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『堀部安兵衛』(1936年12月17日・日活=太秦発声・益田晴夫)

 昨夜の「CCU=忠臣蔵・シネマティック・ユニバース」は、昭和11(1936)年、日活京都作品、黒川弥太郎主演『堀部安兵衛』(1936年12月17日・日活=太秦発声・益田晴夫)を、Amazonプライムビデオで。戦後、大映オールスターの『忠臣蔵』(1958年)”イイ人”多聞伝八郎を演じた黒川弥太郎さんが、飲んだくれの中山安兵衛から、赤穂藩士・堀部安兵衛となり、討ち入りで大活躍する「忠臣蔵」映画

 益川晴夫監督は、日活大将軍、日活太秦で昭和の初めから時代劇を撮ってきたベテラン。トーキーは『仇討禁止令 』(1936年10月29日)に次いでの第二作。なので、益田監督の演出は、サイレントのスタイルで、誰も彼もが目を剥いて、オーバーな芝居をする。コメディ・タッチなので喜劇かというと、観客にわかりやすくするための娯楽映画の常套としてのコメディ場面の連続。

 タイトルバックは、叔父・菅野六郎左衛門(実川延一郎)が、高田馬場で決闘と知った中山安兵衛が、走る、走る、走る! 八丁堀の長屋の連中、おかん婆ァ(小松みどり)、茂十(和田君示)、六助(大崎史朗)たちも、お祭り騒ぎのように、大騒ぎで、高田馬場に向かう。

 菅野六郎左衛門が斬られ、絶体絶命の時に、安兵衛がようやく到着。「この仇は必ず〜」と、講談さながらのタップリの芝居を見せてくれる。前夜、阪東妻三郎さんの極め付け『血煙高田馬場』(1937年・マキノ正博・稲垣浩)を観ていたので、黒川弥太郎さんの安兵衛に、いささかパワー不足を感じる(個人の感想です・笑)。

 宿敵・中津川祐範(伊田兼美)と対峙する安兵衛。そこで「縄の襷は不吉」と声をかけたのが、浅野家の堀部弥兵衛(横山運平)。日活京都のバイプレイヤーで、日本最初の劇映画『ピストル強盗清水定吉』(1899年)に警官の役で出演した、日本最古の映画俳優である。『エノケンのがっちり時代』(1939年・東宝)で霧立のぼるさんの父親を演じたり、『忠臣蔵』1939年・東宝) では門番久助、戦後、東宝オールスターキャストの『忠臣蔵 花の巻・雪の巻』(1962年・東宝・稲垣浩) で 平五郎の叔父を演じたのが遺作となった。

 この堀部弥兵衛が、娘・八重(花井蘭子)に襷を出させて安兵衛に投げる。お馴染みのシーンとなる。この「十八人斬り(史実では三人)」の大活躍に惚れ込んだ弥兵衛が、安兵衛に浅野家士官、お八重の婿にと、長屋を日参、口説きに口説く。飲んだくれの安兵衛は、気ままな浪人暮らしがいいと、取り合わない。

 前半は、弥兵衛が安兵衛を口説いて、なんとか浅野家に士官させようとする姿が、ややオーバー気味にコミカルに描かれている。婿入りを観念した安兵衛が出した条件は、毎月15日と月末に、長屋の連中に金を渡すこと。長屋の仲間思いなのである。だけど、長屋の連中、その金をあてにして飲んじゃうから、なんだかなぁだけど。

 一方、高田馬場で斬った中津川祐範の弟・祐次郎(市川百々之助)が安兵衛を兄の仇と斬りかかるが、相手にならず、結局町人となり、酒屋「酒文」の主人となる。この「酒文」が、吉良家出入りの酒屋となり、後半に活きてくる。

 浅野内匠頭(市川正二郎)、大石内蔵助(市川小文治)に御目通りの当日、酒に酔った中山安兵衛が座敷で寝てしまう。内蔵助はその豪快さに理解を示すのがいい。内匠頭は、寝ている安兵衛を槍で突こうとするが、身軽な安兵衛、寝ながら、ゴロリ、ゴロリと主君の槍を躱す。こちらも講談でおなじみのエピソードである。

 その夜、責任を感じた弥兵衛が切腹してお詫びをしようとする。猛省した安兵衛は「すべての罪は中山安兵衛がしたこと、今日から堀部安兵衛となります」と、ここでようやく「堀部」を名乗ることを表明。それでいいのか? いいんだよ、というのが講談の世界(笑)

 で、次のカットが元禄十四年三月十四日、浅野内匠頭が吉良上野介(山田好良)に刃傷。伝令として早馬で安兵衛が赤穂城へ(この世界では萱野三平ではなく)。江戸を出立するときに「15日だから約束のお金!」のおかん婆ぁたちに「達者でな」と有り金を渡す(律儀な男だねぇ)

 さて、赤穂城では、仇討ちを否定する内蔵助の真意を計りかねた安兵衛が刃を向けたり、色々あって(ほんの数分間だけど)。内蔵助は安兵衛に「江戸へ行け」と指示。いよいよ、赤穂浪士たちが町人となって、討ち入りのチャンスを窺うお馴染みの展開へ。

 吉良家には、上杉家から派遣された不成者の用心棒軍団が配備される。その筆頭・小林平八郎(上田吉二郎)が本作のヴィラン。若き日の上田吉次郎さん、ノリノリのワルワル。岡野金五右衛門(林雅美)が、大工の娘・おみつ(沖津麗子)から吉良邸の絵図面を持って来てもらったりと、気持ち良いほど、お馴染みのエピソードが手際良く紹介される。

 八百屋に化けた安兵衛は、おかん婆ぁの余計な一言で、小林平八郎に身バレしてしまう。これでは吉良邸に入れないと、吉良邸出入りの酒屋「酒文」に駆け込み「出入り札」が欲しいと主人に。なんとその主人は、自分を仇と狙っていた祐次郎(市川百々之助)だった。顔と顔。無言の二人。「酒文」の主人は、黙って「出入り札」を安兵衛に渡す。

 というわけで、戦前、日活京都の娯楽時代劇とは、こういうスタイルだったんだと、笑い→見せ場→笑い→見せ場→チャンバラの展開を見ながら、なるほどと納得。


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。