フランシー(ジンジャー・ロジャース)で、ピーターは彼女に一目惚れ。従兄弟のキースをほったらかしにして、フランシーをお持ち帰り。二人で夜のニューヨークへ。朝まで一緒に過ごした二人は、なんと結婚してしまう。二人で深夜、トウモロコシを食べながら話すシーンが、とても良い。

 新婦・フランシーを連れてピーターは、オールド・シャロンへ帰ってくる。と、ここまではロマンチックな展開だけど、ガチガチのモラリストの父親がその結婚を許すはずもない。しかもピーターには父が決めた婚約者・ヘレン(フランシス・マーサー)がいて、早速、フランシーと火花を散らすことに。さらにピーターの母・マーサ(べウラ・ボンディ)は心臓が弱くて、その話をなかなか切り出せない。

 果たしてピーターの両親は、二人の結婚を認めてくれるのか? これだけのプロットで90分。笑いと(彼らにとっては)サスペンス満載でスピーディーに物語が展開している。ジェームズ・スチュワートが、お人好しだが両親には頭が上がらない優柔不断な息子を好演。ジンジャー・ロジャースは、フレッド・アステアのミュージカル映画で連続主演をしていたトップスターなので、その可愛さ、セクシーさも貫禄がある。コメディエンヌぶりをいかんなく発揮している。

 なんとか父に認めてもらおうと、大学のパーティにフランシーを紛れ込ませて紹介しようとするも失敗。ならば、フランシーを大学の授業に紛れ込ませたりと、あの手この手。何をやっても逆効果。ミュージカル映画やコメディでもお馴染みのチャールズ・コバーンの頑固親父ぶりもなかなか楽しい。

 頑固親父に(実は)反発しているのが、ピーターの母親・マーサ。心臓病も仮病で、夫が横柄な態度をしたり、乱暴な言動をするときに「心臓が痛い!」となれば優しくしてくれる。つまりトラブル避けのためだったことが後半、明らかになる。

 前半の大学のパーティで、フランシーがタバコに火をつけていると、マーサが「一本くださる」と、二人でタバコを吸うシーンがある。一本しかないタバコを二つに折ってシェアする。夫に振り回されている二人の女性がシンパシーを感じる演出。これがリフレインされて、ラストの「あれよあれよ」で生きてくる。

 もう一つ、フランシーが止まった「女性専用ホテル」のベッドが、壁に収納するスタイルで、クローゼットの引き戸を開けただけで、ベッドがパタンと出てくるというギャグがルーティーンで展開。

 クライマックス、両親に認めてもらえないならニューヨークに帰ると別れを決意したフランシー。仕方ないとピーターも諦めかける。ニューヨーク行きの汽車の時間が迫る。ピーターがホテルの部屋に忍び込んでの「別れのシーン」。なんとか引き止めたいピーターと、なんとか引き止められたいフランシー。

 ここでベッドが壁から出てきたら、二人は結ばれるのに。というタイミングで、ピーターが一生懸命引き戸を開けたり、ドアを開け閉めしたりするけど、ベッドは出てこない。この「イライラ」する笑いもいい。

 結局、ピーターは「発車までに親父を説得する」と言い残してホテルを飛び出す。NY行きの汽車のコンパートメントで、ピーターを待つフランシー。果たして最後の説得はうまく行ったのか?

 しかし、汽車は動き出す。フランシーは声をあげて泣く。黒人の車掌が気を遣ってハムサンドを持ってきたりするも、泣きの涙のフランシー。隣のコンパートメントの女性も泣いている。隣の老婦人、車掌に「タバコ買ってきてくださる?」。なんと老婦人は、ピーターの母・マーサだった。また、一本のタバコをシェアする二人。マーサはわからずやの夫に愛想を尽かしてニューヨークへ行く決意。果たして…

「父親が息子の結婚を認めるか?」だけのワンアイデアで、ここまでハラハラドキドキのコメディを作ってしまう。さすがハリウッド黄金時代。はるかのち1960年代に、スティーブ・マックィーン主演でリメイクが企画されたが結局は映画化されなかった。


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。