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『別働隊』(1950年・パラマウント・ミッチェル・ライゼン)

 アマプラで連夜のアラン・ラッドのフィルム・ノワールをスクリーン投影。1940年代から50年代にかけてのパラマウントの娯楽映画の充実を楽しんでいる。今回は、ナット・キング・コールの大ヒットで知られる「モナ・リザ」(作詞・レイ・エヴァンス 作曲・ジェイ・リビングストーン)が主題歌のミステリー・サスペンス『別働隊』(1950年・パラマウント・ミッチェル・ライゼン)を久しぶりに観た。原題は”CAPTAIN CAREY, U.S.A.”。子供のころ、よくテレビの昼間の映画枠で放映されていた。



 製作は先日の『暗黒街の巨頭』(1949年)のリチャード・メイボーム。のちに『007は殺しの番号』(1962年)から『007/消されたライセンス』(1989年)までボンド映画の脚本を手がけることになる。アラン・ラッドとは親しかったそうだ。

 1944年。北イタリア戦線。ナチスドイツが支配するミラノ近くの湖畔地域。アメリカのOSS(戦略事務局)のケイリー大尉(アラン・ラッド)は、戦友・マイケルと共にパラシュートで降下。湖にあるド・グレフィ伯爵の古城の隠し部屋を基地に、北イタリアのパルチザンたちを指揮していた。そのパルチザンたちが、敵が近づいた時に、口笛やアコーディオンで演奏するのが「モナ・リサ」である。後年のラブソングのイメージとは真逆、本作ではスパイの暗号であり、戦争と虐殺の苦い記憶の曲として流れる。

 そのケイリー大尉と相思相愛になっていたのが、城の娘・ジュリア(ワンダ・ヘンドリックス)。彼女は、ケイリーたちに食料を届け、他のパルチザンとの連絡係もしていた。しかし、ある夜、何者かの密告により、古城のアジトはナチスに急襲され、マイケルは射殺され、ジュリアもナチに連行され別室から銃声が聞こえた。ケイリーは瀕死の重傷を負い、生死の境を彷徨ったが、無事生還。最愛の女性・ジュリアを喪った悲しみのなか、空虚な戦後を生きていた。

 しかしある日、アメリカの画廊でケイリーは、ジュリアが大切にしていた伯爵家に伝わる絵画を見つける。誰がこの絵をアメリカに持ち出したのか?あの時の密告者に違いない。ジュリアを殺した裏切り者への復讐を誓って再び、北イタリアを訪れるケイリーだったが…

 冒頭の数分間で、観客をグイッと惹きつける。ミステリアスな滑り出し。自分のアイデンティティを喪失した主人公が、再び過去と向き合い、現在に横たわる大きな陰謀と対峙することになる。まるで石原裕次郎と浅丘ルリ子の日活ムードアクションのような展開だが、この『別働隊』は、ハンフリー・ボガートとイングリット・バーグマンの『カサブランカ』(1942年・マイケル・カーティズ)を意識した「戦争によって引き裂かれた恋人たちの現在」の物語である。裕次郎のムードアクションは、『カサブランカ』『第三の男』(1949年・キャロル・リード)と、この『別働隊』の影響が相当色濃く反映されている。『カサブランカ』は『夜霧よ今夜も有難う』(1967年・江崎実生)、『第三の男』は『赤いハンカチ』(1964年・舛田利雄)だとすると、『別働隊』は『二人の世界』(1966年・松尾昭典)を思わせる。

 北イタリアに戻ったケイリーの前に、死んだはずのジュリアが現れる。しかも彼女には政治家の夫・ド・グレフィ男爵(フランシス・レデラー)がいた…。彼女の復讐を誓っていたケイリーは、驚き、虚無的な気持ちになる。自分にとってこの数年間はなんだったのか…。この喪失感は、まさに裕次郎映画で繰り返される主人公の屈託でもある。そのままアメリカに帰国しようとしたケイリーだったが、裏切り者の情報を持っているかつてのパルチザンが何者かに殺されたことから「現在の闘い」が始まる。次々と殺される関係者。警察はケイリーを容疑者としてマークする。果たして犯人は? ナチスに自分たちを売った密告者は、誰なのか?

 ここからの展開は見てのお楽しみ。舞台はミラノに移り、風光明媚な北イタリアの風物が描かれるが、撮影は全て「メイドイン・ハリウッド」。主要な場面はパラマウントのステージ組まれた巨大なセットで展開される。これもまたハリウッド黄金時代ならでは。

 パルチザンたちは、密告によってナチスに28人も処刑されてしまい、村人たちはその元凶であるアメリカ人・ケイリーに憎悪の目を向ける。拭い去れない戦争の傷痕。その怒りは生々しく、本作の重要なテーマとなっている。このあたりの「人々の拭い去れない傷」も日活アクションのエッセンスとなっていく。

 アラン・ラッドは、今回、かなりハードボイルドなキャラクターで、誰も信じることができない「喪失感」を抱いている孤独な男。これがなかなか魅力的。ヒロインを演じたワンダ・ヘンドリックスは、ユナイトの『風變りな戀』(1948年)や、FOXのタイロン・パワー主演の剣戟映画『狐の王子』(1949年)に出演していたハリウッド・ビューティ。本作では、戦時下にけケイリーとの燃え上がる恋、戦後、政略結婚で表情を失った美貌の人妻として登場。彼女も「裏切り者かも?」というサスペンスを孕んで物語が展開していく。

主題歌「モナ・リザ」は随所にメロディーが流れるが、僕らの知っている歌詞はレコード化の際につけられたもの。映画の公開とともにリリースされ、ナット・キング・コールの歌声は、1950年、8週連続全米一位を記録する大ヒットとなった。


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